第462話
「待たせてしまいましたね」
「いえ、わたし達こそ、遅くなってしまいすいません」
「気にしないでください。こちらの頼みを無理を言って聞いていただいているのですから」
ジルの店で軽食を終え、3人はアズの屋敷に向かった。
3人が応接室に案内され、しばらくするとアズが応接室に入ってくるが隠そうとはしているようだが、その顔には疲労の色が見える。
「……」
「ジーク、どうかしましたか?」
「いや、やっぱり、疲れていますよね」
ジークはアズの顔を覗き込み、彼の突然の行動にアズは驚きの声をあげた。
アズの声にジークは反応する事無く、マイペースにいつも持ち歩いている薬入れから栄養剤を取り出す。
「そ、それは要りません」
「……どうして、みんなこの反応なんだ?」
出てきた栄養剤を見てアズの顔色は蒼くなり、ジークは彼女の姿に大きく肩を落とした。
「それが栄養剤と言う名の毒薬だからよ」
「不味い事は否定しないが毒薬と言われるのは納得がいかないが、飲めない物を薦めるほど俺もしつこくない」
フィーナは眉間にしわを寄せながら栄養剤を毒と言い切り、ジークはもう1度、ため息を吐くと持っていた栄養剤を指差し、よく見るように言う。
「あ、これはセスさんのために作った栄養剤ですね」
「いつもの方は短期接種に向いてるけど、こっちは長期的に摂取するには良いみたいなんでな。これ、不味くないんで飲んで見てください」
「あ、ありがとうございます」
ノエルは栄養剤を覗き込み、栄養剤がジークがセスのために調合した栄養剤だと気づく。
セスの体調の変化から新しい栄養剤の効果も確認をしているようでアズに栄養剤を手渡すが、アズはだまされていないかと思っているようで手の中の栄養剤に疑いの視線を向けている。
「……なぜ、疑うんですか?」
「い、いえ、そう言うわけではありません」
「だ、大丈夫です。こっちの栄養剤は美味しいですから」
「そうですか? それではいただきます」
眉間にしわを寄せるジークの姿にアズは彼の気分を害してしまったと思ったようで慌てて首を横に振るが手は一向に動く気配はない。
ノエルはアズの背中を押すように今、アズが手にしている栄養剤は不味くない事を話し、アズは1度、大きく頷くと覚悟を決めたようで一気に栄養剤を飲み干す。
「……美味しいですね」
「……どうして、信じられないと言う顔をするんですか?」
アズの予想に反して口の中には旨味が広がって行き、彼女は驚きが隠せないようであり、何度もジークと栄養剤の瓶を交互に見る。
ジークは疑われる意味がわからないと言いたげにため息を吐いた。
「まぁ、それほど、おばあちゃんの栄養剤の不味さが異常だって事でしょ」
「何を言ってる効果は誰も疑わないぞ」
「……それは見てればわかるわよ。だけど、飲みたいとは思わないわ」
フィーナは大きく肩を落とすが、ジークに取ってはやはり薬は効果が1番と考えている部分もあり、効果を重要視している。
フィーナはカイン、リック、ラング、王城の兵士達、ジオスにくる冒険者達と以外に常用者の多い栄養剤の事を認めてはいるようだが、自分では飲む気にはならないようで眉間にしわを寄せた。
「そ、そうですね」
「確かにジークには悪いですが、あの姿を見ていると飲みたいとは思いません」
フィーナの言葉にノエルは大きく頷き、アズは栄養剤を飲んで直ぐに1度、吐きだしそうになるリックの姿を思い浮かべたようで苦笑いを浮かべる。
「納得がいかないな」
「それより、ジーク、本題に入らなくて良いの? 私達が帰らないとあっちで夕飯にならないでしょ」
「そうですね」
納得がいかずに眉間にしわを寄せるジークにフィーナは夕飯が気になるようで速く本題に移るように言う。
アズはその言葉で大きく頷くと応接室に持って入ってきていた書面をジーク達の前に置く。
「預かります……あの、アズさん、ルッケルとワームの街道整備って大丈夫ですか?」
「聞いてしまいましたか?」
「は、はい。あまり、上手く行っていないような事を聞きました。わたし達にお手伝いできる事はありませんか?」
ジークは書面に手を伸ばした後、ジルの店に聞いた話が気になったようで言いにくそうに聞く。
ジークからの質問にアズは困ったように笑うとノエルは何か力になれないかと言いたいようで話を聞かせて欲しいと詰め寄る。
「と言っても、できる事って限られてるだろうけどな」
「ジークさん、どうして、そうやって話を折るんですか?」
ジークもアズを助けたいとは思ってはいるものの自分ができる事などたかが知れている事も理解しており、ため息を吐く。
ノエルはジークの物言いが納得できないようで頬を膨らませて彼に詰め寄る。
「いや、俺達、状況も理解できてないわけだしな。それにただ感情でぶつかり合ってるか? 他に理由があるかで変わってくるだろ? 感情的にぶつかってるだけなら、変に口を出すと余計にこんがらがる事もあるしな」
「そうですね」
ノエルの様子にため息を吐くジークは状況を理解する事を第1だと答え、アズは方向性は異なるが感情的になるノエルとフィーナを交互に見た後に2人に挟まれているジークを見て苦笑いを浮かべた。
「実際、現場で起きてる事をアズさんが調べるのは難しいだろ。特にアズさんはルッケルの領民に好かれてるし、迷惑かけたくないとも思うだろうしな」
「それはそうかも知れませんけど」
「こう言う時、カインなら裏で調査してるんだろうけどな。そう言うのはアズさんは無理だろうし」
「あいつは人間のクズだから、それぐらい平気でやるわね」
領主と領民の距離が近いルッケルだが、その面が悪い方向に進んでいるのではないかとジークは頭をかいて言う。
ノエルは彼女自身もアズの事が好きであり、迷惑をかけたくないと言う気持ちもあるため、言葉を積むんでしまった。
ジークはアズが揉め事の詳細をつかんでいないと判断しており、どうにか詳細をつかめないかと考え始めるとカインの顔が浮かんだようで眉間にしわを寄せ、フィーナは直ぐにジークに同意を示す。
「フィーナはカインをもう少し信用した方が良いですね」
「それに関しては同感だけどカインだからな。あいつに何かできないか聞いてみるか?」
「そうね。アズさんに迷惑がかからない程度に何か考えさせるわ」
苦笑いを浮かべるアズにジークは同感だと頷きつつもカインの良く回る頭の有効性は理解しており、カインに協力を仰いで見ようと言い、フィーナはアズに迷惑は絶対にかけさせないと決意を固める。