第460話
「何を考えてるのよ?」
「何と言うか。卵と判断できたけど、何の卵かはわからないわけだし、領主としてはどうするべきかと思ってね」
カインの様子にフィーナは首を傾げるとカインは卵から何が産まれてくるかわからないため、どうするべきかと眉間にしわを寄せた。
「ど、どうするって、捨ててこいって言うんですか!?」
「……まぁ、ふ化してみたら、人を食うような魔獣でしたってなると大変だし、簡単にここでふ化を待とうって判断はできないね」
ノエルの中では卵とわかった時点でふ化を待つ事になっていたようで驚きの声をあげると卵を守るように抱え込み。カインは彼女の様子に苦笑いを浮かべるものの、フォルムの住人の安全を考えているようで首を横に振る。
「そ、そんな」
「えーと、あれでしょ。あんたの先生に一先ず、なんの卵か聞いてきてから判断すれば良いんじゃないの? それで危険なものだったら、産まれる前に言い難いけど処分じゃないの?」
ショックを隠せないノエルだが、フィーナは卵から何が産まれるかも気になるが、カインの言いたい事もわかるようで中立の立場でフィリムに会ってみないかと珍しくまともな意見を言う。
「確かに調べずに処分は乱暴だね」
「今はルッケルでしたっけ?」
「そうだね。ルッケルの鉱山でミミズが巨大化している理由を調べるって言ってたからね。たぶん、ルッケルにいると思うよ」
フィーナの言葉にカインはわざとらしく驚いたような表情をした後に頷く。
ノエルは卵を抱えたまま、フィリムの居場所を確認するとカインは自分の好奇心だけで動くフィリムが本当にルッケルに滞在しているかは自信がないのか苦笑いを浮かべている。
「それなら、ルッケルに行きましょう。連絡係の仕事もあるわけですし? あ、あれ?」
「……ノエル、そう言えば、朝、今日はルッケルに行かないといけないって言ってなかった?」
「そ、そうです。今日はルッケルとワームに行かないといけない日です!? ジ、ジークさん、ど、どうしましょう」
ノエルはルッケルに行く事を決めたようで勢いよく立ちあがった時、何かを思い出して顔を引きつらせる。
彼女の様子にフィーナは心あたりがあったようで小さくため息を吐き、ノエルは顔を青くして頷くとキッチンに向かって駆け出して行く。
「あんた、どうするのよ?」
「すっかり忘れてたよ。困ったね」
ノエルの慌てようにフィーナは余計な仕事を押し付けたカインの責任だと言いたいようで彼を睨みつける。
フィーナからの視線にカイン自身も失念していたようで苦笑いを浮かべると夕飯の準備を代わろうと思ったようで立ち上がり、ノエルの後を追いかけて行く。
「ジ、ジークさん、今日はルッケルとワームに行かないといけない日でした」
「あー、こんな時間だし、夕飯の後で良くないか? 時間は任せるって言ってたし……」
「ジーク、代わるから、先にルッケルに行って来てくれ。後はノエルに聞けばわかると思うけど、ルッケルでフィリム先生に話を聞いてきて」
ノエルはキッチンに入るなり、ジークに急いでルッケルに行かないとと言うが、ジークは夕食の準備が忙しいようで後回しにしようとするものの、先ほどまでの話を聞いていなかったため、ノエルが大事そうに正体不明の卵を抱きかかえている事に怪訝そうな表情をする。
ノエルに遅れてカインがキッチンに顔を出すとジークを追い出すようにキッチンに立つ。
「フィリム先生? 俺、あの人、何か苦手なんだよな」
「良いから、アズ様もジークとノエルを待ってるかも知れないしね。約束してる人間がなかなかこないと仕事にならない事もあるんだ。先に済ませてきて」
「……おかしな仕事を押し付けたお前に言われると何か気分が悪いな」
ジークはフィリムには1度しか会っていないが、その時の印象でフィリムに苦手意識を持っているようで頭をかく。
そんな彼の様子に苦笑いを浮かべながらも早く行けと言い、ジークは手を洗いながらため息を吐いた。
「ジークさん、急ぎましょう」
「急ぐのは良いんだけど、それを持って行く必要があるのか?」
「あるんです」
「そ、そうか? フィーナはお前はどうする? 付いてくるか?」
ノエルは卵をしっかりと抱きしめており、ジークは意味がわからずに彼女が抱きしめている卵を指差して聞く。
ノエルははっきりと必要があると言い切るもなぜか説明する事は無く、ジークは首をひねりながらもキッチンから居間にいるフィーナに同行する意思はあるか確認する。
「そうね。面白そうだから行くわ」
「面白そうってなんだよ?」
「良いから気にしない。夕飯の時間もあるんだから早くする」
フィーナは少し考えるような素振りをした後、やはり卵の正体が気になるようで頷く。
ジークは1人だけ、状況がつかめていないため、大きく肩を落とすがフィーナは気にするなと言い切り、ジークを促す。
「わかったよ。それじゃあ、カイン、ちょっと行ってくる」
「はいはい」
ジークは何かあったら困るため、テーブルに置いておいた魔導銃の入ったホルダを腰に付けると転移の魔導機器を手に取り、3人は光に包まれ飛び去ってしまう。
「何か騒がしいわね?」
「まぁ、夕飯時だし、仕方ないんじゃないか?」
ルッケルの転移先はジーク達の良く利用するジルが経営している冒険者の店の前であり、ルッケルには無事に到着する。
夕食の近い時間になっているため、ルッケルの街中は日が落ち薄暗くなってきているが人々の声が響いており、フィーナは騒ぎ声に首を傾げた。
しかし、ジークは時間が時間のため、仕方ないのではないかと言うとアズの屋敷に向かって歩き出そうとする。
「待ちなさいよ。何かあったのかも知れないし、ジルさんに話くらい聞いてっても良いでしょ?」
「そうですね。挨拶くらいはしておいても良いんじゃないでしょうか?」
フィーナは歩き出そうとするジークの腕をつかむとジルの店を指差し、もっともらしい事を言い、ノエルも賛成のようで大きく頷く。
「別に良いけど……フィーナ、腹が減ったから何か食いたいだけじゃないのか?」
「大丈夫よ。軽い物にしておくから」
「……夕飯、食えなくなっても知らないぞ」
2対1ではどうしようもないとジークは思ったようだが、ジークはフィーナがもっともらしい事を言った事を疑っており、疑いの視線を向けた。
フィーナは否定する事無く、勢いよく店のドアを開けて店内に入って行き、ジークは彼女の背中に大きく肩を落とし、ノエルは苦笑いを浮かべる。




