第456話
「いきなり、これはないだろ!?」
「俺に言うな……遊んでいる余裕はないな」
巨大蛇の1匹が長い胴体をしならせ、頭をバーニアに向かい振り下ろす。
バーニアは地面を転がり、何とかその攻撃を交わすとジークに文句を言うが、ジークの目はすでに鋭い物になっており、魔導銃の出力を調節すると銃口を巨大蛇へと向け、巨大蛇を見据える。
その鋭い視線に何かを感じたのか、巨大蛇の1匹が大口をあげてジークに飛びかかった。
「ジーク、避けろ!!」
「……確か、口の中を狙うんだよな」
バーニアはジークの名を叫び、巨大蛇の攻撃を交わすように言うが、彼の目は冷静に魔導銃の銃口を巨大蛇の口の中に向けている。
「……後2匹」
ジークが引鉄を引くと魔導銃の銃口からは光が放たれ、その光は巨大蛇の口の中に吸い込まれて行く。
光は巨大蛇の口の中で消える事無く、巨大蛇の頭を貫通すると同時に真っ赤な血が噴き出す。
同族の死を見て頭に血が上ったのか、残りの2匹はジークに向かい飛びかかった。
ジークはその攻撃を交わすが魔導銃の出力を上げたためか、2発目を放つまで魔導銃の威力はないようで冷気の魔導銃を放ち、巨大蛇の動きを牽制する。
「……こうやって改めて見ると似ていますね。不思議ですね。武器も戦い方も違うのに」
「どうかしましたか?」
「何でもありません。それより、支援魔法を」
バーニアが体勢を整えるまでに1人で巨大蛇2匹を引きつけているジークの姿にリアーナは過去に見たジークの両親の戦い方に似た何かを感じたようで小さくつぶやいた。
ノエルはそのつぶやきに反応するがリアーナは何もないと首を振るとノエルに支援魔法を頼む。
「は、はい。わかっています」
「……と言うか、ジーク1人で大丈夫な気がしてきたな」
ノエルは大きく頷くと溜めていた魔力を支援魔法に変換しようと魔法の詠唱を始め出す。
バーニアは体勢を整えるためにノエルとリアーナに合流すると巨大蛇2匹を翻弄しているジークの姿に眉間にしわを寄せた。
「そうかも知れませんけどね。ですけど、そうも言っていられないでしょう」
「まあな。血の臭いを嗅ぎつけて増える可能性があるからな……」
「何か気になる事でもあるんですか?」
バーニアは戦闘を長引かせる危険性を危惧しているようで表情をしかめると、彼の表情に何かを感じたようでリアーナは彼に尋ねる。
「……確かに巨大蛇の生息地ではあったんだが、こんなにまとまった数が見つかる事ってないんだよ」
「どう言う事ですか?」
「巨大蛇は群れを成して行動するタイプじゃない」
巨大蛇の皮を何度も取りにきているバーニアは巨大蛇の登場の仕方に違和感を覚えているようであり、頭をかくが直ぐに今はそんな事を考えている時間はないと考え直し、剣を抜いてジークの援護に走り出す。
「……そうですか? ここは王都も近いですし、シュミット様に報告しておきましょう」
「リアーナさん、支援魔法、行きます」
「ありがとうございます」
バーニアの言葉にリアーナはシュミットへと報告する価値があると判断したようであり、小さくつぶやいた時、ノエルの支援魔法が発動したようでリアーナと彼女の剣が淡い光を帯びる。
ノエルは次はジークとバーニアに支援魔法が必要だと判断したようで直ぐに魔法の詠唱を開始する。
「ジーク、変わります。魔導銃で後方から援護を」
「あぁ」
リアーナは前衛に出て巨大蛇の攻撃を受けると言い、ジークに後方に下がるように指示を出す。
ジークは冷気の魔導銃を放ち、一瞬、巨大蛇の動きを止めるとリアーナと入れ替わるように後方に下がり、魔導銃を構えるとタイミングを見計らうように銃口を巨大蛇へと向ける。
「……武器を考えると本来はこの位置なんだけどな」
剣を扱う2人が前衛となり、巨大蛇を相手をする事で本来、中遠距離の攻撃に適している魔導銃を扱うジークはなぜ、いつも前衛に立たされているのか納得できないのか小さくため息を吐く。
しかし、その目は未だ鋭く、巨大蛇2匹を見据えており、巨大蛇は目の前に立っているリアーナやバーニアよりも先にジークを始末しなければいけないと本能で察しているようで2人の脇をすり抜けジークを狙おうとしている。
「……やっぱり、攻撃力の低さはどうしようもないな」
「そんな事はないと思いますけど、それにジークさんは薬屋さんなんですから」
冷気の魔導銃で巨大蛇の動きを止め、剣の耐久力をあげたリアーナの剣で巨大蛇を弾き返す。
バーニアはタイミングを見計らいながら、巨大蛇の口の中を狙うように突っ込むとノエルの支援魔法が発動したようでバーニアの身体を淡い光が包み込み。
バーニアの剣は切っ先は巨大蛇の口の中に吸い込まれて行こうとするが、巨大蛇は身体の向きを変え、剣をその牙で弾く。
ジークはカインから魔導銃の最大攻撃力を聞いているためか、2発目を撃つまで魔力の溜まっていない魔導銃を見て小さく舌打ちをする。
ノエルはジークに殺傷能力の高い武器は持って貰いたくない事もあり、首を小さく横に振った。
「それもそうだな……俺は俺だ」
「はい」
ノエルの言葉にジークは自分がらしくない事を言ったと思ったようでその表情は小さく和らぎ、ノエルはジークの表情の変化にほっとしたのか胸をなで下ろす。
「ジーク、いちゃついてないで、こっちをフォローしてくれ」
「あぁ、悪かったよ……しかし、大物相手だと時間稼ぎにもならないな」
ジークの援護のない状況ではリアーナ、バーニアと巨大蛇2匹の戦いは均衡しており、バーニアはジークへと援護要請を出す。
ジークは1度、ため息を吐くと冷気の魔導銃を2発放ち、巨大蛇の動きを鈍らせるが巨大蛇の身体が大きい事もあり、身体を覆った氷ははがれ落ち、長い間、動きを止める事は出来ない。
「……充分です」
「……」
それでも、凍りついた瞬間を見逃さず、リアーナは一気に巨大蛇との距離を縮めると1匹の胴体を薙ぎ払う。
巨大蛇の身体は真っ二つに斬れ、頭の部分が地面に崩れ落ちて行く。
その様子に残った巨大蛇は目の前のバーニアを無視してリアーナへと敵意のこもった視線を向けて襲いかかろうとするが魔導銃の魔力がタイミングよく溜まったようで巨大蛇の頭を撃ち抜き、最後の1匹の巨大蛇も事切れ、地面に崩れ落ちる。