第454話
「と言うか、その剣で後2匹もいけるのか?」
「ジークの魔導銃にリアーナの剣もあるし、1匹に付き武器1つ破壊で」
川に到着するとバーニアは全身に付着した巨大蛇の血を流し始める。
川の周辺にも魔物がいる可能性もあるため、ジークとリアーナは周囲を警戒するも危険性のある魔物の気配は感じられないようであり、ジークは武器の壊れたバーニアにこれからの事を尋ねる。
ジークの問いにバーニアは水から頭を出すと単純に1つの武器で1匹、狩れば良いと言い切った。
「……いや、俺は武器を壊したくないから」
「私も遠慮したいです」
バーニアの答えはジークに取っては承諾できない事であり、首を横に振るとリアーナも2人の会話が聞こえていたようでジークに同意を示す。
「折れたら、新しい剣ができるまでうちの店から好きなのを持って行って良いから」
「いえ、この剣はリュミナ様のお護衛の任を受けた日に兄上から譲り受けた物なのです。その日から共にリュミナ様を守り抜いたものですから」
巨大蛇と戦闘を行う事で武具が破壊された場合は責任を持つと言うバーニアにリアーナは鞘に納めている剣へと視線を移した後に小さく首を横に振った。
その様子からその剣は彼女にとってかけがえのない相棒である事が見てわかる。
「大切なものなんですね」
「はい」
ノエルはリアーナの言葉に感動を思えたようで感心したように言うとリアーナは少しだけ気恥ずかしそうに笑った後、大きく頷いた。
「その剣がリアーナに取って大切にしてるのは剣を見させて貰った時にわかってたけどな。ただ……」
「何かあったのか?」
「……タイミング的にもちょうど良い機会だしな」
バーニアは巨大蛇の血を流し終えたようで川からあがるが、鍛冶師の彼はリアーナの剣に何か気が付いているようで言いにくそうに頭をかいている。
その様子にジークは気づき、聞き返すとバーニアは1度、リアーナへと視線を向けた後に眉間にしわを寄せてしばらく考え込むが先送りにしても仕方ないと判断したようで小さく頷いた。
「ちょうど良い機会ですか?」
「リアーナ、その剣は近いうちに折れる」
ノエルはバーニアの顔を見てもいまいち状況がつかめていないようで首を傾げるが、バーニアはノエルの事など気にする事無く、リアーナに彼女の剣の寿命が近い事を告げる。
「……何を言っているんですか?」
「さっき、店で剣を見せて貰った時に良い剣だと言っただろ。リアーナとともにいくつもの戦いを切り抜け、リアーナと主を守り抜いてきた剣だと思った。ただ、もう限界だ」
リアーナは意味がわからないと言いたいのか怪訝そうな表情をする。
バーニアは彼女の気持ちも理解できるが真剣な表情でもう1度、剣の寿命を告げた。
「限界?」
「……あぁ」
「そうですか……」
リアーナはショックを隠せないようではあるが、自分を落ち着けるように1度、深呼吸をすると剣へと視線を移す。
「あ、あの。バーニアさん、どうにかならないんですか?」
「後は役目を終えるまで使ってやるか。飾っておくか……」
「後は依頼の剣の材料にするとかはできないのか?」
ノエルはリアーナの様子に何か手立てはないのかと聞く。
バーニアは選ぶのはリアーナだと言いながらもいくつかの提案を上げて行くとジークはバーニアが鍛える予定のリアーナの剣の1部にならないかと言う。
「できなくもないが、結局はリアーナしだいだ」
「確かにそうだな」
バーニアはジークの提案も選択肢の1つである事も認めるが、自分が決める事ではないと首を横に振った。
ジークも現実的な部分があるため、感傷的になれないようで頭をかくとこれ以上は口をはさむ事ではないと判断したようで周囲の警戒へと比重を移そうとする。
「ジ、ジークさん、冷たくありませんか? ジークさんだって魔導銃が壊れた時、物思いに更けてたじゃないですか?」
「まぁ、それはそうなんだけどさ。感傷に浸るにしても結局は本人次第なんだから、俺やノエルが口を出すのは違うだろ」
ノエルはジークの反応に納得がいかないようで彼の服を引っ張った。
ノエルの様子にジークは困ったようで頭をかいた後、自分が口をはさむ問題ではない事を伝える。
「で、ですけど」
「ノエル、良いんです。ジークやバーニアの言い分が正しいですから、バーニア、答えはしばらく待って貰っても良いでしょうか?」
「俺は構わない。今回の依頼は5人分の騎士鎧と騎士剣だからな。最悪、リアーナの剣を1番最後にすれば良いだけの話だからな」
それでも納得のできないノエルは反論をしようとするが、彼女の言葉をリアーナが遮る。
リアーナはまだ自分の剣をどのようにするのか割り切れないようであり、バーニアにリミットを確認するとバーニアはしっかり悩めと言いたいようで苦笑いを浮かべた。
「と言うか。今更だけど、リアーナの剣が限界近いなら、代わりの剣を持ってきておけよ。バーニアの剣もダメになってるんだからリアーナの剣が折れたら、絶対的に不味いだろ」
「確かにそうですね。バーニアさんどうするんですか? あれ?」
ジークはまともな武器が自分の魔導銃だけだと気が付いたようでバーニアがしっかり準備をしていなかった事を責めるように言う。
ノエルはジークの言葉に大きく頷いた後にバーニアに質問しようとするも途中で何か思い出したようで首を傾げた。
「ノエル、どうかしたんですか?」
「ジークさん、前に支援魔法って武器や防具にかけられるって言ってませんでしたっけ?」
「……そう言えば、カインかアーカスさんが言っていたような気がする」
彼女様子に首を傾げるリアーナ。ノエルは以前に支援魔法の有効範囲を教わった事を思い出したようでジークに確認する。
しかし、ジークは自分で支援魔法を使えるわけではないため、あまり興味がなかったようで記憶にないため頷きはするものの視線はノエルから外れている。
「……ジーク、まったく覚えてないな」
「そ、そんな事はないぞ」
「覚えていませんね」
ため息を吐くバーニアにジークは慌てて首を横に振るが、それは墓穴を掘ってしかなく、リアーナは大きく肩を落とした。
「取り合えず、戦闘になったら、剣に支援魔法を使うのを忘れないようにしないとな」
「そうですね」
ジークはこれ以上の追及を避けるため、ノエルに支援魔法について指示をだすとノエルは大きく頷く。




