第453話
「支援魔法があったとは言え、一刀両断かよ」
「まさか、硬い鱗ごと切れると思わなかったな……次は他を狙う事にするか」
巨大蛇の頭と胴体が離れた様子にため息を吐くジークだが、斬り落したバーニア自身も驚いているようで剣へと視線を向ける。
巨大蛇を倒す事はできたものの、剣の刃は欠けており、バーニアは失敗したと言いたげにため息を吐いた。
「とりあえず、必要なものを取るか?」
「こいつが目的のものか?」
バーニアは剣を鞘に戻すとナイフを取り出し、斬り落した部分から巨大蛇の皮をはぎ始める。
ジークは薬草採取に行っていたため、バーニアが何を取りにきたのかを聞いておらず、バーニアの様子に首をかしげた。
「あぁ、こいつの鱗と牙はいろいろと使えるんだよ」
「確かに防御力はありそうだな」
「……悪かったな。調子に乗り過ぎた」
バーニアは巨大蛇の皮をはぎながら、使い勝手の良い材料だと答える。
バーニアの剣での攻撃を弾いていた巨大蛇の皮の防御力はジークも目で見たため、大きく頷くとバーニアは剣をダメにしたのを責められていると思ったようで視線を逸らした。
「いや、別に他意はないんだけど……と言うか、いつもはどうやって倒してるんだよ?」
「カインがいる時は魔法で、居ない時は口の中を狙う」
「それはそれで大変じゃないか?」
ジークは悪気はなかったとため息を吐くが1つの疑問が頭を過ったようでその疑問を口に出す。
ジークの疑問にバーニアは簡単に答えるが剣を武器にしているバーニアは巨大蛇の口の中に剣を突き立てるには相当に技量が必要であり、ジークは鍛冶師であるはずのバーニアの戦士としての才能に驚いているようで難しい顔をする。
「ジークの見切りの能力があればできるだろ」
「……いや、過大評価はいらないから」
「カインもだけど、ジーク、お前はもう少し自分の評価をあげたらどうだ?」
バーニアはカインの話や先ほどの巨大蛇との戦闘からジークならできると評価したようだがジークの自己評価は低いため、大きく肩を落とした。
ジークの様子に苦笑いを浮かべながら、バーニアはジークとカインは自己評価を上げた方が良いと言う。
「……いや、カインは自己評価低くないだろ。と言うか、あれで低かったら、あいつは1人で何をするんだよ」
「世界征服とか? ……自分で言っといてなんだけどやりそうだな」
「……否定できないな」
ジークはカインの自己評価は決して低くないと言い、バーニアは冗談めかして笑うが直ぐに笑いえない冗談だと思ったようで眉間にしわを寄せる。
ジークもバーニアと同様の事を思ったようであり、その表情は険しくなって行く。
「ジーク、バーニア、それは言い過ぎじゃないでしょうか?」
「そ、そうです。カインさんはいつも何か企んでるように笑っていますけど、自分の事は二の次じゃないですか」
「……ノエル、いつも言うけど、フォローになってないから」
ジークとバーニアの会話にリアーナはリュミナを助けて貰った事もあり、カインの事を評価しているようでフォローにしようとする。
ノエルはリアーナに続いてカインの味方に回ろうとするがいつものようにフォローになっておらず、ジークは苦笑いを浮かべた。
「そ、そんな事はないです!?」
「まぁ、カインの場合に多くを見過ぎて俺達はあいつが何を見てるかわからないんだけどな」
「そうだな」
慌てて声を上げるノエルの様子にバーニアは苦笑いを浮かべながら、カインが何を目指しているかわからないと言う。
ジークとノエルはカインの口からエルトとともに目指している世界を聞いている事もあり、若干、居心地が悪くなったようでバーニアとリアーナから視線を逸らす。
「ジーク、ノエル、どうかしましたか?」
「い、いや、何でもない。気にしないでくれ。それより、やっぱり、防御力が高い人間がいると良いな。フィーナがいるとどうしても前のめりになるし」
ジークとノエルの様子にリアーナは違和感を覚えたようで首を傾げた。
ジークは現状でリアーナやバーニアに人族と魔族の共存する世界の事を話す事は行かないため、話を変えようとする。
「誉められているとは思うんですけど……明らかに話を変えようとしていませんか?」
「気のせいだ」
「そ、そうです。気のせいです」
リアーナはジークへと疑いの視線を向けるとジークはきっぱりと何もないと言い切り、ノエルが続くがジークとは違い、明らかにノエルは挙動不審である。
「……まあ良いでしょう。それより、バーニア、後、どれくらいかかりそうです?」
「こいつは終わりだけど、後、同じサイズだと2匹かな? そう言えば、ジークの方はどうなったんだ?」
どこか納得がいかなさそうな表情をしているリアーナだが、ノエルの様子から追及するのも良くないと判断したようでバーニアに作業の進捗状況を聞く。
その声にちょうど、巨大蛇の皮と牙をはがし終えたようでバーニアは満足そうな笑みを浮かべるとジークの薬草採取の状況も気になったようでジークへと質問をする。
「微妙、いくつか本だけで見た奴もあったんだけど、記憶があいまいなものもあって、本当にその薬草かわからない。サンプルに少しだけ持って帰って、ミレットさんやテッド先生に確認して貰おうと思ってる。それに荷物の事を考えるとあまり増やせないだろうしな」
「確かに結構な荷物だよな」
「と言うか、この皮を持って歩くのですか?」
ジークはジオスやフォルムで採取できない薬草を見つけはしたものの、知識は普段使用する物に偏っているようで苦笑いを浮かべた。
巨大蛇から取れた皮はかなりの量であり、バーニアの仕事は丁寧にも見えるがはがしたばかりの皮は血で汚れているため、リアーナは眉間にしわを寄せる。
「いや、この近くに川があるから、そこまで持って行って血はキレイに落とす。流石に血の臭いを付けて歩いてると狙われるからな」
バーニアは武具の材料を取りにきているため、この周辺の地理は熟知しているようで川へと向かう事を告げると皮を引きずって歩き出す。
ジーク、ノエル、リアーナの3人は1度、顔を見合わせた後、バーニアの後を追いかけて行く。




