第452話
「ジークさん、無事で良かったです」
「ノエルもな」
ノエルは巨大蛇を撃ち抜いた青い光の出所を探そうと振り返る。
ノエルの視線の先には魔導銃を構えたジークが立っており、ジークは3人の無事を確認しながらも巨大蛇を倒し切れているとは思っていないようで鋭い視線を巨大蛇へと向けている。
「ジークさん?」
「ノエル、気を抜くな。まだ終わってない」
「は、はい」
巨大蛇が凍りついたため、ノエルの気は緩んでいるがジークは彼女に気を引き締めるように言った後、先頭に躍り出る。
ノエルはジークに声をかけられ、杖を握り直すと巨大蛇へと視線を戻す。
「……」
「……やっぱり、攻撃力自体はないに等しいよな。でも、便利な事は確かだからな」
凍りついていたはずの巨大蛇の頭から、氷が砕けてぽろぽろとはがれ始めて行く。
氷がはがれると巨大蛇の両眼は不気味な光を灯し、ダメージはないものの自分へと攻撃をしてきたジークへと鋭い敵意を向けている。
巨大蛇の様子からジークは冷気を放つ魔導銃の攻撃力の低さにため息を吐くものの、元に戻す気はないようで小さな声でつぶやく。
「……ノエル、支援魔法の準備」
「は、はい。素早さですね」
ジークは巨大蛇の視線に怯む事無く、背後にいるノエルに支援魔法を頼む。
ジークの支援魔法要請にノエルは大きく頷くと戦闘になるとジークに向かい素早さを上昇させる魔法の詠唱を開始する。
「ノエル!!」
「問題ありません。ジークは自分の身を心配しなさい」
巨大蛇は完全にはがれ落ちていない氷を気にする事無く、その身体をしならせるとムチのように頭をジークに向かって叩きつける。
ジークは巨大蛇の頭を交わすが、巨大蛇の頭が打ち付けられた地面から石つぶてが飛び、土煙が舞う。
石つぶては4人を襲い、ジークは魔導銃の銃身で石つぶてを弾き、リアーナは石つぶてなど大したダメージではないと思っているようでノエルを守るように彼女の前に立ち、鎧で石つぶてを弾き返す。
「……」
「ジーク、油断するなよ」
ノエルに視線を向けた事でジークの気が一瞬削ぎれたのを巨大蛇は見逃さず、土煙の中から両眼を光らせ、大口を開けてジークに襲い掛かる。
その大口に向かてバーニアは剣を薙ぎ払い、巨大蛇はの牙とバーニアの剣はぶつかり、大きな音を響かせた。
巨大蛇はバーニアの剣に弾かれ、1度、距離を取るとジークとバーニア、どちらから食おうかと考えているのか値踏みするような視線を向けている。
「こう言う時、腕力バカのフィーナがいないのはきついよな?」
「ジークさん、どうして、フィーナさんをバカにするような事を言うんですか?」
「まぁ、いつもいるのがいないのは勝手が違って調子が狂うって事だ」
ジークは巨大蛇との間合いを確認しながらも、攻撃力の高いフィーナがいない事に小さく肩を落とした時、ノエルの支援魔法が発動したようで彼の身体を淡い光が包み込む。
ノエルは魔法が発動した事で彼の発言を責めるように言うとジークはいつもと違う状況に勝手がわからないようで困ったように笑う。
「ノエル、様子を見て、攻撃魔法を使ってくれ。俺が時間を稼ぐから」
「わ、わかりました」
ジークは自分の身体を包んでいる淡い光を確認するとノエルに指示を出し、巨大蛇に向かって駆け出す。
その指示にノエルは攻撃魔法が苦手なため、頷きはするものの身体は強張っているようで声は震えている。
「ノエル、攻撃魔法は無しだ。ノエルの風の魔法だと使える部分がなくなる」
「そ、そうですか? それなら、どうしたら良いでしょうか?」
ノエルの声からバーニアは彼女の不安を感じ取ったようで攻撃魔法を使う必要はないと言う。
ノエルはバーニアの声にほっとしたようで胸をなで下ろすとバーニアに指示を求める。
「俺にも支援魔法をくれ。攻撃力をあげたい」
「その前に私に防御力をあげる魔法をかけて貰っても良いでしょうか?」
バーニアは先ほど巨大蛇を弾き返した時に自分の攻撃力では巨大蛇を倒す事は出来ないと判断したようでノエルに支援魔法を頼む。
巨大蛇は素早く動くジークが鬱陶しいようで、彼の機動力を奪おうと考え始めたのか身体を地面に叩きつけ、石つぶてを飛ばしている。
石つぶては広範囲に飛ぶため、ノエルをかばっているリアーナには何度も石つぶてが叩きつけられており、リアーナは先に自分に支援魔法をかけて欲しいと言う。
「えーと、どちらから先にかけた方がいいんでしょうか??」
「リアーナが先で良い」
ノエルはどちらから先にかけて良いのか迷っているようで魔力はため始めたようだがあたふたとし始める。
背後から聞こえるノエルの声にバーニアは指示を出すとジークに襲いかかっている巨大蛇のスキを狙って剣を叩きつけて行く。
「……出力、上げるかな? でも、今、壊すと俺、役立たずになるしな」
ジークは冷気の魔導銃と通常の魔導銃を使い分けながら、巨大蛇を攻撃して行くが魔導銃の出力を上げる踏ん切りがつかないようでため息を吐いた。
「ジーク、余裕そうだな?」
「なぜか、変な機会があってこう言うのとは戦いなれてる」
支援魔法の効果もあり、ジークは巨大蛇の攻撃を交わして行く。
その姿にバーニアは自分は石つぶてを交わしきれない事もあり、理不尽なものを感じているようで小さくため息を吐くとジークはルッケルで何度か戦った巨大ミミズの事を思い出したようで苦笑いを浮かべた。
「バーニアさん!!」
「支援魔法ね。便利だな」
その時、ノエルがバーニアの名前を呼び、その声と同時に彼の身体を淡い光が包み込んだ。
バーニアは自分の身体を包みこんだ光に力が漲って行くのを感じたようで小さく口元を緩ませる。
「……決め時か?」
「悪いな。美味しいところを貰って」
ジークはバーニアに支援魔法がかかった事に気づくと襲いかかってきた巨大蛇の攻撃を交わすと同時に冷気の魔導銃の引鉄を引いた。
青い光は巨大蛇の頭を撃ち抜くと巨大蛇の頭は凍り付き始め、一瞬、その動きを止める。
そのスキを見逃す事無く、バーニアは飛び上がり剣を巨大蛇の頭に振り下ろし、支援魔法で攻撃力のあがったバーニアの剣は巨大蛇の頭を胴体から切り離した。




