第451話
「そう考えるとジークはエルト様の奥の手と言う事でしょうか?」
「ち、違います。ジークさんとエルト様はそんな関係ではないですし、それにジークさんとリアーナさんが知っている方達とは全くの無関係です!!」
「ノエル、否定すればするほど肯定していると変わらないから、もう諦めろ」
リアーナはエルトにも狡猾な部分があると思ったようで眉間にしわを寄せる。
彼女の様子にノエルはまだ遅くないと思っているようでリアーナの考えを否定するように叫ぶがバーニアは彼女の肩に手を置き、首を横に振った。
「あ、あう……あ、あの、バーニアさんは」
「カインから聞いてる。何かあった時は偏見を持たずにジークを見てやって欲しいってな」
ノエルは大きく肩を落とした後にバーニアが自分をフォローしてくれた事を思い出し、彼がジークの生まれについて知っているのかと聞く。
バーニアは頷くと苦笑いを浮かべ、リアーナへと視線を向ける。
「どうかしましたか?」
「リアーナ、その話はジークの前ではしないでくれないか?」
「……どう言う事ですか?」
バーニアの視線に気が付き首を傾げるリアーナ。バーニアは彼女に今聞いた話はジークには内密にするように頼む。
しかし、バーニアの言いたい事が理解できないリアーナは眉間にしわを寄せ、怪訝そうな表情で聞き返す。
「あ、あの、ジークさんはご両親の事を言われるのが好きじゃないんです」
「なぜですか?」
ノエルは言いにくそうにジークが両親と顔を合わせた事がない事を伝えるが、リアーナは信じられないと言いたげに聞き返す。
「あの、ジークさん、生まれたばかりでおばあさんに預けられて、1度もご両親に会った事がないんです」
「そのような事があるのですか? 私はザガードで何度かフィリス夫妻にお会いした事がありますがそのような事をするようには見えませんでしたが」
「リアーナさん、ジークさんのご両親とお会いした事があるんですか?」
ノエルはどこまで言って良い物か悩みながらも、リアーナが直接ジークに聞いてしまい、彼の気分を害しても良くないと判断したようで小さな声で言う。
リアーナはジークの両親と会った事があるようでノエルの話と合致しないと首を傾げる。
彼女の口から出た言葉にノエルは驚きの声を上げてリアーナとの距離を縮めた。
「はい。数年前からザガードで魔獣退治にご協力して貰っています。その時に同行させていただきました。トリスさんは先陣に立ち剣で魔獣を薙ぎ払い、ルミナさんは魔法で後方からトリスさんを支え、共に戦った者達を魔法や薬で癒し、その姿はまさに勇者と呼ばれる方達でした」
「あ、あの」
リアーナはノエルの様子に少し驚きながらも目をつぶると自分の記憶に残るトリスとルミナの姿を思い浮かべながら言う。
ノエル自身、ジークの両親が勇者と呼ばれている事も知ってはいるものの、ジークと出会い2人のジークに対する扱いからリアーナの言葉が信じられないようである。
「見る人間から見れば印象なんて変わるだろ」
「そ、そうかも知れませんけど」
ノエルとリアーナの会話の終着点が見えず、バーニアは間に割って入るがノエルは納得がいかないような表情をしている。
「結局、俺達はジークの両親と会った事もないんだ。ジークのそばにずっといるノエルがジークの味方をしたいのもわかるしな」
「まぁ、ノエルはジークの味方ですしね」
「そ、そんな事はないですけど……ジークさんが帰ってきましたよ」
バーニアとリアーナはノエルが全面的にジークの味方をする事はわかっているためか顔を見合せて苦笑いを浮かべた。
ノエルは2人の言葉に恥ずかしくなったのか顔を赤らめて2人から視線を逸らした時、草むらの草が動き出し、ノエルは声をジークが戻ってきたと思ったようで草むらの方を指差す。
「……ノエル、下がってください」
「へ?」
「ジークじゃない」
リアーナはノエルの声で視線を草むらへと向けると険しい表情になり、ノエルを後ろに下がらせ彼女を守るように前に立つと剣を抜く。
ノエルは突然の事に意味がわからないようで首を傾げるとバーニアはこちらに近づいてきているものがジークではない事を告げ、剣を構える。
「そ、それなら、何がくるんですか? ひ、1人で薬草を集めに行ったジークさんは無事なんですか?」
「ジークなら問題ないでしょう。彼の体術は目を見張るものがありますから」
ノエルはこちらに向かっているものがジークではないと聞き、1人で歩きまわっているジークを心配になったようで声を上げた。
リアーナはジークならどうにでもなると言うがその視線は草むらから離れる事はない。
「な、何が出てくるんですか?」
「そうだな。目的もものだとこれ以上、先に進まなくて良いから楽で良いな」
杖を両手で握り、リアーナとバーニアの間から草むらを覗き込むノエル。
バーニアは採取しにきたものであれば良いと言うと草むらは2つに割れ、そこから巨大な蛇が顔を覗かせ、口からは真っ赤な舌を出してこちらを睨みつける。
「……へ、蛇ですか?」
「ノエル、落ち着いてますね」
蛇は巨大ではある物の、ルッケルに生息している巨大ミミズよりは一回り小さくノエルは少しほっとしたようで胸をなで下ろす。
それでも巨大蛇は3人を獲物と認識しているようで3人を威嚇しており、リアーナはいつ襲いかかってくるかわからない巨大蛇からの攻撃を警戒するように気配をうかがっている。
「このサイズだと3匹くらい欲しいな」
「……これが目的のものなのはわかりましたけど、ずいぶんと軽いですね」
「まぁ、騎士のリアーナもいるし、余裕だろ」
「油断すると危険ですよ」
バーニアの目的は巨大蛇であり、バーニアは値踏みするような視線を巨大蛇に向けているが緊張感は無く、リアーナは眉間にしわを寄せた。
バーニアは騎士であるリアーナが同行している事で余裕があると言うが、リアーナは油断をするなと釘を刺した時、巨大蛇は伸びあがり、一気に襲いかかろうと大口を開けた。
「……ルッケルもだけど、巨大生物がずいぶんと増えてるな」
その時、3人の背後から青い光が放たれ、大きく開かれた巨大蛇の口へと吸い込まれて行く。
青い光が巨大蛇の口に吸い込まれた瞬間、口から凍りついて行く。