第450話
「ここから先は歩きだ」
「なぁ、今更だけど俺達が何を手伝えば良いんだ? 鉱石とかじゃなさそうだよな?」
目的地に到着したようでバーニアが街道の脇に馬車を止めると荷台に乗っていた3人に馬車から降りるように言い、3人は馬車から降りる。
ジークは大きく身体を伸ばした後、周囲を見回すがそこはルッケルのような鉱山都市でもなく森が広がっており、鍛冶屋であるバーニアの目的がわからなくなったようで首を傾げた。
「鍛冶屋って言っても、他の武器も作ってるからな。鉱石関係はまとめて買ってる。ここに来たのは別の材料を取りにだ」
「別の材料ね……火炎獅子の皮とか?」
「そんな危ない魔獣相手では4人でなど対処できません」
街道の脇には野盗などの対処のために兵士達の詰め所が点在しており、バーニアは兵士達と顔見知りのようで馬車を兵士達に預けるとジークの質問に答える。
ジークはあまり武具の材料に詳しくない事もあり、ノエルのマントの材料になった魔獣の名前を出す。
リアーナはジークの言葉に大きく肩を落とすと周囲を見回した。
「だいたい、火炎獅子は火山の近くに生息しているんだからな。王都の周辺には生息していない」
「それもそうだな。カインがそんなような事を言ってたような」
バーニアはため息を吐くと、ジークはルッケルでのカインに聞いた話を思い出したようでポリポリと首筋をかく。
「それじゃあ、行くか? ……ノエル、そろそろ、出発しても良いか?」
「は、はい」
バーニアはジークの様子に苦笑いを浮かべた後、馬車が止まってから一言も話をしていないノエルへと視線を向ける。
ノエルの顔はまだ青ざめてはいるものの迷惑はかけられないと思っているようで小さく頷いた。
「ジーク、大丈夫か?」
「まぁ、歩いていればそのうち……ダメかも知れない」
ノエルの様子にバーニアはジークに声をかける。
ジークは最初は気にする事もないだろうと思ったようだがノエルへと視線を向けると足取りはおぼつかなく、ジークは眉間にしわを寄せた。
「とりあえず、行きましょう。時間をかけすぎるわけにもいきませんから」
「そうだな。ノエルがダメならジークが背負えば良いわけだからな」
「……そうなるだろうな」
リアーナはノエルの様子に苦笑いを浮かべるものの、やはりリュミナの事も心配のか王都に戻りたいようで時間はかけられないと言う。
バーニアはノエルが歩けない場合はジークに背負わせるつもりだと言い、ジークは大きく肩を落とすとノエルの隣に並ぶ。
「それじゃあ、行くか?」
「はい」
バーニアしか目的の場所を知らないため先頭で歩き出し、リアーナ、ノエル、ジークの順で歩き出す。
バーニアは通い慣れた道のようで細い獣道を進んで行く。
「バーニア、もう少しゆっくりと歩けないか?」
「速いか? ……そうだな。急ぎ過ぎたな。少し休憩でもするか?」
山歩きのなれているバーニアは1人で進んで行くが、体力のないノエルと獣道を歩き慣れていないリアーナは遅れ始めている。
ジークは薬草採取でなれているためか、余裕そうであるが2人の様子に気が付き、バーニアに声をかける。
バーニアはその言葉に振り返ると2人は息が上がっており、安全を確認するように周囲を見回すと休憩しようと言う。
「はい」
「申し訳ありません」
ノエルとリアーナは道端に座り込み、ジークは周辺を見回している。
「ジークは薬草が気になるみたいだな」
「まぁ、否定はしない。少し見て来ても良いか?」
「良いが、あんまり遠くに行くなよ」
「了解」
ジークの様子に気が付いたバーニアはジークに声をかける。
ジークはバーニアから許可が下りた事で笑顔を見せると森の中に入って行く。
「……ジークさん、元気ですね」
「本当ですが、1人で大丈夫なんですか?」
「ジークは森の中を歩くのはなれてるだろうし、大丈夫だろ」
ジークの様子にノエルは恨めしそうな視線を向けるとリアーナは同意するように頷くものの1人で歩かせるのは危険ではないかと首を傾げる。
バーニアはカインからジークの素性を聞いているのか、ジークなら心配ないと思っているようで苦笑いを浮かべると持ってきていた水筒からノエルとリアーナに水を渡す。
「そうですか? ……ノエル、ジークは何者なんですか?」
「どう言う事でしょうか?」
「いえ、カインがエルト様の腹心なのは理解できましたが、幼なじみとは言え、ジオスのような小さな村の薬屋が1国の王子と親密にするのは少し不自然かな? と思いまして」
リアーナは受け取った水を1口飲んだ後にジークの素性が気になったようでノエルに尋ねる。
ノエルは意味がわからずに首を傾げるとリアーナは純粋にジークとエルトの関係が気になるようで首を傾げた。
「ほ、ほら、エルト様はあのような性格ですし、身分など関係なく接してくれますから」
「確かにそうですね……」
ノエルはジークが両親の事を言われるのが大嫌いのため、慌てて不自然な事は何もないと首を横に振る。
しかし、そんな彼女の様子はリアーナに取ってはどこかわざとらしく見えたようで納得が行かないような表情をしている。
「まぁ、カインから聞いている限り、ノエルの言ってる事で間違いないんじゃないのか?」
「そ、そうですよ。ジークさんのご両親が勇者と言われている事なんて、まったく関係何かありません!!」
「……ジークの両親が勇者? ジークの本名はたしかジーク=フィリス? も、もしかして、ジークはトリス=フィリスとルミナ=フィリスの息子さんなのですか!?」
バーニアは苦笑いを浮かべながらノエルのフォローをしようとするが、彼の気づかいに大きく頷いたノエルは口を滑らせてしまい、慌てて、両手で口を押さえるがすでに遅い。
リアーナはノエルの言葉に首を傾げながら、考えこみ始めると何か思い出したようで驚きの声を上げた。
「ち、違います。ジークさんとは無関係です!!」
「……もう完全に遅いだろ」
ノエルは全力でリアーナの発言を否定するが、その様子から見れば完全に肯定しか見えず、バーニアは大きく肩を落とす。




