第448話
「……それで、カイン=クロークは何をしたいんだ?」
「俺の仕事をジークとノエルに手伝わせたかったんだろう」
「お手伝いですか? でも、わたし達でお役に立てるんでしょうか?」
ジークの言葉に眉間にしわを寄せ、シュミットは状況の説明を求める。
バーニアはため息交じりで答えるとノエルはバーニアの仕事を手伝えるとは思えないようで首を傾げた。
「あぁ、しばらくはこの仕事に集中しないといけなくなる。その前にいくつか集めなければいけないものがあるからな」
「それはこちらの依頼を受けて貰えると考えて良いのだな?」
バーニアは鍛冶の仕事を手伝わせる気などさらさらないとため息を吐く。
彼の態度からシュミットはバーニアが国からの依頼を承諾してくれたのかと確認をすると店内にいた人達の視線がバーニアに集中する。
「そうだな。受けよう」
「そうか。これからよろしく頼む」
バーニアは頭をかいた後に改めて、依頼を引き受ける事を告げるとシュミットは少しだけ安心したようで表情を和らげ、兵士達は胸をなで下ろす。
「待て。それがどうして、俺とノエルがバーニアの仕事を手伝う事になるんだよ?」
「言っただろ。俺はこれから騎士達の剣と鎧を作らないといけないんだ。途中で必要なものがなくなっても困るだろ?」
「……いや、だから、俺達が協力する理由にはならない。そう言うのはそれこそ冒険者でも雇ってくれ。王都には優秀な冒険者もいるんだろ」
バーニアの言いたい事も理解はできるがジークとノエルが同行する理由は無く、ジークは冒険者を雇えと言う。
「依頼料はお前が気に入ったそいつだ。王都の外にも出るから、薬草類も手に入るぞ」
「……」
「ジークさん、揺らいでますね」
バーニアはジークに手伝ってくれれば、先ほど見ていた魔導銃を入れるホルダを譲っても良いと提案する。
その言葉にジークの視線は先ほどホルダを戻した商品棚に向けられ、ノエルはその様子に苦笑いを浮かべた。
「……ジーク、お前は私の提案を断ったのではないのか?」
「べ、別に物欲に負けてるわけじゃない。俺は薬屋だぞ。ジオスやフォルムで採取できない薬草類は貴重だからだ」
シュミットはジークの様子に大きく肩を落とすと、ジークは慌てて否定するがその様子には明らかな動揺が見られ声は上ずっている。
「で、どうするんだ」
「……」
「ジークへの依頼が今回の依頼に関係するなら、国から予算もしくは人員を出すがどうする?」
バーニアはジークに確認を取るがジーク自身揺れており、眉間にしわを寄せて頭をひねり始める。
その様子にシュミットは依頼自体が自分の持ってきた依頼に関係する事だと思ったようで支援を出す事もできると言う。
「国からね……悪いな。これは元々の仕事だ。そっちとは関係ない」
「そうか」
バーニアは仕事を受けたからには自分でやらなければいけない事があると思っているようでシュミットからの提案に首を横に振った。
彼の様子にシュミットはバーニアの職人の矜持を感じ取ったのか小さく頷く。
「ジークさん、どうするんですか?」
「いや、どうするも何もおっさんの娘を届けに来ただけだったろ。だから、魔導銃は持ってきてるけど胸当ては持って来てないぞ」
「そうですね。わたしもです」
ノエルはジークにバーニアの仕事を手伝うか確認するとジークはホルダは欲しいようだが準備はして来ておらず、どうするか考えているようで頭をかいた。
彼の言葉でノエルも気が付いたようでどうしようかと思ったようで2人で顔を合わせて苦笑いを浮かべる。
「2人分の防具とノエルの杖くらいは貸してやる。ノエルの防具はこれで良いな?」
「こ、こんなものは着ません!?」
「それなら、こっちか?」
「もっと、布地が少なくなってます!!」
バーニアはジークとノエルの装備を貸し出すと言った後にノエル用の防具だと言い、布地の極端に薄い防具を引っ張り出す。
それを見たノエルは顔を真っ赤にして絶対にイヤだと拒否をする。
ノエルに拒否をされた事でバーニアは他の防具を見せるがさらにきわどい物になっており、ノエルは大きく首を横に振った。
「……ルッケルでカインが持ってきたのはここの商品か」
「ジークはノエルにはこれを来て欲しいと言ったんだったか?」
「そんなもん、引っ張りだすな!?」
ジークはノエルとバーニアのやり取りにルッケルで事をカインがノエル用の防具を選んだ日の事を思い出したようで大きく肩を落とす。
その言葉にバーニアは以前にジークが適当に選んだ防具を引っ張り出し、それがジークの羞恥を誘い、ジークは慌てて声を上げた。
「ジーク」
「お、俺は無実だ。カインの罠にはまったせいだ」
騎士とは言え女性であるリアーナはジークに冷たい視線が向け、ジークは彼女の視線にいたたまれなくなったのか全力で否定する。
しかし、同行していた男性兵士からはジークへと賛同の声が上がり始めており、店内は微妙な空気が漂い始めている。
「変な空気だな?」
「……バーニア、お前が言う言葉ではないと思うんだがな。それより、話が進まないなら、私は1度、城に戻るぞ」
バーニアは店内の様子に苦笑いを浮かべるとシュミットは眉間にしわを寄せると王城に戻らなければエルトがまた何か問題を起こす可能性もあるため、王城に戻ると言う。
「あぁ、今の仕事が終わったら、1度、王城に足を運ぶから、その時に対応しておいてくれ」
「わかった。話を通して置こう。リアーナ」
バーニアが依頼を承諾した事でシュミットは王城に帰ると決めるとリアーナの名を呼ぶ。
「はい」
「依頼を円滑に進ませるためにバーニア、ジーク、ノエルの3人に同行して欲しい」
「わかりました」
リアーナは王城に戻ると思ったようで返事をするがシュミットは彼女にバーニア達の護衛を指示する。
リアーナは突然の指示に1度、驚いたような表情をするが直ぐに表情を引き締めて頷く。
「……完全に俺達が付き合う事が確定してないか?」
「そ、そうですね。あ、あの」
「心配しなくても時間はそんなにかからない。目的地近くまでは馬車を使うから、今日中に済む仕事だ」
シュミットとリアーナのやり取りにジークは眉間にしわを寄せる。
ノエルはバーニアの仕事を手伝うのは仕方ないと思っているようだが、いくつか気になるようでバーニアへと視線を向けた。
バーニアは心配する事はないと笑うが彼の口から出た言葉はノエルにとっては死刑宣告と変わらず、ノエルの顔からは血の気が失せて行く。
「ジーク」
「ノエルは馬車が苦手なんだ」
「そうか」
彼女の様子にジークは頭をかき、店内にいた人々は彼女の姿に苦笑いを浮かべる。




