第446話
「目立ってますね」
「そうだな」
王族であるシュミットが王都とは言え、職人達の集まる場所を歩いているのは違和感があり、すれ違う人々は足を止めて道を開けて行く。
そのため、運動神経の皆無のノエルが活気だっている街中でも人波に飲まれる事はなく進む事が出来る。
「ここだな」
「到着ですか?」
先頭を歩いていた警護の兵士が店先で立ち止まるとそのうちの1人がドアを開けてシュミットを店内に案内する。
ジーク、ノエル、リアーナはシュミットに続いて店内に入ると店内には様々な武器や防具が飾られており、その質の良さにリアーナや兵士達は感嘆の声を上げた。
「誰もいないな」
「そうですね」
ジークとノエルは武器や防具に詳しいわけでもないため、キョロキョロと店内を見回すが、店員は1人もいない。
「ウチの店もわりと雑だけど、王都にある店がこれで良いのか?」
「わ、わかりません」
ジークは下手をすれば泥棒に入られてしまうのではないかと心配になったようで眉間にしわを寄せる。
ノエルはジオスの村では盗みに入るような人間がいない事もあり、どうして良いのかわからずに苦笑いを浮かべた。
「とりあえず、ここで待ってても仕方ないしな……すいません。誰かいませんか?」
「……今、行く」
「……二日酔いじゃないよな?」
ジークはカウンターの奥にドアを見つけたため、カウンターから身を乗り出して大声で店員を呼ぶと弱々しい声で返事が戻ってくる。
その声の弱さと昨日のバーニアの様子から、彼の体調が心配になったようで眉間にしわを寄せた。
しばらくして、顔を真っ青にしたバーニアが店に出てくると立っているのも辛いのか、シュミットが居ようが関係なく、カウンターのイスに腰を下ろした。
リアーナや兵士達はバーニアの様子に眉間にしわを寄せ、彼に態度を改めさせようとするが、シュミットは手で彼らを静止する。
「……ずいぶんと大勢での来店だな。だけど、悪いが今日はこんな調子だ。話は聞かない。帰ってくれ」
「あ、あの、お話くらいは」
バーニアは具合が悪いようで、頭を押さえながら閉店を告げる。
ノエルはシュミットが来ている事もあり、帰るわけにもいかないと思ったようで話しを聞いて欲しいと頭を下げた。
「……無理」
「そう言うわけにもいかないだろ」
「ジーク、何をしているんだ?」
バーニアは話もするのが辛いようで短く一言だけ答えるとうつむいてしまう。
ジークは頭をかくと常備している調合薬を物色し始め、シュミットは首を傾げる。
「体質もあるけど、これかな? ノエル、手伝ってくれ」
「は、はい」
ジークは調合薬から1つを選ぶとノエルを呼ぶ。
ノエルはジークに呼ばれた意味がわからないようだが、直ぐに頷く。
「バーニア、薬」
「……あぁ、すまない」
「ノエル、治癒魔法を頼むよ」
バーニアはすがり付きたいのかジークから受け取った薬を直ぐにのみ込む。
その様子を確認するとジークはノエルに治癒魔法を使うように頼んだ。
「え? 使って良いんですか?」
「あぁ、テッド先生に治癒魔法と相性の良い調合薬もあるって聞いたんだ。それを選んだ」
「わかりました」
首を傾げるノエルにジークはテッドから学んだ事の1つだと説明する。
ノエルは常に魔法を使用できるように魔力を溜めているようで、ジークの言葉に頷くと彼女の身体が淡い光を帯び始めて、無詠唱でバーニアに向かい治癒魔法を使う。
ノエルの身体を包んでいた淡い光は彼女の手からバーニアの身体に移動し、バーニアの身体の中に溶け込んで行く。
それと同時に真っ青だったバーニアの顔は赤みを帯びて行き、バーニアは体調が戻ってきた事を感じたようで顔をあげると同時に彼のお腹の虫は豪快に悲鳴を上げた。
「……ずいぶんと良い音が鳴ったな」
「あー、昨日の昼間から酒しか飲んでなかったからな。腹が減った」
「……生粋の酔っ払いじゃないかよ」
シュミットはその音に呆れたようなため息を吐くと、バーニアはバツが悪そうに視線を逸らす。
ジークはバーニアの身体の悪そうな食生活にため息を吐くと栄養剤を取り出し、カウンターに置く。
「ジークさん、不規則な食生活をしている人にその栄養剤は危険です!! バーニアさんを殺すつもりですか!!」
「……確かにな」
ノエルは目の前に置かれた栄養剤の姿に声をあげると、栄養剤の破壊力を身を持って知っているシュミットは彼女の言葉に賛同する。
「何度も言うけど栄養剤だからな。毒性はまったくないからな」
「そんな言葉、信じられません」
「いや、信じろよ。バーニア、ノエルはこう言ってるけど、ただの栄養剤だ。何も腹に入れないよりマシだろ」
ジークはなぜ、ノエルがここまでの拒否反応を示すかわからないと言いたげに肩を落とす。
しかし、1部に人気はある物の飲んだ人間の直後の様子を目の当たりにしている彼女にとってはジークの栄養剤は毒物にしか見えないようで完全否定をする。
ジークはそんな彼女の様子にため息を吐いた後、バーニアに栄養剤を薦める。
「いや、厚意だけ受け取っておく」
「なぜだ?」
「これはカインが持ち歩いている栄養剤だろ? これは危険だ。俺はまだ死にたくない。この量は絶対に致死量だ」
バーニアはカインから1口飲ませて貰った事があるのか、ジークの栄養剤を直ぐに拒否する。
ジークの栄養剤を断る彼の顔は先ほどまで二日酔いで青くなっていた顔より、血の気が引いているようにも見える。
「だから、毒じゃないって言ってるだろ。飲めばわかるから」
「いや、良い。それでこんな大勢で何の用だ?」
ジークはバーニアの言葉が不満のようでもう1度、バーニアに栄養剤を薦めるが、バーには逃げるようにジーク達が自分の店を訪れた理由を聞く。
「何か、納得がいかないな」
「まぁ、本人が要らないと言っているんですから、強要はできないんじゃないでしょうか?」
「効果は俺が保証するから、飲んで見ないか? 新しい土地での生活に疲れてるだろ」
「た、多少は疲れてはいますけど、精神的なものですから、栄養剤は必要ありません」
納得がいかないジークは味方を得ようとリアーナに栄養剤を薦めるがこの状況でリアーナが頷くわけもなく、彼女は大きく首を横に振ってジークの栄養剤を拒否する。