第445話
「……どうして、おっさんの娘の相手をするのはこんなに疲れるんだろうな」
「そ、そう言わないでください」
ジークとノエルは転移の魔導機器でカルディナを王都にあるオズフィム家の屋敷まで送り届けた後、いくつかカインから買い物を頼まれたため、商店街を歩いている。
ジークの持っている転移の魔導機器では移動場所が限られている事もあり、カインの屋敷からオズフィム家の屋敷までは徒歩での移動であったのだが、そのわずかな間でジークとカルディナは何度か衝突しており、ジークの顔には疲れの色が濃く出ている。
「まぁ、買い物も済ませてフォルムに戻るか? 王都にいると何か厄介事が押しかけてきそうだからな」
「そうですね」
「何を買えば良いんだ? ……何を書いてあるかまったくわからない」
ジークは1度、ため息を吐くと気合いを入れ直すように両頬を手で叩き、カインからのメモを覗き込む。
しかし、買い物リストに書かれているものは名前も聞いた事のない物ばかりであり、ジークは眉間にしわを寄せた。
「どんなものですか? ……すいません。わたしもわかりません」
「いや、ノエルが悪いわけじゃないから、しかし、これは何の嫌がらせだよ」
ジークの様子にノエルも買い物リストを覗き込むが、ノエルにも何が書いてあるのかまったくわからないようであり、申し訳なさそうな表情をする。
ジークはノエルは悪くないと言うと、メモを書いたカインの考えがわからないようで乱暴に頭をかいた。
「ジーク、ノエル、ここで何をしているんだ?」
「シュミット様、リアーナさん?」
メモを覗き込んでいるジークとノエルを背後から呼ぶ声がし、ノエルが振り返るとシュミットとリアーナと数名の兵士が立っている。
「えーと、カインからのお使いだけど、メモの名前がまったくわからなくて困ってるところだ。そっちはバーニアのところに行くつもりか?」
「はい。シュミット様が私達の騎士剣と騎士鎧を新調してくれると言う事なので同行する事になりました」
ジークは昨日の件でシュミットがすでに動き始めていると思ったようで、確認するように聞く。
その言葉にシュミットは小さく頷き、リアーナはシュミットの提案を素直に感謝しているようで笑顔を見せる。
「速いですね」
「迷っている時間などないからな」
ノエルは昨日の話だったはずなのにすでにバーニアに会うまで話を進めているシュミットを尊敬するような視線を向けるが、シュミット自身は当然の事しかやっていないと思っているようでその反応は薄い。
ノエルはシュミットの反応の薄さに次の言葉が続かなくなってしまったようでジークへと助けを求めるような視線を向ける。
「そうか。それじゃあ、邪魔したら悪いし、俺とノエルは行くぞ」
「待ってください。ジーク、買い物リストを見せて貰っても良いですか? もしかしたら、私がわかるかも知れませんし」
ジークはノエルの様子に苦笑いを浮かべると忙しいシュミットの邪魔をしても行けないと思ったようで、シュミットとリアーナに別れを告げて歩き出そうとする。
リアーナはそんな彼を引き止め、カインからの買い物リストを見せるように言う。
「確かにリアーナなら、俺の知識で知らない物も知ってそうだな」
「そうですね」
「それでは失礼します」
元々、隣国の騎士であったリアーナはジーク達の知らない物にも博識がある可能性もあり、ジークとノエルはリアーナに買い物リストを見せる。
リアーナは買い物リストを覗き込むとシュミットもリストに書かれているものが気になったようでリアーナの背後から買い物リストを覗き込んだ。
「わかりますか?」
「……すいません。力になれなくて」
「そうですか? となると魔術学園か? カインが探してるものだから、魔法の何かに使うものかも知れないし」
ノエルは2人の言葉が気になるようであり、遠慮した様子で聞く。
リアーナは首を横に振ると申し訳なさそうな表情をして謝り、ジークは頭をかきながら魔術学園に行ってみようかと言う。
「……待て。カイン=クロークの事だ。このリストには何か意味があるんじゃないか?」
「意味? ……」
シュミットはカインと言う人物の事を考えるとジークとノエルに買い物を頼んだ意味があるのではないかと言い、ジークはその言葉に首を傾げるともう1度、買い物リストへと視線を移す。
「ジークさん、何かわかりますか?」
「……タイミング的にカインにはめられてる気がするのはどうしてだろうな?」
ジークの服を引っ張るノエル。ジークの頭は1つの答えを導き出したようでフォルムの領主の部屋で何かを企んでいるように笑っているカインの姿が思い浮かんだのか、彼の眉間にはくっきりとしたしわが寄っている。
「何かわかったようだな?」
「……きっと、シュミット様の行動も読まれてると思う」
ジークの反応からシュミットは確認するように聞く。
ジークは乱暴に頭をかくとカインがいろいろと計算した上でこの買い物リストを渡したと言う。
「どう言う事だ?」
「きっと、この買い物リストはバーニアの店に関係している」
「……カイン=クロークならありそうだな。それなら、同行するか?」
意味がわからずに首を傾げるシュミットにジークは眉間にしわを寄せたまま、リストがバーニアの店に関係していると告げた。
その言葉にシュミットはジークの言いたい事が理解できたようで眉間にしわを寄せるとジークとノエルに同行を提案する。
「そうさせて貰う。俺とノエルで行くよりは一緒に行った方が面倒はなさそうだ」
「お、お願いします」
ジークはシュミットの提案に頷くと、先日、会ったばかりではあるがバーニアは苦手な部類に入るのか苦笑いを浮かべた。
ノエルは状況が理解はできていないようだが、ジークとシュミットの中で話が進んでいる事もあり、シュミットとリアーナ、護衛の兵士達に頭を下げる。
「それではシュミット様、行きましょうか?」
「そうだな」
リアーナはノエルの様子に苦笑いを浮かべるとシュミットへ声をかける。
シュミットはその言葉に頷くとバーニアの店に向かって歩き出し、兵士達は彼を守るように歩き出す。
「……やっぱり、重要な人物なんだよな?」
「ですね」
ジークはシュミットはハイムの重要人物だと再認識したようで苦笑いを浮かべるとノエルと一緒に彼の後を追いかけて行く。