第443話
「ジーク、今日はずいぶんと動きが鈍かったね」
「……眠たいんだよ。夜中に変な事に巻き込まれたからな。しかし、フィーナが起きるようになったのが驚きだな」
ジークとカインは手合わせを終えるとカインはタオルで頭を拭きながら、ジークの動きが鈍かった事に気づいたようで首を傾げる。
その言葉にジークは欠伸をしながら答えると庭の中心でジークとカインに入れ替わり、レイン相手に訓練をしているフィーナへと視線を向けた。
「負けず嫌いだからね」
「確かにな」
現在、カインの屋敷に滞在している人間の武芸の力量としてはカインが飛びぬけてはいる。
ジーク、フィーナ、レインの3人は得手不得手や相性もあり、フィーナはジークやレインとは良い勝負をするもののわずかに届かず、それがフィーナのおかしなやる気に火を点けたようにも見える。
「まぁ、良い傾向じゃないかな? 理想だけ求めたって、どこかで誰かとぶつからないといけない事は絶対にあるしね。ジークみたくいつも口先だけで戦況を有利にできるわけじゃないからね」
「……口先だけって言うのはお前には言われたくないよ」
カインは理想だけでは何も叶わないと言う事を知っており、苦笑いを浮かべるとジークはカインの言葉に納得がいかないのか頭をかきながら嫌味を言うがカインの方が実力が上の事も理解しているため、ため息を吐く。
「ラース様の頭に血を上らせたみたいにいつでも上手く行くわけじゃないからね」
「わかってるよ。ルッケルの時は出来すぎだ……」
「それがわかってれば良いよ」
ジークはルッケルの武術大会でラースの怒りを誘って勝利したものの、それは自分の実力でもない事は理解できているようで乱暴に頭をかいた。
その様子にジークが自分の実力を過信していない事に安心したのかカインはくすりと笑う。
「なぁ、カイン、おっさんの家って後継ぎってあれしかいないんだよな?」
「あぁ、そうだけど、どうかしたのかい?」
「いや、オズフィム家って騎士の家系なんだろ。おっさんの娘は騎士より、魔術師なんだろ。その時ってオズフィム家ってどうなるんだ?」
ジークは昨晩のカルディナの様子を思い出したようで、カインにオズフィム家のこれからを聞くとカインは話して良いのか考えているの困ったように頭をかいた。
「……そうだね。カルディナ様自身、文官や魔術師としての才能があるから、騎士としての後継がないからと言っても取り潰しになるような事はないと思うけどね。実際、ライオ様の手伝いもしたりしているわけだしね。ただ、オズフィム家の名前って言うのは対外的にも有効だから、オズフィムの名前が騎士隊の名前がある事は他国への牽制になあるだろうから、才能のある騎士を婿に招き入れる事になると思うよ」
「そうか……おっさんの娘もいろいろと大変だな」
カインはカルディナ自身の才能を買っているのだが、彼女自身の才能ではどうしようもない事も多いようで首を横に振る。
ジークはわかってはいたものの、改めて、名家には面倒な事があると思ったようで頭をかく。
「魔術師としての才能を認められていてもそれを発揮する事が出来ないかも知れないのはもったいないよね」
「……なぁ、そう言えば、前にエルト王子が言っていた魔法騎士隊とかのおっさんの娘の名前を入れるわけにはいかないのか? それなら、オズフィム家の名前も使えるだろ?」
ジークはオズフィム家の名前が騎士隊にある必要があるなら、新たに新設を考えている騎士隊に入れる事は出来ないかと言う。
「エルト様もそれを視野には入れているよ。ただ、それを希望するかはカルディナ様しだいだからね。後はラース様がカルディナ様を戦場に出すような事をするかどうか」
「……おっさん、娘を溺愛してるからな」
カインは問題はカルディナの意思が重要だとは言うが、彼女の意思以外にもラースの考えも出てくると言う。
その言葉にルッケルでカルディナが暴走した時に役立たずと化したラースの姿を思い浮かべたようで眉間にしわを寄せる。
「それが鬱陶しいみたいで、カルディナ様からは煙たがられてるけどね」
「暑苦しいからな」
カインは王都時代に見ていたラースとカルディナの姿を思い出したようで苦笑いを浮かべており、ジークはため息を吐くと訓練をしているフィーナとレインへと視線を移す。その表情は両親と言う物を知らない彼にとってはどこか羨ましく思っているようにも見える。
「……確かに暑苦しいですが、他人の噂話をするなんてこれだから、庶民は」
「カルディナ様、おはようございます」
「……」
その時、ジークとカインの背後から呆れた様子のカルディナの声が聞こえる。
カインは彼女の声に振り返ると深々と頭を下げ、朝の挨拶を交わすがジークは軽く会釈をするだけであり、カルディナはジークの反応が気に入らないのか不機嫌そうに頬を膨らませた。
「よく眠れましたか?」
「はい。お兄様」
「お兄様?」
2人の様子にカインは小さくため息を吐くと、ジークとカルディナの間でまたおかしなぶつかり合いになっても困るため、カインは間に割って入るとカルディナはミレットの口車に完全に乗ってしまっているようでカインをお兄様と呼ぶ。
突然の事にカインは意味がわからないようで首を傾げるとジークへと視線を向ける。
「……ミレットさんに詳しい事を聞いてくれ」
「ミレットに?」
「お兄様、私は身支度をしてきますわ」
ジークはカインの視線をカルディナの言葉に眉間にしわを寄せるが、カインは意味がわからないようで眉間にしわを寄せた。
カルディナは自分でカインをお兄様と呼ぶのはやはり恥ずかしかったようで顔を赤らめて足早に駆け出す。
「ジーク、どう言う事?」
「……ミレットさんがおっさんの娘がカインに向けてるのは兄へと向けるものに近いんじゃないかって言ってな。それで」
「……よくわからないけど、一先ず、落ち着いたみたいだから良いのかな?」
カインはミレットに聞く前にジークからも話を聞いておきたいと思ったようでもう1度、尋ねる。
ジークは昨晩あった事を簡単に話すとカインは意味が理解できないようだが、カルディナが婚約者だと言わなくなった事を良い事だと思ったようで苦笑いを浮かべた。




