第442話
「ジークさん、朝ですよ……起きませんね」
ノエルは目を覚ますと居間におり、ソファーで眠っているジークの身体を揺する。
しかし、夜中にカルディナ、ミレットの2人と話し込んでいたジークはちょうど深い眠りのタイミングに入っているようで目を覚ます事はない。
ノエルは1度、周囲を見回し誰もいない事を確認した後、ジークが起きないのを良い事に眠っている彼の頬を指で押し、その時に起きるかすかな反応を見てくすくすと笑う。
「ジークさん、朝ですよ」
「……」
ノエルはジークの反応を楽しむように顔を覗き込んで言うが、忙しかった昨日の事もあり、目をなかなか目を覚まさない。
そんな2人の姿を居間と廊下を仕切っているドアの陰から見ている影が2つあるが、ノエルはジークの反応を楽しむ事に集中しているため、その影に気がつく事はない。
「……いちゃついてるね」
「なぜ、隠れる必要があるのですか?」
覗いていた2人はカインとセスであり、カインは2人の姿を微笑ましく思っているのか表情を和らげる。
セスは居間に入ろうとした時にカインに腕をつかまれており、カインがなぜ、自分を止めているのかわからないのか首を傾げている。
「あまり2人にしてあげられる時間もないからね。こう言うのも良いんじゃないかな? ってね」
「それはそうかも知れませんけど何かあったら、カルディナ様もいるわけですし」
カインは邪魔をしてはいけないと思ったようでセスの手を引くが、セスはセスでノエルがジークの寝顔に欲情して襲いかかってはいけないと考えているようで眉間にしわを寄せた。
「流石にそれは問題だと思うけどノエルの性格上ないと思うよ。この状況が逆なら考えないといけないけどね」
「確かにジークの方が問題ですわね」
「……なぜ、そこで敵意の視線を向けるんですか?」
カインはセスが心配するような事は起きないと笑う。
セスはカインの言葉を精査するように考え込むとソファーで眠っているジークへと強い敵意を込めた視線を向け、カインは相変わらずのセスの様子に大きく肩を落とした。
「だいたい、カルディナ様に悪影響になるかも知れないと言うなら、昨晩くらい俺の部屋に来ないって言う選択肢はなかったのかな?」
「そ、それとこれとは別問題ですわ」
「ジークが何かあったら困るからって、気を使って自分の部屋を空けてくれたのに、セスがそんなにはしたない事をするなんて、ジークも考えてなかっただろうね」
セスはカインの部屋で1夜をともにしたようであり、カインは彼女をからかうように笑うとセスは顔を真っ赤にする。
その姿にカインは愛おしそうな視線を向けるが、ジークが空気を読んでくれた事をもう少し気にかけて欲しいとも釘を刺す。
「そ、それはわかっています……と言うか、それがわかっていたなら、私が部屋に行った時に話をしなさい」
「何を言ってるんだい? 最愛の女性からのお誘いを断るのは男として問題があるよ」
セスは軽率な行動に出てしまったと思ったようで肩をすくめるが、直ぐにカインが気が付きながらも自分を部屋に招き入れた事に気が付き、声を上げて彼の胸倉をつかむ。
しかし、カインは胸倉をつかまれようが関係ないと思っているようでひょうひょうとした態度で笑っている。
「まったく、この男は、邪魔してはいけませんから、移動しますわよ」
「最初からそう言ってたけどね。まぁ、セスが騒ぐから、ばれちゃったんで意味もないんだけど」
「ばれた? ……失礼します」
セスはカインの言葉にこれ以上、青筋を立てているわけにもいかなくなったのか頬を膨らませてカインの腕を引っ張りこの場所を離れようとするが、既に遅く彼女が先ほどカインを怒鳴り付けた事でノエルに2人の存在はばれている。
カインの言葉の意味がわからずに首を傾げるセスは、カインが居間の中を指差している事に気がつくと指差している場所へと視線を向け、顔を真っ赤にしたノエルと目が合い、セスは何事もなかったかのようにカインを引っ張ってこの場所から逃げ出そうとする。
「い、いつから見てたんですか!?」
「ノエルが居間の様子をうかがって誰もいないと思ってジークの頬を指で突き始めた頃からかな?」
「最初からじゃないですか!?」
ノエルは直ぐに言葉が出てこないようで何度か口をパクパクと動かした後に驚きの声をあげた。
彼女の驚きの声にカインは苦笑いを浮かべながら、正直に最初から見ていたと種明かしをし、その一言で真っ赤だったノエルの顔はより一層の赤みを帯びて行く。
「俺は邪魔したら行けないから、移動しようと言ったんだけどね。どうしてもセスがノエルがジークを襲ったら困るから、生温かい目で見守りたいって言うから」
「わ、私はそんな事は言ってません!? ……」
カインは悪びれる事なく、セスにすべてを押し付けるとセスはカインの言った事は事実無根だと言おうとするがカインの言葉に嘘はない事に気が付き目を伏せてしまう。
「とりあえず、見つかったんだから、廊下にいても仕方ないし」
「ま、待ちなさい」
カインはノエルに見つかった事もあり、廊下に立っている理由もないため、居間に入って行き、セスは慌ててカインの後を追いかけるがノエルと顔を合わせるのが気不味いのかカインの背中に隠れている。
「あれ? なんかお茶を飲んだ後があるね。3人分?」
「ほ、本当です」
カインはジークが眠っているソファーの前に着くとテーブルの上にカップが3つとポット、ミレットが作っておいたお茶菓子があるのを見つける。
ノエルはジークの寝顔に夢中だったようであり、テーブルの様子には気が付いてなくカインに言われて初めて気が付いたようで驚きの声を上げた。
「ノエルが知らないって事はフィーナはあり得ないから、レインとミレットかな?」
「と、とりあえず、片付けをしてきますね」
カインは人数から深夜のお茶会のメンバーを予想するが、ノエルはジークとの事を見られていたのが恥ずかしいようで逃げるようにテーブルを片付けるとキッチンに移動してしまう。
「ジーク、起きな。手合わせ手伝ってよ」
「……あ? 朝か? 寝た気がしないな」
カインは苦笑いを浮かべながらノエルの背中を見送った後にジークの身体を揺する。
ジークは目を覚ましたようでうっすら開いた目でカインを見て、状況を理解したのか覚醒しきっていない頭をかき欠伸をする。




