第438話
「……起きませんね」
「そうだな。やっぱり、おっさんを呼んでくるか? あまり遅くなると寝る場所もないしな。1晩くらいおっさんに預かって貰っても良いだろ」
凍りついたカルディナをソファーに寝かせておき、夕食と後片づけを行う。
目を覚ましたカルディナが再度、逃走を試みても困るため、ジーク、ノエル、レインの3人が見張りを受け持っている。
ノエルは心配そうにカルディナの顔を覗き込むとジークは頭をかきながら彼女の父親であるラースを呼びに行くべきかと首をひねった。
「それもそうね。私達が面倒みる理由もないのよね」
「そうかも知れませんけど、ワームのラース様に預けても問題を解決しなければ、結局、逃走するだけではないでしょうか?」
その時、夕飯の後片づけを終えたフィーナとミレットがカルディナの様子を見にきたようであり、フィーナはジークの言葉に賛同を示すが、ミレットは先ほどのカルディナの様子から彼女を放置するのは無責任ではないかと苦笑いを浮かべた。
「そんな事を言っても正直、俺達、無関係なんだよな」
「そうよね。元々、2人が先延ばしにしていたせいでしょ」
「2人ともそう言わないで上げてください」
ミレットの言いたい事も理解できるものの、ジーク達は元をたどればこの件は完全な部外者であり、ジークは居間にあるテーブルで仕事を続けているカインとセスへと視線を向ける。
ジークの視線を追いかけるようにフィーナはセスへと視線を向けるとセスはジーク達の言いたい事がわかっているようで気まずそうに視線を逸らし、セスが責められている様子にレインが割って入る。
「先延ばしにしたって言われても聞く耳を持ってくれなかったからね」
「それが1番の問題ですね」
カインは先延ばしになどしたつもりもなく、苦笑いを浮かべるとカルディナの性格を知っているミレットは苦笑いを浮かべた。
「でも、実際問題、このままにして置くわけにもいかないでしょ。実家に戻しちゃうのが1番安全なんじゃないの? 騎士様の家なら警備兵だって夜中までいるんでしょ」
「それはいますけど……」
カルディナがいつ目を覚ますかわからない事もあり、睡眠時間などを考えるといつまでも彼女の相手などしていられないと言い切る。
セスは夜間の警備も万全だと知っているため頷きはするが、カルディナをこの状態にしてしまった責任を感じているようで面倒をみたいようにも見える。
「それなら、逃がさないために縛りつけておきますか?」
「……ノエル、たまにおかしな事を言うな」
ジーク達にとって1番の問題はカルディナが目を覚ました時に逃走を試みる事であり、ノエルは良い事を思いついたとカルディナをしばりつけておく事を提案する。
しかし、その言葉は普段の彼女から考えられる言葉ではなく、ジークは眉間にしわを寄せた。
「お、おかしな事なんですか!? 村の人から、ジークさんが悪さして逃げ出そうとする時はよくしばりつけていたって」
「ジークとフィーナは良く縛りつけられてたね。フィーナは今でも木に吊るされてるよね」
「……余計な事を」
ジークの反応にノエルは驚きの声を上げながら、ジオスの年寄り連中からジークやフィーナの子供の時の話を聞いたようであり、その時の話をする。
カインは昔の事を思い出しているようで苦笑いを浮かべるとジークはノエルに避けない事を吹き込んでいる村人達の顔を思い浮かべたようで舌打ちをする。
「ジークもフィーナも子供の頃も元気だったんですね」
「もって、何ですか? もって、だいたい、俺は縛りつけられるような事はしてない。フィーナが余計な事をしてとばっちりを喰らっていただけです」
ジークとフィーナの子供の頃の話にミレットはくすくすと笑うとジークは自分はおかしな事などしていないと言い、原因はフィーナだと彼女を指差して主張する。
「そんなわけないでしょ」
「まぁ、確かに8~9割はフィーナが原因だったね」
「……残りの1~2割はお前が意味もなく、縛りつけてたんだろ」
フィーナはいつものように自分は何も悪くないと言い切り、カインはその姿にどこか呆れ顔でため息を吐いた。
カインの言葉にどこか納得のいかないジークは眉間にしわを寄せている。
「何を言ってるんだい? 残りは2人が勝手にアーカスさんの罠にはまってただけだろ」
「いや、それも少しあるけど違うだろ。それより、実際、どうするんだ? いつ、目を覚ますかわからないなら……これ、行っとくか?」
カインは悪びれる事なく、自分は関係ないと言い切り、残りをアーカスのせいにする。
ジークはこれ以上、言っても仕方ないと思ったようで大きく肩を落とすとカルディナの事をどうするか考えようと首をひねった時、何か思いついたようで懐からアリア直伝の栄養剤を取り出す。
「……ジークさん、いつも、どこから栄養剤を取り出すんですか?」
「まぁ、気にするな。それで、1本飲ませてみるか?」
「……永眠させる気?」
ジークが取り出した栄養剤を見て、ノエルは若干、ジークから距離を取る。
栄養剤には気付の効果もあるため、ジークはカルディナに飲ませて見るかと言うが、栄養剤の不味さを知っているフィーナは眉間にしわを寄せた。
「何を言ってる。これは気付の効果があるんだぞ」
「確かにあるけど、初心者にはきついと思うよ。下手したら、魂が持って行かれる」
「それなら、それで朝まで起きないだろ」
ジークはカルディナを起こすにはこれしかないと言い切るが、今この場にいるメンバーでは唯一の常用者であるカインですら反対をする。
しかし、ジークはそれならそれでカルディナを朝まで起きる事はなくなると清々しいまでの笑顔で言い切るとカルディナへと手を伸ばす。
「ジーク、楽しんでませんか?」
「いや、おっさんの娘には何かと迷惑をかけられてるからな。憂さを晴らすにはちょうど良い機会かと思ってな!?」
レインは流石に栄養剤は飲ませられないと判断したようでジークの腕をつかみため息を吐く。
ジークは迷惑をかけられているため、その仕返しをしようとしているようであり、口元を緩ませており、その姿にカインは眉間にしわを寄せると背後からジークの頭に拳骨を落とす。
「とりあえず、外には出ないように窓と玄関には魔法でカギをかけておくから、今日は休もうか? 部屋は」
「俺の部屋を使えよ。起きて、カインに夜這いをかけても困るからな」
カインはため息を吐くと今日は休もうと言い、ジークは状況を理解してはいるようで自分がソファーで寝ると言う。




