第437話
「カイン、そろそろ、カルディナ様をどうにかしないといけないのでは?」
「確かに……だけどな」
未だにねつ造したカインとの思い出を熱く語っているカルディナの様子にレインは大きく肩を落として言う。
カインはその言葉に頷きはするものの、彼自身、どのように言って良いのかわからないいようで困ったように頭をかいた。
「カインさん?」
「いや、流石に経験のない事だから、なんて言ったら良いかわからない」
あまり見た事のないカインの困り顔にノエルは首を傾げると、カインは隠していても仕方ないと思っているようで苦笑いを浮かべる。
「ハイムに名を轟かせる稀代の天才魔術師も女の子1人に頭が上がらないと言うのは面白いですね」
「そう言わないでください」
「カイン様、これだけの時間を一緒に過ごした私の事を捨てると言うのですか?」
カインの言葉にミレットはくすくすと笑い、カインは気まずそうに首筋をかく。
その時、カルディナはねつ造した思い出を語り終えたようで真っ直ぐにカインを見て問う。
「捨てるも何もそんな事実ないじゃない」
「確かにそうですね。ジーク、少し良いですか?」
「あぁ」
カルディナの言葉にフィーナは眉間にしわを寄せ、レインはどうして良いのかわからないようで眉間にしわを寄せると小声でジークを呼び、ジークとレインは2人で居間を出て行く。
「どうかしたのか?」
「いえ、このままでは収まりそうにありませんので、ラース様を呼びに行っても良いのではないでしょうか?」
「いや、流石にこの時間になると不味いだろ。何より、おっさんの娘の性格を考えるとおっさんが来たところで納まるわけがない。下手したら、おっさんが返討ちに遭う」
レインはこの状況をどうにかするためにラースを呼びに行く事を提案する。
ジークは眉間にしわを寄せてしばらく考え込むが、レインの提案には頷けない部分が多いようで大きく肩を落とした。
「……確かにそうかも知れませんね。しかし、そうするとどうしたら良いんですかね?」
「どうするも何もカインとセスさんに任せるしかないだろ。元々、2人がはっきりとしてなかったから起きた問題だろ。カインがおっさんと知り合う前から、魔術学園では生温かい目で見られてたんだから……と言うか、あれだけの人間が生温かい目で見守ってきたのにおっさんはまだしももおっさんの娘は魔術学園に通ってたわけだろ。どうして、2人の関係に気がつかないんだ?」
ラースの下で武芸を学んでいたレインはラースとカルディナの姿を見てきた事もあり、ジークの言葉に納得してしまったようで眉間にしわを寄せる。
ジークは首筋をかきながらカインとセスの問題だと言い切りながらも、今日の応接室や王都でも話題になるくらいの関係に気が付いていなかったラースとカルディナの鈍さに呆れたように肩を落とした。
「ラース様は騎士団を率いて王都を開ける事も多かったですし、カルディナ様は研究で研究室に閉じこもる事もあったでしょうから」
「そうだとしてもな。鈍いんじゃないのか?」
「それなら、私は正妻でなくても構いませんわ」
「……何があったんだ?」
ジークとレインはこれ以上、話をしていても仕方ないと思ったようで居間に戻ろうとした時、カルディナの口からぶっ飛んだ言葉が放たれ、ジークとレインは何があったかわからずに顔を見合わせると急いで居間に戻る。
「……カルディナ様、何を言っているんですか?」
「お慕いするカイン様と尊敬するセス先輩なら、私は構いません。それにカイン様なら何もおかしくはありませんわ」
「……これは引くわ」
カルディナの言葉は常軌を逸したものであり、カインは眉間にしわを寄せて聞き返すが、彼女の中では最善の答えを導き出したと思っているようであり胸を張っている。
しかし、その言葉は信じられるものでもないため、フィーナは何を言って良いのかわからないようで眉間にくっきりとしたしわを寄せて首を横に振った。
「ノエル、ミレットさん、どうなってるんですか?」
「……見たままです」
「わたしはそう言うのはダメだと思うんです。お互いに好き同士が結ばれるべきだと思うんです」
ジークとレインは席に座り直すと先ほど聞こえたカルディナの発言について聞くとミレットも流石に呆れているようで首を横に振る。
ノエルはカルディナの言葉は信じられず、声を上げた。
「カルディナ様、おかしな事を言わないでください。私は妻を何人も迎えるつもりはありません。私はセスと一生添い遂げると決めました。彼女以外にはそのような気持ちを持つ事はありません」
「……はっきり、言い切ったな」
「ですね」
カインはこれ以上、言い聞かせるのは無理と判断したようできっぱりとカルディナの考えを拒絶する。
その言葉にセスは顔を真っ赤にしてうつむき、ジークとミレットはうつむいたセスを見てニヤニヤと笑う。
「カ、カイン様のバカぁぁぁ!!」
「ジーク、捕まえて」
「はいはい」
はっきりと拒絶され、カルディナは勢いよく席を立つとルッケルの時と同様に走りだそうとする。
その様子にフィーナはため息を吐くと、ジークは先ほど彼女と話をしていた事もあり、予想できていたようで冷気の魔導銃を構えてカルディナへと銃口を向けた。
魔導銃の銃口には青い光が集約し、カルディナが居間と廊下を仕切っているドアに手を伸ばした時、ジークは魔導銃の引鉄を引き、カルディナを撃ち抜く。
「……有効な手段ですけど、乱暴すぎませんかね?」
「まぁ、おっさんの娘だし、問題ないでしょう。それにおかしな所に行かれても困りますし、それでどうするんだ。王都まで連れて帰らないといけないだろ?」
ミレットはあまり見慣れていない冷気の魔導銃の使い方に大きく肩を落とすが、ジークは日も暮れてきたなか、フォルムの街中を探し回りたくないと言い切るとカルディナをこのままフォルムに置いておくわけにもいかないと思ったようでカインとセスにカルディナをどうするかと聞く。
「とりあえず、この状況で帰すわけにもいかないし、目を覚ますまで寝かせておいて目を覚ましたら王都まで送るよ」
「それなら、目を覚ました時にまた逃げないように見張りを立てないとな」
カインは流石に疲れたようで力なく笑うとジークは面倒だと言わんばかりにため息を吐いた。