第436話
「……そんな噂になってるんだ」
「2人の事でやきもきしていたのはわたし達だけじゃなかったみたいですから」
カルディナから聞かされた噂話にカインは大きく肩を落とす。
その様子にノエルは苦笑いを浮かべつつも、セスの反応から何かを想像したようで顔を赤くして視線を逸らした。
ノエルの様子にジークも少し困ったような表情をすると自分の席に戻る。
「そ、それで噂話が嘘だと確認したくて、私と言う婚約者がいますのに」
「カルディナ様、セスとは先日から恋人になりましたが、子供ができてなどしません。それに何度もお話していますが、私がカルディナ様と婚約したと言う事実はありません。私にも領主と言う立場ができましたので、あまりおかしな事を風潮しないで頂けないでしょうか?」
カルディナは不安そうに声を震わせながら、もう1度、フォルムまで足を運んだ理由を話す。
カインは真面目な話でもあるため、表情を引き締めるとカルディナに婚約していると言う事実はない事を告げる。
「そ、そんなわけありませんわ」
「いや、エルト王子もそんな事実はないって言ってただろ。どこで脳内変換して、カインの婚約者に納まったんだよ? その辺のところはどうなんだ?」
カインの言葉が信じられないと首を振るカルディナだが、彼女がどこでカインの婚約者と妄想しているか理解できないジークは眉間にしわを寄せるとカルディナが婚約者だと思い込んでいる理由を聞く。
「正直、わからない。ラース様からエルト様の側近になった時に味方は作っておけと言われた事はあったけど、カルディナ様と婚約しないかとも言われた事はないしね」
「……私もカルディナ様がカインの婚約者だと言っているのは聞いていましたが、なぜ、そのようになっているのかはわかりません」
カイン自身、ラースからも正式に婚約の提案をされた事はなく首を傾げている。
セスは後輩として可愛がっていたセスと昔からカインに想いを寄せていた事もあり、彼女の事もあったためか素直にカインに想いを告げられなかったようで言いにくそうに言う。
「……まったくの事実無根じゃないの?」
「最初から言ってるだろ」
フィーナは呆れたように肩を落とすと、カイン自身も困っていたようで苦笑いを浮かべる。
「そんなわけありませんは私とカイン様の間には確かに愛があったはずですわ!! 思い出してください。カイン様、初めて会った日の事、私の事を好きと言ってくれた日の事を」
「……」
「ないから、セス、睨まないでくれるかな」
しかし、認めきれないカルディナは勢いよく立ちあがると脳内で勝手に作り上げたカインとの思い出を語り出す。
セスはカインがカルディナ相手に調子の良い事を言っていたと思ったようでジト目で彼を睨みつけるが、彼女の妄想でしかなくカインは大きく肩を落とした。
「で、実際、どうするのよ? このままにしてて、王都で声高にあんたの婚約者だと叫ばれても困るんじゃないの?」
「確かにそうですね。セスさんのご両親に挨拶をしてきたわけですし、そんななかでカルディナ様がカインの婚約者だと言っているのがセスさんのご両親の耳に入るのは良くないでしょうし、家名で言えばオズフィムの方が上でしょうから、セスさんのご両親が委縮してしまうかも知れませんし」
話も聞かず、脳内で作り上げたカインとの思い出話を語っているカルディナの様子に疲れてきたフィーナはため息を吐く。
ミレットはカルディナの姿に苦笑いを浮かべつつも、カインとセスの将来を考えるとカルディナに速く現実を見せた方が良いと言う。
「その件に関して言えば、大丈夫じゃないですか? カルディナ様だけが言って回っているのは王城でも有名な話ですし」
「……どうして、誰も教えてやらないんだよ」
「オズフィム家の御令嬢ですからね。進言するのもいろいろとあるんでしょう」
レインは苦笑いを浮かべながら王城内でのカインとカルディナの噂話の浸透率について話す。
それだけ広まっている話なら、カルディナを誰もいさめない事に眉間にしわを寄せた。
ミレットは他の騎士や貴族達の考えもわかるようでくすくすと笑っている。
「進言も何もエルト様やライオ様にも言われてるんじゃないの?」
「確実に言われてるな。エルト王子はカインをアンリ様と結ばせようとも考えてた時期もあるみたいだし」
フィーナは眉間にしわを寄せ、言わないといけない事ははっきりと言うエルトやライオの顔を思い浮かべたようであり、首を傾げている。
ジークはルッケルでエルトが冗談交じりで言っていた事を思い出して首筋をかきながら言う。
「カイン、カルディナ様の事もありますが、小さな娘が好きなわけじゃないですよね?」
「……だから、睨まないでください。そんな事実はありません。と言うか、疑われるのも悲しくなるんですけど、ジークも余計な事を言わないで」
ジークの言葉にセスはカインにおかしな性癖があったと思ったのか、疑いの視線を向けた。
カインはその視線に耐えきれないようで小さくため息を吐くとセスに信じて欲しいと言う。
「悪かった。あれはあれでおっさんの娘に諦めさせようと思ってただけだろうけどな」
「あれはね。流石に平民出身者が大抜擢でエルト様に仕えるって事になったから、敵も多くてね。それなりに味方もいたけど」
ジークはエルトが冗談で言っていた事を理解しているため、苦笑いを浮かべるとエルトがアンリとの事を言っていた事の真意を話す。
カインはジークの言葉を補足するとエルトのそばに仕え始めた時の事を思い出したようで苦笑いを浮かべる。
「と言うか、おっさんの娘って、周りからの評価ってどうなんだ? 一応は騎士の名門の出身なんだから、カインはなくても婚約の申し込みとかってあるんじゃないのか?」
「あれでしょ。有ったとしても下手な申し込みだとおっさんが跳ねのけるでしょ」
ジークはカルディナに正式な婚約者はいないのかと言うとフィーナはラースの性格を考えれば婚約者などできないと言い切る。
「確かにそうですね。ラース様、カルディナ様を可愛がっていられますから」
「その割におっさんは煙たがられてるけどな」
彼女の言葉にジークとノエルはルッケルでのラースの様子を思い出したようで苦笑いを浮かべた。




