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勇者の息子と魔王の娘?  作者: まあ
カインの罠
433/953

第433話

「ここが私とカイン様の愛の巣になるのですね」


「どこで記憶がねつ造されるんだろうな」


「わ、わかりませんね」


エルトに命じられ、しぶしぶ、カルディナをフォルムに連れて帰る。

転移の魔導機器は無事に起動し、3人の目の前にはフォルムの領主であるカインの屋敷が映った。

屋敷の中にカルディナに取っての最愛の男性であるカインがいると言う事に彼女は目を輝かせ始める。

その様子からはすでに自分の都合の悪い事は頭から排除されているようにしか見えず、ジークとレインは眉間にしわを寄せた。


「平民、早く、私をカイン様の下に案内しなさい」


「……」


「待ちなさい!? なぜ、ドアを閉めるのですか!? 平民の分際で私の言う事が聞けないのですか!!」


カルディナはジークを召使か何かだと思っているようでジークにカインの下に案内するように言うが、ジークはレインの背中を押し、屋敷の中に入るとドアを閉めて施錠する。

目の前でドアが閉まり、カギがかけられたため、びくともしないドアを前にカルディナは驚きの声を上げてドアを叩く。


「……ジーク、レイン、あんた達、何してるのよ?」


「いや、王都に行ったらおっさんの娘に捕まった」


「何で、あんなの連れて帰ってくるのよ」


その時、フィーナがジークとレインに気が付き、外から聞こえてくるカルディナの声に説明を求めるように言う。

彼女は汗を流していたのか濡れた髪をタオルで拭いている。

ジークは言いにくそうにカルディナをフォルムに連れてきたと言うと、フィーナは彼女に関わり合いたくないためか眉間にしわを寄せた。


「仕方ないだろ。エルト王子に押し付けられたんだから」


「……相変わらず、余計な事を押し付けるわね」


「ジーク、カルディナ様をあのままにして良いんですか?」


ジークは大きく肩を落とし、全部、エルトが悪いと言うとフィーナは自分達に厄介事を押し付けて、楽しそうに笑っているエルト顔が目に浮かんだようで大きく肩を落とした。

ジークとフィーナの様子と外から聞こえるドアを叩く音にレインはこのままではいけないと思ったようであり、カルディナを屋敷の中に招こうと言う。


「とりあえず、カインとセスさんに話をしてきてからじゃないか? このまま、連れてっても揉めるだけだろうし、少しすれば静かになるだろう」


「静かになれば良いわね……」


「いや、ならないだろうね。ジーク、レイン、お帰り」


ジークはしばらくカルディナの頭を冷やそうと思ったようで、カインとセスにカルディナをフォルムまで連れて来た経緯を話しに行こうとする。

フィーナのカルディナに抱いている不快感は相当なものであり、眉間にしわを寄せて首を横に振った時、外の騒ぎが聞こえたようでカインが玄関に顔を出し、ジークとレインを出迎える。


「ただいま。戻りました」


「カイン、ちょうど良かった。王都でおっさんの娘に捕まったんだけど、どうしたら良い?」


「とりあえず、状況は何となく理解できたから、中に入って貰おうか? 流石にオズフィム家のお嬢様を蔑ろにするわけにはいかないし」


レインはカインに頭を下げるとジークは玄関のドアを指差して聞く。

カインは騒ぎの主がカルディナだと理解したようでため息を吐くと玄関へと近づき、カギを開ける。


「平民のくせに私をそとに放り出すとはどう言う事ですか!? カ、カイン様!?」


「カルディナ様、このような辺境の地に足を運んでいただきありがとうございます」


玄関のドアが開いた事で、カルディナは自分を粗雑に扱ったジークへと怒りの声をあげるが、目の前に移ったのはカインの姿であり、驚きの声をあげた。

彼女の様子とは対照的にカインは落ち着いた様子で頭を下げるとカルディナを居間へと案内して行く。

カルディナは先を歩くカインの腕に飛びつこうとするが、カインは振り返る事なく、彼女の突撃を交わして先を進む。


「……揉めないか?」


「揉めるでしょ。と言うか、また街の外に出て行かないわよね? 日も落ちてきてるのに探しに行くのイヤよ」


なんだかんだ言いながらもラースに世話になっている事もあり、カルディナの好きにさせてはいたようだが、正式にセスと付き合う事になった事で一線を引く事をしないといけないと思ったようでカインはカルディナに抱きつかれるような事はしない。

2人の背中を見送りながら、ジークはこの後、居間で繰り広げられるであろう騒ぎに大きく肩を落とすとフィーナはルッケルで彼女を街の外まで探しに行った時の事を思い出したようで彼女の眉間のしわはさらに深くなって行く。


「……取りあえず、追いかけましょうか?」


「そうだな……俺は疲れたから、汗を流してこようと思うんだ」


レインは何かあっても困るため、カインとカルディナを追いかけようと言う。

ジークはレインの言葉に少し考えると逃げようと決めたようで浴場に行こうとするがフィーナが手を伸ばし、ジークを止めた。


「今はセスさんが使ってるわよ」


「……タイミング良いのか? 悪いのか?」


邪魔するなと言いたげなジークの様子にフィーナは浴場には行かせないと言い、ジークは観念したのか乱暴に頭をかくと居間に向かって歩き出し、フィーナとレインはジークの後に続く。


「お帰りなさい。ジークさん、レインさん、今、お茶を用意しますね」


「あぁ、ただいま」


居間にジーク達が顔を出すとすでにノエルはカルディナに良いように使われているのか、テーブルの上にカインとカルディナの分のお茶が用意されている。

その様子にジークは小さくため息を吐くものの、ノエルにおかしな顔を見せるわけにもいかないと思ったようで直ぐに笑顔を見せる。


「お帰りなさい。ジークさん、レインさん」


「ミレットさん、遅くなりました」


「いえいえ、それより、今日はずいぶんとお客さんが多い日ですね。夕飯、どうしましょうか?」


ノエルから遅れてミレットが顔を出すとジークとレインはミレットへと頭を下げる。

ミレットは2人の様子に柔和な笑みを浮かべると、夕食時にカルディナが訪れた事で彼女の夕食をどうしようかと首をかしげた。


「要らないんじゃないか? 平民と同じ場所で食事などとか言うぞ」


「確かに言いそう」


「そう言うわけにもいきませんよ。何か簡単なものでも追加しましょう」


ジークは基本的に人の事を見下す事しかしないカルディナに夕食を出す必要がないと言い切り、フィーナは賛成だと言わんばかりに大きく頷く。

ミレットは2人を叱りつけるように言った後、キッチンに戻って行き、ジークとフィーナは気まずそうに顔を見合わせるとミレットを手伝おうと思ったようで彼女の後を追いかける。


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