第430話
「このまま、目的地まで行くか?」
「いや、時間も遅いからな。明日、顔を出そう。仕事を依頼するにもそれなりに調整しなければいけない事もあるからな」
シュミットを王都に送り届けるためにジークは再度、王都へと転移の魔導機器を使用して移動した。
ジークの持っている魔導機器は移動場所が完全固定のため、カインの王都にある屋敷から王城に向かって2人で歩く。
ジークはカインとシュミットの話を聞き、バーニアの作業場に行くかと聞くがシュミットは首を振った。
「やっぱり、大変なんだな」
「当然だ。私は王都に戻ってくる事はできたとは言え、家臣がいるわけではないからな。ルッケルの暗殺騒ぎで権威も落したからな。落ち目の人間に近づいてくる人間などいない……」
シュミットにかかっている負担は彼自身の行いが返ってきたものとも言えるため、シュミットはその事に関して少しだけ寂しげに笑った後、ジークへと視線を向ける。
「どうかしたのか?」
「……ジーク=フィリス、こんな事を言うのは筋違いなのはわかっているが、私に仕えてはくれないか?」
「何を言ってるんだ?」
シュミットの視線にジークが首を傾げると、シュミットは真剣な表情でジークに臣下になって欲しいと言う。
彼の言葉の意味がわからずに眉間にしわを寄せるジーク、その表情は以前、シュミットが自分の両親の名をあげて自分を勧誘した事を思い出しているようにも見える。
「勘違いしないでくれ。ジーク=フィリス、お前がフィリス夫妻の子だから、臣下に迎えたいと言っているのではない。私はあの時とは違う」
「なら、何だって言うんだよ」
シュミットはジークの怒りに火を点けてしまった事に小さくため息をつくが、ジークはシュミットを睨みつけた。
「私には信頼できる臣下がいない。エルト様の下である程度の信頼を回復する事が出来たが、それでも近づいてくる者は裏がある者達だ。その者達を臣下として迎い入れたとしても私が間違った事をしようとした時に何も言わずに私から離れて行く者ばかりだろう。私の間違いを正し、いさめてくれる者はいない。まだ、認めるには時間がかかるが、エルト様にとってのカイン=クロークのような人物をそばに置きたいのだ」
「……」
シュミットは少しだけ自虐的に笑うと彼の抱えているものが少しだけ見えたのか、ジークの顔に出ていた怒りの色は薄れて行く。
「エルト様の補佐として仕える事でエルト様の見ている国の将来がわずかばかりだが見えてきたとは思う。その中で私なりに考えた結果だ。ジーク=フィリス、お前なら私が間違った方向を向いてしまっても引き止め、それこそ、力づくで道を正してくれそうだと思ったんだ」
「……悪い」
「そうだな。私はお前に酷い事をしたんだ。この頼みを聞いて貰えるわけはないな。忘れてくれ」
シュミットは自分なりに悩んで出した答えだと言うが、ジークにはジークの考えもあるため、首を横に振る。
ジークが断ったのは自分が彼に行ってしまった悪事の事があるため、シュミットはジークに忘れるように言う。
「別にシュミット様に臣下として仕えるのがイヤってわけじゃない……いや、完全にないとは言わないけど、俺自身、エルト王子がシュミット様を頼りにしているのも見てるし、ルッケルの騒ぎの時とはシュミット様が変わってきてるって言うのも理解してる。ただ……」
「ただ?」
「……俺は俺でなりたいものがあるんだ。ずっと追いかけてきたものだから、ばあちゃんみたいになりたいって」
ジークはシュミットの言葉に答えようと思ったようで言葉を選びながら、自分の気持ちを伝えようとするが彼自身、口に出すのが恥ずかしいのかシュミットから視線を逸らし、遠くを見つめている。
その言葉の中にはシュミットの隣では見えない彼の将来像が見える。
「国の将来を見ているエルト王子やシュミット様に比べると小さいかも知れないけど、それでも……」
「いや、ジーク=フィリスの言いたい事はわかる……」
シュミットはジークなりに考えている事を理解できたようでこれ以上の勧誘は無理だと判断したようで小さく頷いた。
「ただ、目指したいものはあるけど、結局はカインやエルト王子に振り回されると思うから、言いたい事があれば言わせては貰うけどな」
「あぁ。そうして貰おう。その代わり、私もやって欲しい事があれば、エルト様やカイン=クロークと同様にお前に押し付けさせて貰う。今回の事で貴族や騎士達だけではなく、他の者達とも人脈を広げる事が重要だと理解したからな」
「……何、男同士で顔を見合わせて笑っているのですか? 気持ち悪いですわ」
ジークもシュミットもお互いにエルトの目指している未来には共感したいる事もあり、同志としては認め合っているため、意見をぶつけ合う時は遠慮しないと言う。
その姿はどこかエルトとカインと重なるところもあり、お互いに小さく表情を緩ませた時、2人の姿を見かけたカルディナが顔をしかめる。
「……おっさんの娘、お前は口の聞き方を知らないのか?」
「知りませんわ。裏で汚い事をするような人間を私は主君として認めませんわ。だいたい、平民であるあなたに言われる筋合いはありませんわ」
「……相変わらずだな」
カルディナの言葉に振りかえったジークは彼女の姿に大きく肩を落とすが、ラースの娘らしく、曲った事も嫌いな一面もあるようでシュミットを卑怯者と切り捨て、ジークを見下している。
王族相手でも物怖じしないカルディナの姿にジークとシュミットは眉間にしわを寄せた。
「……私が言うのもなんだが貴族意識が強いのは考えものだな」
「それに関して言えば、賛成だ。俺はそう言うのが薄い人達としか関わっていない分、おっさんの娘が異常じゃないかとも思うんだけどな。おっさんは頭に血が昇りやすいけど話がわかる事も最近、わかったし」
「……誰が異常ですか? 私から言わせて貰えば、平民のくせに私の事を無下に扱うあなたの方が異常ですわ。平民なのですから私の前にひざまずきなさい」
ジークは改めて、自分が関わっている立場のある人間は尊敬に足る人間だと思ったようでため息を吐くが、カルディナはジークの事を気に入らないため、鋭い視線を向けて言う。