第429話
「まぁ、実際に、嫌がらせでジークの店を潰そうとした人間もいるしね」
「……」
フィーナはシュミットが鬱屈していたとは言え、ジークの店に嫌がらせをしていたシュミットへと視線を向けるとシュミットは彼女の言いたい事がわかったようで眉間にしわを寄せた。
「……そんな事をあったな」
「ジーク、あんた、被害者なのに何、すっかり忘れてましたって顔をしてるのよ」
「仕方ないだろ。元々、田舎の店で売り上げだって微々たる物……」
シュミットの様子とは対照的に被害者であったはずのジークは被害もほとんどなかった事もあり、苦笑いを浮かべる。
その様子にフィーナはバカらしくなってきたのか大きなため息を吐くとジークは反論しようとするが自分の言葉が彼の胸元をえぐり、ジークは精神的なダメージを受けてしまう。
「……自分でダメージを受けていたら仕方ないね」
「そうですね。実際、レギアス様やラース様が気づいて対処してくれましたから、ジークのお店にも被害がなかったわけですし」
そんなジークの姿にカインに苦笑いを浮かべると、ミレットはシュミットに気に病む必要性はないと笑う。
「……しかし」
「ジーク、何か言いなさい」
「いや、その話はこの間で終わったはずだ。俺はシュミット様から謝罪を受け入れたし」
しかし、シュミットはエルトのそばで仕えた事で自分がどれだけ卑怯な事をしたかは理解できているようで何か言おうとするとセスはジークの名前を呼んだ。
セスの声に正気に戻ったジークはリュミナを王都に連れて行った時にシュミットから謝罪を受けているため、気にしなくて良いと言う。
「ジークも気にしていませんし、この話は終わりと言う事で」
「そうだな……」
カインは話を終わらせる事を提案すると、シュミットはどこかで何か引っかかってはいるものの、その言葉に頷いた。
「それでは話を戻しましょうか?」
「あぁ、カイン=クローク、医師団からアンリ様の症状を聞けるような人間はいないか? それ以外にも医師団の中にはそれを特権階級を考え、実力ではなく、世襲として息子に継がせようとしている者達もいるだろう。若い者達から疑問の声は上がっていないかも調べられると良いのだが」
「そうですね……1人は心あたりがあります。先ほど、シュミット様にも紹介したバーニア=レーヴァですね。彼は医療用の道具も頼まれて作っていますから、医師達の噂話にも詳しい」
シュミットは自分の考えでカインの人脈からこちらに引き込めそうな人間はいないかと聞く。
カインはその言葉にしばらく考え込むとバーニアの名前を出すが、先ほどの応接室でのやり取りの中でここに集まった面々からはバーニアの印象はただの酔っ払いであり、微妙な沈黙が辺りを包む。
「カイン、流石にあの酔っ払いはダメだろ」
「そう言いたいのもわかるけどね。バーニアは腕は確かだよ。それに」
「それに? 話してくれ」
沈黙を破るようにジークが言うと、カインはジークの言いたい事もわかるようで苦笑いを浮かべた。
カインの言葉にはまだ続きがあるようでシュミットは少しでも情報が欲しいようでカインに続けるように指示を出す。
「職人通りで店をやってる次世代の中では中心的な人間ですし、噂話はある程度、彼の元に集まります。あの性格ですし、エルト様やシュミット様に対して王族に都合の悪い物であっても物怖じする事なく、その噂を教えてくれるでしょう。噂話を精査する能力は不足していますが、シュミット様が何が事実で何がくだらない噂か見極める事ができれば何も問題ありません」
「……真実を見極める能力か?」
カインの言葉にはバーニアを推挙はシュミットの能力があっての物だと言う意味が込められている。
その言葉はカインからのある種のシュミットへの試験であり、シュミットはカインの言いたい事が理解できたようで一瞬、むっとした表情をするが直ぐに割り切ったようで眉をひそめ、考え始める。
「……カイン、大丈夫なのか? 確かにエルト王子の下で話を聞くようになったとは言え、プライドは高いんだぞ」
「大丈夫だよ。元々、シュミット様は行動力があるしね。メリットとデメリットの計算も速いから」
ジークはカインがシュミットに出した試験に気が付いていないようで、シュミットがまた変な気を起こさないか心配になったようだが、カインは彼の言葉を直ぐに否定する。
「……わかった。バーニア=レーヴァと連絡を付けよう。カイン=クローク、紹介状を用意してくれ」
「紹介状は必要ありません。仕事のいくつか持って行けば話を聞いてくれるでしょう」
シュミットはバーニアから情報を受ける事を承諾するとカインに指示を出すが、カインは首を横に振った。
「仕事を?」
「はい。変に私が動くよりはその方が周囲に怪しまれません。形に残るようなものがあるとそれが見つかった時に面倒な事になりますし」
「確かにそう言う部分もあるか……」
カインは紹介状を用意する事で医師団や下位とは言え、未だに王位を狙っている者達にエルトやシュミットの不利になりうる情報を与える必要はないと言う。
その言葉にシュミットは考える事があるのか、小さく頷くと何か考え始める。
「バーニア=レーヴァは細工なども得意と言っていたな?」
「はい。これは私が彼に作って貰ったものです」
「なるほど、確かに……この者にリアーナ達の騎士剣と騎士鎧を新調して貰おう」
シュミットはカインにバーニアの腕を確認するとカインは胸元から首飾りを取り出し、シュミットの前に置く。
その首飾りは短剣をモチーフにしたものであり、細部にまで手がかけられている。
シュミットはその首飾りの出来に驚いたようで大きく頷くとバーニアへと持って行く依頼を決めたようで口元を小さく緩ませた。
「リアーナ達の立派なのを着てただろ?」
「あれは一時的なものだ。まだ、メルトハイム家を正式に継いだわけでもないからな。その時にリュミナ様を護衛する騎士が古い物をまとっていては示しがつかないであろう」
「そんなものか?」
王城で見たリアーナ達の姿はジークから見れば立派なものであったが、シュミットは王族の威厳を保つためには必要な事だと言い切る。
ジークは庶民の感覚と王族の感覚が改めて違う事を思い知らされたようでよくわからないと言いたげに頭をかく。




