第428話
「シュミット様もジークの栄養剤の中毒者になったか?」
「だから、中毒性はないって言ってるだろ」
テッドの診療所からカインの屋敷に戻るとジークの栄養剤を手に頭を抱えているシュミットの姿にカインは苦笑いを浮かべた。
ジークはカインにもフィーナと同じ事を言われたため、大きく肩を落とすがジークをフォローする人間はいない。
「それより、ジーク、なぜ、シュミット様をフォルムに連れてきているのですか?」
「いや、エルト王子の相手で調子が悪そうだから、診察したんだけど見立てが正しいかまだ自信がなかったからテッド先生にも見て貰った。薬も手持ちがなかったしな」
カインとセスはフォルムに戻ってきてからは仕事をしていたため、シュミットがなぜフォルムに来ていた事を知らなかった事もあり、セスはシュミットがフォルムにいる理由を聞く。
ジークは純粋にシュミットの体調を心配したようであるが、まだ、診察としては正しい判断ができるか自信もなかったと気まずそうに頭をかきながら白状する。
「あ、後、シュミット様がカインに話があるような事も言ってたし」
「話ですか?」
思い出したかのようにアンリの事でシュミットが話があったと言うジークだが、セスはその話が出た時に友人達に拉致されていたため、話がつかめないようで首を傾げた。
「そう言えば、話が流れていましたね」
「……ちょっと、呼んでるわよ」
「あ、あぁ、すまない。ジーク=フィリス、ミレット=ザンツ、セス=コーラッド」
カインはシュミットが話があると言った後に別方向に話が流れてしまった事を思い出し、シュミットを席へと誘導するが、シュミットは未だにジークの栄養剤を片手に頭を抱えている。
その様子にフィーナは大きく肩を落とすとシュミットの身体を肘で突き、我に返ったシュミットはカインと向い合った席に座り、カインは1度、頭を下げてから座り直す。
シュミットは当事者になるジークとミレット、成り行きとは言えカインの補佐を行っているセスの名前を呼び、3人はシュミットに促されたため、遅れてソファーに座る。
ノエルは夕飯の準備をしようとキッチンに移動し、フィーナは難しい話は勘弁したいと思いながらも話の内容は気になるようで少し離れた場所で聞き耳を立てている。
「……フィーナ=クローク、変に距離を開けないで聞きたいのならばこちらに来い」
「わかりました」
「それでは始めよう。先日、ジーク=フィリスとノエリクル=ダークリードが王城に来た時の話なのだが……」
シュミットはフィーナがちらちらとこちらを様子をうかがっている事が気になるようで彼女を呼び寄せるとフィーナはジークの隣に割り込むように座った。
フィーナが席に着いたのを見て、シュミットは1度深呼吸をするとジークがアンリの診察をしたいと言った事、エルトの指示でアンリの診察を行えるように自分が動いている事、自分には人脈が不足しているため、カインに協力して欲しい事を話す。
「……ジークがアンリ様の診察をね」
「……ずいぶんと無茶な事を言いましたね」
シュミットの話を聞き、カインは状況整理のためなのか首をひねり、セスはエルトと親密な関係を築いてはいるものの、庶民であるジークにアンリの診察は任せられないと思っているようで眉間にしわを寄せた。
「それに関して言えば、自分でも無茶な事を言ったと思ってる」
「……そうだな。それを成すために動いている私が言うのもなんだが、無茶な事だ」
カインとセスの様子に改めて、自分が大変な事を口に出したと思ったようで視線を逸らして首筋を指でかく。
シュミットは本来、反対すべき立場にあるはずの自分がどうして協力する気になったのか理解できないようで眉間にしわを寄せて言う。
「王族お抱えの医師団を丸めこむのに私の人脈を使いたいと言う事ですね」
「あぁ、カイン=クロークが魔術学園時代に築いた人脈は目を見張るものがある……私にはないものだからな。カイン=クローク、頼めるな」
「もちろんです」
シュミットは自分の持っていないものをカインに補わせようとしており、カインは迷う事なく頷いた。
しかし、セスはまだシュミットを信じ切れていないのか眉間にしわを寄せている。
「セスさんは反対ですか?」
「反対とは言いませんが、王族の医師団が間違った診察をするとは思えないのですが」
「そうよね。王族の健康管理をしている医師団って事は優秀なんでしょ。そんな人達の診察にジークが違うって言えるわけないでしょ」
セスの様子に気が付いたミレットはセスへと声をかけた。
セスは単純に医師団が間違った診察などしていないと思っているようで、その疑問を口に出し、フィーナも高名な医師達に対してジークが意見を言えるような事は見つからないのではと言う。
「まぁ、それを言われると俺も自信はないんだけどさ……」
「いや、他の人間が診察するのは間違ってないよ。人間誰だって間違いは起こすし、自分が間違った事は誰にも知られたくないだろうしね。何より、医師団が本当に優秀ならラング様もジークの栄養剤を愛用しないしね。あれだよ。ジークは医師団より、自分の方が優秀だって言いたいんだよ」
気まずそうに頭をかくジークだが、カインはジークの考えは正しいと言うと医師団の事は疑っても構わないと言い切った。
「……俺が言うのもなんだけど、俺はそこまで言ってないぞ」
「でも、事実だよ。本当に医師団がすべてをケアできているなら良いけど、体調不良を起こしている人間がいる。それなら、他の人間の視点から見ることも大切だからね。ジークに限らず、他の医師に診て貰う事は俺は賛成だよ」
「確かに私もフォルムに来て、テッド先生から、私達の知らない治療方法も学んでいますしね。医師団は私が知る限り、かなり以前から交代が見られませんから」
ジークはカインの言葉に大きく肩を落とすが、カインはくすりと笑うと自分は賛成の意思を表明し、全面的に協力するつもりのようである。
ミレットもフォルムで新しいものを学んでいる事もあり、新たな知識を得た事で見えてきた物もあるようで賛成だと言う。
「……良いんでしょうか?」
「良いとは言い切れないがジーク=フィリスには実績がある。先日、診察もせずにアンリ様に飲ませた薬で一時的にとは言え改善を見せたわけだからな。その事に対してエルト様、ライオ様は動いている。両王子が提案しているのだ。むげにはできない」
「ジーク、睨まれてるかもね」
心配そうに首をつぶやくセスにシュミットは医師団が何もできなかった事をジークがやってのけた事もあり、ジークの提案は聞き入れて貰える可能性が高いと告げる。
それに対してジークへの嫉妬は増える事も予測されるため、カインは楽しそうに笑う。
「変な事を言わないでくれ」
「変な事でもないよ。ジークはエルト様、ライオ様、シュミット様、リュミナ様と次期王位継承権上位の方達と親睦を深めているからね。邪魔だと思われる可能性は十分にあるよ」
ジークは嫉妬を受ける理由などまったくないと言うが、カインは改めて、ジークに自分の立ち位置を確認するように言い、ジークはカインの言葉にどうしてこうなったかわからないと言いたいのか眉間にしわを寄せた。