第426話
「……俺が悪いのか?」
「正直、微妙ね。本来、私達が王都に来る理由もなかったわけだし」
「基を辿れば悪いのはエルト様のような気がしますけど」
納得がいかないジークは眉間にしわを寄せると、人波をかき分けて最前列に顔を出したノエルとレインは状況が状況だけにジークだけが悪いわけではないと言う。
「カイン、あなたが出て行けば丸く納まるんじゃないですか?」
「そ、そうですよ。そろそろ、セスさんを助けてあげてください。セスさんだってそれを待っているはずです」
ジークとセスを取り囲んでいる人混みの外でリュミナとノエルはカインにセスを助けに行くように彼の背中を押す。
「助けに言っても良いんだけど、俺は何よりもセスの困ってる顔や屈辱だと言いたげの表情が好きだからね」
「……カイン=クローク、それはどうなんだ?」
「カインさん、冗談を言ってないで、セスさんを助けに行ってください」
しかし、カインはセスを助ける気などないようで笑顔で言い切り、彼の清々しいまでの笑顔にシュミットは眉間にしわを寄せた。
ノエルは完全にセスの味方のようで頬を膨らませて、もう1度、カインに言う。
「はいはい。行ってきますよ。俺も領主の仕事があるからそろそろ戻らないといけないしね」
「カイン、今、ジークがそれと同じような事を言って睨まれているのを聞いていなかったんですか?」
カインはてれ隠しもあるのか、フォルムに戻りたいと言うとその言葉は友人達に聞こえたようでジークに向けられた非難と同様のものがカインにも向けられる。
その様子にリュミナは大きく肩を落とすと、カインは失敗した事は直ぐに理解できたようで気まずそうに頭をかいた。
「血が繋がってなくても似た兄弟だな」
「それはよくわかります」
背が高いため、最後列でもジークとセスの様子が見る事のできるバーニアは酒を片手にノエル達に合流する。
彼はジークと話をしたのはわずかだが、カインと似た事がある事は見抜いたようで楽しそうに笑っており、ノエルも同様の意見を持っているようで大きく頷く。
「話がわかるね。1杯、どうだい?」
「い、いえ、お酒は遠慮します」
「まったく、カインの弟と言い、その嫁と言い、付き合いが悪い」
賛成意見が貰えたためか、バーニアはノエルに酒を薦めるがノエルは苦笑いを浮かべながら断り、バーニアはノエルに進めた酒を寂しそうにあおる。
「……カイン=クローク、あの男も問題だが、そろそろ、場を収めてくれねば困るのだが、いつまでもエルト様を遊ばせておくわけにはいかない」
「確かにそうですね」
シュミットはエルトを公務に戻さなければいけないと思ったようでカインに声をかけた。
その言葉にカインはシュミットの言い分は正しいと思ったようで表情を引き締め、臣下の顔になると人波の中心に向かって歩き出す。
「……カインさん、おかしな事をしないでしょうか?」
「……確かに心配だな」
カインの背中を見てノエルは彼が何かしでかさないかと思ったようで不安そうな表情をするとシュミットは最近、エルトに振り回されているせいか、胃が痛いのかお腹をさする。
「シュミット様、大丈夫ですか?」
「……問題ありません」
「あ、あの、胃が痛いなら、ジークさんからお薬を貰ってきます」
「いや、心配しなくても良い……」
シュミットの様子にリュミナは声をかけるがシュミットはワームで鬱屈していた時より、今の方が充実している事もあり、首を横に振った。
ノエルはジークと一緒にテッドの診療所を手伝っている事で何かした方が良いと判断したようでジークの元に行こうとするが人波に弾かれてしまい、ジークの元にたどり着く事は出来ない。
「ジーク、ノエルが心配してるから、ちょっと席を外して」
「カイン? わかった。任せる」
カインは人波の中央にたどり着くとジークに席を外すように言う。
カインの顔にジークは居心地が悪かった事もあり、そそくさと逃げ出す。
「カイン? あ、あなたは突然、何をするのですか!?」
「こう言う事だから、エルト様、領主の仕事があるので先に戻ります。ミレットはジークと帰ってきて」
セスはカインが隣に並んだ事で、カインが友人達にしっかりと説明してくれると思ったようで恥ずかしそうに視線を床に移そうとするが、カインはセスの腰に手をまわし、彼女を引き寄せ、彼女の唇に自分の唇を重ねる。
突然のカインの行動にセスか顔を真っ赤にして声をあげるが、その時にはカインはすでに転移魔法の準備に取り掛かっており、2人の身体を白い光が包み込む。
「……これは予想を超えた行動だね」
「そうですね……視線が生温かいです」
「と言うか、あのクズ、人前で何をしてるのよ」
「まぁ、ある意味、カインらしいですけどね」
転移魔法でフォルムに逃げ帰ったカインとセスの様子に盛り上がる友人達だが、エルトとミレットは友人達とは違い恥ずかしくなってきたようで顔を見合わせた後、頭をかき、フィーナは突然のカインの行動に眉間にしわを寄せ、レインは苦笑いを浮かべる。
主役がいなくなった事で人波は散り散りになって行き、4人はジーク達に合流する。
「何があったんだ?」
「まぁ、気にしなくて良いよ。それより、ジークはシュミットと何をしてるんだい?」
中心が見えなかったジーク達は戻ってきた4人の何があったか聞くが、エルトは気にする必要はないと答えた。
戻ってきたエルトはジークがシュミットと面と向って立っている事に何か問題があったのかと思ったようで怪訝そうな表情をする。
「いや、何か、ノエルとリュミナ様からシュミット様が胃が痛いってみたいだって言うから……神経性のストレスじゃないか? エルト王子、もう少し考えてやれよ」
「ジークさん、お薬はどうしましょうか?」
「とりあえず、どれが合うかがわからないから、フォルムに戻る。リュミナ様、レイン、シュミット様を連れて戻ってくるまでエルト王子がサボらないように見張りを任せるぞ」
「待て。ジーク=フィリス、お前は突然、何を言い出すんだ!?」
ジークはシュミットを引っ張り、フォルムに行くと言うと応接室を出て行く。
シュミットはフォルムになど行っているヒマはないと声をあげるが、その声はむなしく響くだけである。
「ジークさん、待ってください!?」
「私も失礼します。ジークだけでは見落としもあるかも知れませんから、フィーナはどうしますか?」
「私も帰る。1回で転移できるのは5人が限界でしょ」
ノエル、フィーナ、ミレットはジークとともにフォルムに帰ると言い、先に応接室を出たジークとシュミットを追いかけて行く。
「シュミットの事、任せるよ」
「そう思うなら、もう少し、シュミット様の事を考えてください」
エルトは3人の背中に声をかけるとレインは大きく肩を落とした。




