第425話
「エルト様、今更ですが、なぜ、こんなに人を集めているんですか?」
「本当に今更だね。カインとセスが改まって、私に挨拶にきたんだ。子供の1人でも仕込んだのかと思ってね」
「そんな事実はありません」
カインは酒が抜けてきたようで、頭が動き始めたのか応接室の様子に眉間にしわを寄せた。
エルトは笑顔で下世話な話をするとカインは先ほどまでとは違う頭の痛みを感じたようで大きく肩を落とす。
「それだとお付き合いする前からそう言う関係だったと言う事になりますよ」
「……その前にエルト様、もう少し言葉を選んでください」
「悪かったよ。本当はこの間のジークとノエルの様子から、カインとセスに何らかの進展があった事は予測できたからね。私も知っているカインの友人達に直ぐに集まれるようにしておいてと伝えておいたんだよ。今日、カインが来て直ぐに話をしたらわずかな間にこんなに集まってくれたよ」
流石にエルトの言葉はいろいろと不味いと思ったようでミレットは苦笑いを浮かべ、レインはエルトに自重するように進言する。
エルトはレインの進言を素直に受け取ったようで苦笑いを浮かべると簡単に白状した。
「……ヒマな奴らだ」
「カインさん、せっかくカインさんとセスさんのために集まってくれたんですから」
呼びかけをするエルトもエルトだが、集まった友人達にも呆れているようでカインは眉間にしわを寄せるとノエルはカインに素直に喜んで欲しいと苦笑いを浮かべる。
「それで、カイン、私に報告する事はないのかい?」
「……すでに気が付いているようですから、報告は必要ないと思いますが」
「それでもカインの口から聞きたいんだけどね」
エルトはカインの口から報告を受けたいようで口元を緩ませる。
その様子からカインより優位に立った事が楽しいようにも見え、カインはエルトの表情に大きなため息を吐く。
「エルト様、こう言う時は」
「なるほど、確かにそうだね。ミレット、君とは気が合いそうだ」
その時、ミレットは何か思いついたようでエルトに近づき、何かを進言する。
彼女の進言にエルトもおおむね賛成のようで楽しそうに口元を緩ませた。
「……どうしてかしら、たまにミレットさんからあのクズと同じ匂いがするんだけど」
「そ、そうですね。ジークさんもよく言ってますし」
エルトとミレットが話をする姿はいつものカインとエルトの姿に重なり、フィーナは眉間にしわを寄せると、ノエルはジークが常日頃言っているためか苦笑いを浮かべる。
「カイン、せっかくみんなが集まっているんだ。セスと一緒に前で状況を報告して貰おうかな」
「……お断りします。そんな必要はありません」
「セスを捕まえろ。カインがきたぞ!!」
エルトは主役がそろった事で2人で話をするべきだと言うが、カインはきっぱりと断った。
しかし、数名の友人達がカインが到着した事に気が付いていたようでエルトの意見に賛成し、セスの捕縛指示だ出る。
「な、何ですか!? 突然!?」
「カインの弟、面白い事になってるぞ。カインの嫁を捕まえろ」
「……追いかける必要がないだろ。と言うか、今度はなんの騒ぎだよ」
友人達はセスを捕まえようとし始め、セスは意味がわからないようで驚きの声を上げながら、迫りくる友人達を交わす。
その様子を酒の良いつまみになってると言いたいのかバーニアは豪快に笑いながら、セスを指差してジークに指示を出すが、ジークはバーニアの相手はもうたくさんだと言いたげに大きく肩を落とした。
「ジーク、カインとセスに今日の報告させるから、セスを捕まえて」
「……別にセスさんを捕まえるのは構わないけど、この中にカインを捕まえられる人間がいるのか?」
肩を落としているジークにエルトが声をかける。
エルトの言葉でジークは状況を理解できたようだが、カインを捕まえる術を持っているのかと聞く。
「カインを捕まえるなら、これで充分だろ」
「いや、それだとまたぶっ倒れるだろ。報告も何もなくなる」
「確かにそうだな。カインの弟、お前、頭が回るじゃないか」
バーニアはカインを正攻法で捕まえられないなら、酒で機動力や戦力を削げと言うが、ジークは冷静に答える。
バーニアはジークの言葉に1度、驚いたような表情するが、直ぐに豪快に笑いジークの背中をバンバンと叩く。
「……本当に面倒な酔っ払いだな」
「ジーク、避けなさい。もう充分すぎるほど見世物になりましたわ。フォルムに帰りますわ」
ジークはバーニアの相手をするよりはセスを捕縛する方が楽だと思ったようでゆっくりと歩き出すとセスの前に立つ。
セスは何とか友人達の手を交わしてはいたもののすでに顔には疲労の色が濃く出ており、フォルムに帰ると言う。
「そうしてあげたいんですけど……何か、盛り上がってるんですけど」
「……本当に何なんですか?」
「それは俺が聞きたいです。少なくともここで集まってる人達はカインとセスさんの友人でしょ。それでどうするんですか? 結局、もう、全員に根掘り葉掘り聞かれてるんですよね。それなら、カインと並んで報告くらいすれば良いじゃないですか?」
ジークとセスが対峙した様子になぜか友人達は周囲を囲い、盛り上がり始める。
完全に変な方向に盛り上がっている友人達の様子に眉間にしわを寄せるセス、ジークは大きく肩を落とすとセスに説得を試みる。
「それは確かにそうかも知れませんが……」
「正直、それが終わらないと俺達もフォルムに戻れなさそうなんで、早いところ済ませてください。って、何で、ブーイング!?」
「……ジーク、もう少し言葉を選んでください。ノエルがいるとは言え、彼女以外に優しい言葉をかけられないのは問題がありますよ」
「ジークはもう少し女性の考えを理解しようとした方が良いね。そうしないと沢山の人を敵に回すよ」
ジークの説得はもっともであり、セスは頷きかけるが、ジークがその後に言った余計な一言に集まった女性陣からジークを責めるような言葉が飛び出す。
ジークは意味がわからずに驚きの声をあげるが、いつの間にか最前列を陣取っているエルトとミレットは首を横に振った。