第420話
「2人がと言うか、ノエルがわかりやすいだけな気がするけどね」
「……それに関しては何も言えない」
「そ、それって、どう言う事ですか?」
エルトはノエルの反応からカインとセスの事を察知したようであり、エルトから話を聞いたライオは苦笑いを浮かべる。
ジークはノエルが嘘を吐けない事は充分に理解しているため、ライオの言葉に眉間にしわを寄せた。
ジークとライオの様子にノエルは意味がわからないようで首をひねる。
「ノエルは気にしなくて良い」
「そうですね」
彼女が嘘を吐けないのは彼女の美徳であり、ジークとミレットはノエルに気にする必要はないと言う。
「まぁ、カインとセスが上手く行った事を喜ぼうか?」
「そうしてくれ……って言いたいけど、他にも問題はあるみたいだけど」
「確か、セスの両親は領主になったとは言え、平民出身の新参者を許すとは限らないからね。それも……」
「コーラッド家はかなり、家名に気にしたはずです」
「落ちぶれたけど名家だからね。名前に誇りがある家と言うのはなかなか面倒だよね」
ライオもカインとセスが両親から反対されないかは心配のようであり、困ったように頭をかく。
「そんなに面倒なのか?」
「まあね。聞いてるとは思うけど、コーラッド家は落ち目だからね。家名に執着している可能性は充分に考えられるよ」
「婿入りくらいでどうにかなるのか? カインはそれでも良いって言ってたし」
「それもある種の手段だね。だけど、どうかな?」
平民のジークから見れば家名などと言った貴族の考えは理解できずに首をひねっている。
しかし、ライオの心配はセスの両親だけではないようであり、小さくため息を吐いた。
「まだ、何かあるのか?」
「いや、家名に執着してるなら、カインに対抗させるために婚約者でも用意するかもね」
「そ、そんなのダメに決ってます……すいません」
ライオは1つの可能性を示唆するとノエルは納得いかないとテーブルを強く叩き主張すると図書館で騒いでしまった事で、他の利用者からにらまれてしまい、身体を小さく縮める。
「私達はセスさんのご両親に会った事があるわけではないですから、変に考え込むのは止めましょう。カインの事ですから、上手く説得するかも知れませんし。それにエルト様も協力してくれるでしょうし」
「そうだね。兄上の事だからどうにかすると思うよ。今はシュミットもいるしね」
小さくなってしまったノエルの様子にミレットは苦笑いを浮かべるとセスの両親が反対する場合はエルトに協力を仰ごうと言い、ライオも同感なようで大きく頷いた。
「なぁ、シュミット様って、本当に心を入れ替えたのか?」
「ジークは心配なのかい? 小者って呼ばなくなったから、認めたんだと思ってたんだけど」
「いや……やっぱり、何かあったら困るかな? とは思っちまう」
エルトは彼の信念としているのか人を疑うような事をしないため、ジークはエルトの事を心配しているようである。
彼の様子は素直に心配だと言えないのか、ライオから視線を逸らしており、ジークの様子にライオはくすりと笑う。
「兄上は1度、決めると何があっても曲げないからね。まぁ、上手くは言ってると思うよ。だいぶ、シュミットも兄上の腹心として地位を得てきたしね」
「……裏切るなら今って事か?」
「そうはならないと思うよ。と言うか、カインがそんな事をさせないだろ」
「だろうな」
ライオもシュミットの事を信頼しているのかくすりと笑うが、ジークは今が微妙な時期だと思ったようで眉間にしわを寄せた。
しかし、ライオは何かあった時にはカインがエルトを守ると言い切り、カインとエルトの主従関係の強さを理解しているジークは頭をかく。
「しかし、どうしようか?」
「どうかしたんですか?」
ジークの姿に苦笑いを浮かべるライオだが、何かあるのか困ったように頭をかくと、ノエルはライオに聞き返す。
「いや、カインとセスは魔術学園で周知の事実だったわけだけど、1人だけ、その事を知らずにカインを追いかけている娘がいるからね」
「……おっさんの娘か? 確かにもう1つ問題が出てきたな。でも、あれは元々、おっさんが計画した事だろ。おっさんもセスさんとの事を知ってるわけだし、上手く収まらないかな?」
ライオが危惧しているのはカインを盲目的に追いかけていたカルディナの事であり、ジークはすっかり忘れていたと言いたいのか大きく肩を落とすも、ラースとレギアスの話を聞いているためか心配ないのではと希望的な事を言う。
「そんなに上手く収まると思うかい?」
「……上手く行くわけがないな。おっさんとレギアス様もすでにおっさんの娘と奥さんが暴走しているらしいから」
ため息を吐くライオの姿に、ジークもカルディナの性格がある程度、理解できているためか直ぐに自分の言葉を否定する。
「そこら辺もどうにかならないのかな?」
「流石のカインも好意を寄せられているとわかっている分、はっきりと断れないみたいだしね」
「そんな善人臭い事はしないだろ」
「そこは信用してないんだね」
ライオはカインの性格を理解しているジークならわかるだろと言うが、ジークにとってはカインは必要な事なら感情すら押し殺す事もあるカインの姿を知っているためか大きなため息を吐いた。
その姿にライオはため息を吐くが、直ぐにジークとカインらしいと思ったようで笑う。
「ジーク、そろそろ、約束の時間ではないでしょうか?」
「そうですか? ……結局、何もできなかったな。ライオ王子はどうする? 一緒にくるか?」
その時、ミレットがエルトとの約束の時間が近づいてきた事をジークに教える。
ジークはため息を吐くとライオもカインとセスの報告に立ち会うかと聞く。
「いや、私はやりかけの研究もあるしね。今日はいけないよ。ジーク、ノエル、今度こそ、私との約束を果たして貰うからね。今度はいつ王都に来る予定だい?」
「ライオ王子の都合がいい日を教えてくれたら合わせるよ」
「そう? それなら、3日後で良いかな? 一応、今の研究が上手く行けば手は開いてる」
ライオは王城には戻れないと言うとジークの薬について話がしたいようで3日後を提示する。
「わかった。それなら、3日後に魔術学園か? 城か?」
「研究資料を運ぶのは疲れるから、学園で」
「了解。それじゃあ、3日後」
ジークとライオは3日後に魔術学園での約束を取り付けるとノエルとミレットとともに王立図書館を後にする。




