第416話
「ジークの考えを父上と叔父上にも話しては置くよ」
「頼むよ。まぁ、難しいとは思うけど」
エルトは自分1人では判断できないため、国王や王弟であるラングにも話をしてみると答える。
その答えにジークは難しい事を理解しているため、苦笑いを浮かべた。
「だけど、ジーク、もし、アンリの事を診察できるとなった時は変な事を考えたら……命はないからね」
「……変な殺気を出さないでくれ。そんな気はないよ」
エルトはアンリを診察するとなった時にジークが下心を出した場合にはお仕置きをすると言い切る。
その言葉にジークの隣に座っていたノエルからもおかしな気配が漂い始め、ノエルとエルトから放たれる重圧にジークは理不尽だと言いたげに大きく肩を落とした。
「そうだね。ノエルがいるのに他の娘に手を出したら、ジークの命が危ないから」
「そ、そんな事しません!?」
ジークの様子にエルトはノエルへと視線を移すと彼女の背後には尋常ではないくらいの重圧が放たれており、ジークは顔を引きつらせる。
エルトにまで、言われてしまった事にノエルは首を大きく横に振ると同時に先ほどまでまとっていたおかしな重圧は霧散して行く。
「エルト様、そろそろ」
「まだ、良いじゃないか」
慌てるノエルの様子に空気が緩んだ時、話もキリが良くなったと判断したようでシュミットはエルトに進言する。
しかし、エルトは久しぶりのジークとノエルに会えた事もあり、もう少しゆっくりしたいと言う。
「あ、そうだ。ジークがおばあ様の資料を調べないってなったんなら、セスは手が空いたって事だよね。1度、王都に戻って貰おうかな? ……ジーク、ノエル、どうして、私から視線を逸らすんだい?」
「……ノエル、話した方が良いと思うか?」
「やっぱり、カインさんとセスさんの口から報告した方が良いんじゃないでしょうか?」
エルトはセスを王都に戻す事を思いつくが、ジークとノエルは先日からカインとセスが付き合い始めた事をエルトとシュミットに話すべきかと考えたようで2人で小さな声で相談を始め出す。
「いや、それを話すとフォルムに力づくでついてくると思うんだ。俺はセスさんだけじゃなく、シュミット様にも小うるさく説教されるのはイヤだぞ」
「でも、言わないで、セスさんを王都に帰すと言う話になってしまうとせっかく、幸せそうなのに」
「ジーク、ノエル、私には言えない事なのかな?」
ジークとノエルが相談している姿にエルトは大きく肩を落とすと、2人は顔を見合わせる困ったように笑う。
2人の様子にエルトはジークとノエルが何を隠しているか探しだそうとしているようで眉間にしわを寄せる。
「2人が秘密にするような話……シュミット、ジーク達と一緒にフォルムに行こうか?」
「エルト様、あなたはいったい、何を言ってるんですか?」
「シュミット、お前がいかなくても私は行くよ。ジーク、ノエルも反論はないね」
エルトは少し考え、1つの答えを導き出したようで口元を緩ませるとシュミットを誘ってフォルムに行こうと言い出す。
エルトの発言にシュミットは呆れているのか頭を押さえてため息を吐くが、エルトはシュミットの言葉などすでに聞き入れる気もなく、既にジークとノエルの隣に移動している。
「……反論と言うか、反対させる気もないだろ」
「まぁね。流石、ジーク、わかってるね」
「ジーク=フィリス、お前は何を言っているんだ。エルト様、ふざけていないで公務に戻ってください」
ジークにはすでに諦めが入っているようで大きく肩を落とすと、エルトは笑顔でジークの肩を叩く。
シュミットはエルトを説得しようと、ジークにも諦めていないで自分に協力しろと声を上げた。
「どうぞ」
「失礼します。ジークとノエルが来ていると聞いたんですが、お取り込み中ですか?」
「……」
その時、部屋のドアをノックする声が聞こえ、エルトが返事をするとリュミナが部屋の中から聞こえた騒ぎ声に遠慮した様子で顔を覗かせる。
彼女の後ろにはハイム王国の騎士鎧をまとったリアーナが控えており、エルトとシュミットに向かい頭を下げた。
「リュミナ、リアーナ、良いところに来たね。ジーク達と一緒にフォルムに行かないかい?」
「フォルムにですか? そうですね。私達が無事にメルトハイム家を継ぐ事が出来た事をセスさん達にもお礼を言いたいですし」
エルトは味方を作ろうと思ったようでリュミナをフォルムに誘い、リュミナはエルトの誘いに、フォルムでお世話になった人達にお礼を言いたいと思ったようで直ぐに頷く。
「リュミナ様、困ります。今はメルトハイム家を継げたとは言え、まだ、リュミナ様の安全は保障されていないのです」
「そうです。リアーナの言う通りです。ジーク=フィリス、間違ってもエルト様とリュミナをフォルムに連れて行ってはいけない」
「ジークの持ってる転移の魔導機器って、何人まで運べるんだったかな?」
リュミナが頷いた事に驚きの声をあげるリアーナ。
シュミットは味方を得た事でさらに声を大きくして、2人を引き留めようとするがエルトは気にする事無くジークに魔導機器の能力について聞く。
「確か、5人?」
「そうだね。それなら、シュミットもリアーナも行かないみたいだから、私とリュミナでフォルムに行こうか?」
ジークは既に諦めが入っているため、エルトの問いに素直に答えると全員で行けない答える。
エルトは人数制限もあるため、口うるさいシュミットとリアーナを置いて行く事を決めるとジークとノエルの背中を押して部屋を出て行こうとする。
「エルト様、お待ちください!!」
「リュミナ様もです。ジーク、ノエル、エルト様の言葉に従ってはいけません」
「できれば従いたくはないんだけど、俺達もフォルムに戻らないといけないんだよ」
シュミットは声を上げ、ドアの近くにいたリアーナはドアを塞いだ。
ジークはエルトとリュミナ、シュミットとリアーナに挟まれる形になってしまい、胃が痛いと言いたいのか大きく肩を落とした。
「あの、1度、わたしとジークさんはフォルムに戻りますから、日を改めると言うのはどうでしょうか?」
「そ、そうです。エルト様やリュミナ様が足を運ぶ必要はありません。ジークとノエルにカイン達に話をして貰って日を改めましょう」
ノエルはこのままではフォルムに戻れないため、妥協案を出し、リアーナは逃げ道を見つけたと思い大きく頷く。
「仕方ないね。ジーク、カインに話を通して置いてくれるかい?」
「わかった。ノエル、戻ろう」
エルトはため息を吐くとジークにカインへの言伝を頼み、ジークは解放された事に胸をなで下ろすとノエルに声をかけ、2人は王城を後にする。




