第415話
ジークとノエルはラングに頼まれている栄養剤を王城に届けると、エルトは公務で疲れているのか休憩を主張したようで少しだけ、時間が取れたのか応接室に通された。
しばらく、2人が待っているとエルトと休憩に反対なのかしかめっ面のシュミットが現れる。
「2人とも、フォルムはどう? と言うか、カインのセスもいないの?」
「あぁ、あの2人も忙しいから、魔導機器で移動できる場所を組み替えたんだよ」
エルトはジークの持ってる転移の魔導機器がフォルムに戻れない事を知っているため、ジークとノエルだけと言う事に首を傾げる。
ジークはフォルムにいる間は、ゴブリンとリザードマンの集落に行く場合はカインに頼もうと思ったようで魔導機器の移動先を組み替えた事を話す。
「そう? セスともしばらく会ってないから、ジークの勉強の進み具合を聞こうと思ったんだけどね。ジークからの報告だと誤魔化しそうだから」
「それなんだけど」
「どうかしたのか?」
エルトはセスからジークのアリアの資料の解読状況について報告を受けたいたいと思っていたようであり、目的が達せない事にため息を吐く。
アリアの資料解読を1度、止めてしまったジークは気まずそうに視線を逸らすも報告しなければいけないため、困ったように頭をかいた。
そんな彼の様子にシュミットは気が付いたようで眉をしかめて聞く。
「言い難いんだけど、しばらく、ばあちゃんの資料から距離を置こうと思ったんだ」
「……ジーク、何を言っているんだい?」
逃げるわけにはいかないため、ジークは1度、深呼吸をして真面目な表情になると、アリアの資料の解読には手を付けていない事を告げた。
その言葉はある種のエルトやシュミットへの裏切り行為であり、エルトは両手を組み何があったかと聞く。
「心境の変化と言うか、今、フォルムで医師をしている人に調合だけじゃなく、治療方法とかいろいろと教えて貰ってるんだ」
「そう言う事ではない。ジーク=フィリス、お前は自分が何を言っているのかわかっているのか!!」
ジークはテッドを師として彼の持つ知識や技能を教わっている途中だと言う。
しかし、2人が求めているのはアリアの治療薬に存在した特異性であり、ジークにアリアと同じ治療薬を作って欲しいと言う事である。
完全に自分達の求めている物とは違う事を行っているジークにシュミットは怒りの表情をあらわにして彼を怒鳴りつけた。
「シュミット、落ち着け。ジーク、それについてカインは何と言っているんだ?」
「別に何もと言うか、賛成してくれた。俺には必要な事だって」
「そう……」
エルトはシュミットをいさめるとジークにカインの考えを聞く。
ジークはカインが背中を押してくれた事を話すとエルトは何かを考え込むように眉間にしわを寄せた。
「あ、あの、エルト様」
「ジーク、1つ聞いて良いかい? ジークの直感で良い。ジークはアリア殿の資料を解読するのと今やっている事、どちらが先にアンリの病状を回復する方法にたどりつくと思う?」
ノエルはエルトにジークを責めないで欲しいと言いたいようで彼の名前を呼ぶと、エルトはノエルの言いたい事も理解できているようで手で彼女を静止する。
エルトはジークの勘の鋭いところを頼りにしている事もあるため、ジークに問う。
「そうだな……勘で良いなら、たぶん、ばあちゃんの資料とにらめっこをしてるより、速く答えが出ると思う」
「そう……それなら、ジークを信用しよう」
「待ってください。エルト様、何を言っているんですか!! 誰が考えてもアリア=フィリスの資料の中には答えがあるのです。それを読み解く事が速く答えが出るに決まっています」
ジークはエルトの問いに少し考え込むと、自分は選んだ道が正しいと答える。
その目には迷いなどまったく見えず、エルトはその目を信じると決めたようで表情を和らげた。
シュミットはジークやエルトの考えている事が理解できないようで驚きの声をあげるとジークの考えは間違っていると叫ぶ。
「いや、あのさ。違うんだ。今まではジオスで村の年寄りを見てただけで、決まった人間しか見てなかったんだけど、人によって、同じ薬でも効果が違うって事があるんだよ。ばあちゃんはアンリ王女の症状を見ていない。それなのにアンリ王女に効果がある専用の薬は作れないだろ? だから、少しでもそっちを学んで行きたいと言うか、何と言うか」
「シュミット、ジークにも考えがあるわけだから、しばらく、様子を見ても良いんじゃないかな?」
ジークは上手くまとまっていないようだが、シュミットにもわかって貰おうと言葉を選びながら話す。
フィーナほどでは無いにしても勘で動く事も多いジークが必死に言葉を選んでいる様子にエルトは苦笑いを浮かべてシュミットに時間を取るように言う。
「しかし……」
「シュミット様の言いたい事もわかる。だけど、実際、呪いだって事もわかっていないんだろ。それもわからないのにばあちゃんの資料だけを頼りにすると、薬が効かなかった時に何をしたら良いかわからない。それじゃあ、ダメだと思うんだ」
「それは……」
シュミットは納得がいかないようであり、眉間にしわを寄せるとジークはアリアの資料に頼りきった時への不足の事態が心配だと言う事を告げる。
ジークの言いたい事もシュミットには伝わったようであり、ジークの言葉を精査しているのか黙り込んでしまう。
「ジークも言うようになったね」
「何て言ったら良いかわからないんだけど、ジオスを出てフォルムでいろいろやってみて、世界は広がった気がするな……それで、エルト王子、物は提案なんだけど」
「どうかしたのかい?」
シュミットを丸めこんだジークの様子に苦笑いを浮かべるエルト。
ジークは彼の言葉に少しだけ気恥ずかしくなったのか視線を逸らして首筋をかいた時、何か思いついたようでエルトを呼ぶ。
「あのさ。やっぱり、アンリ王女を診察するわけにはいかないんだよな?」
「難しいね……」
「だよな。テッド先生から聞くと医師も違う勉強の仕方をしている可能性があるから、やっぱり、自分で診察してみたかったんだよ。そうすれば、何かわかるかも知れないし」
「確かにジークの言いたい事もわかる」
ジークは自分自身でアンリの病状を確認しておきたいと思ったようであり、頭をかくとエルトは簡単に出せないようで眉間には深いしわが寄っている。




