第414話
「みんなですか?」
「……」
カインの言葉はセスの求めているものではなく、彼女は肩を落としてつぶやくと、カインは困ったようで頭をかいた。
その視線はジークに向けられ、ジークはこの場にいない方が良いと察したようで窓から出て行く。
「戻ろう。みんなが待ってる。何より、セス、俺が君に隣にいて欲しい」
「……」
「言葉を待っていた割に反応はなしですか?」
カインは表情を優しい笑みを浮かべて、もう1度、セスへと手を伸ばす。
その時の言葉は飾り気はないがまっすぐであり、セスは顔を真っ赤にしてカインから視線を逸らしている。
そんな彼女の様子にカインは反応もないため、困ったように笑うが彼女からの答えはすでにわかりきっているようでカインには不安の色はない。
「……」
「正直、そろそろ、答えを聞かせて欲しいんだけど、俺は何回、君に告白したら良いんだい?」
「何回、告白?」
セスは返事をしようとしているようだが言葉が出てこないようであり、カインは苦笑いを浮かべて聞き返す。
セスはカインの言葉を反芻するようにつぶやくとその言葉の意味がわからないようで首をかしげた。
「セス……やっぱり、俺が何回か告白した事を気が付いてなかったりしますか?」
「……」
セスの様子にカインは1度、ため息を吐くとセスは申し訳なく思ってしまったのか、気まずそうに頷く。
「わかっていた事だけどね。それで答えがここで貰えないなら、そろそろ、俺も考えないといけない時期になるんだよね。領主と言う立場も出てきたしね」
「そ、それは」
カイン自身、セスから断られる事は視野に入れてはいないが、彼女の決断を迫るように言う。
セスはカインとしての立場を理解しているが、自分の気持ちを口に出すのが恥ずかしいようで次の言葉は出てこない。
「それは答えは貰えないって事かな?」
「そ、そう言うわけではありませんけど、で、ですけど」
カインは小さくため息を吐くとセスは大きく首を横に振るが、言葉が続かない。
感情を表に出す事の出来る人間ならば抱きつけば良い、だが、それができるような彼女ではない。
「セス」
「は、はい!? な、何をするんですか!?」
そんなセスの性格を熟知しているカインは素直に口に出す事も感情のまま、動く事もできないと思っているようで彼女へと手を伸ばす。
セスは名前を呼ばれて驚きの声をあげると、その手を握り締めた。
カインは彼女の手を引き、力強く抱きしめるとセスは何が起きたかわからないようで驚きの声をあげる。
「俺もあまり、感情を表に出せる人間じゃないからね。ただ、セスがしっかりとした答えをくれないなら、これが最初で最後だから、君の匂いも感触も」
「……イヤです。最後なんて」
自分の腕の中で震えているセスの耳元でカインはこれで最後だと言う。
セスを抱きしめているカインの身体も彼女と同様に小さく震えている。
それはセスが知っているいつもの自信を漲らせているカインとは違っており、セスはカインも自分の答えを聞く事を不安に思っている事がわかる。
平静を装ってはいるもののカイン自身もセスの答えを聞くの不安であり、セスは身体に伝わるカインの匂いや感触に素直な気持ちを一言だけつぶやいた。
「何?」
「カイン、ムカつきますわ。あなたは聞こえていて聞き返してますよね?」
彼女のつぶやきはしっかりとカインの耳には届いているものの、カインはわざとらしく聞き返す。
その時には、2人とも答えを出しきった事もあり、お互いに身体の震えは止まっているようで、セスはカインの身体を押しのけると彼の顔を睨みつけるが、呼び方はいつもと違い名前だけで呼んでいる。
「まぁ、だけど、俺はしっかりとセスが好きで一緒にいたいと言ったんだけど」
「も、もう答えたんだから、よろしいじゃないですか?」
「いや、俺には聞こえてないんだけど」
カインはひょうひょうとした様子でセスに聞き返すと、セスは顔を真っ赤にしてすでに答えは言ったと主張する。
しかし、カインはイタズラな笑みを浮かべている。
「……性格がわるいわ。セスさん、あのクズの顔をひっぱたかないかな?」
「フィ、フィーナさん、静かにしててください。カインさんに見つかってしまいます」
「なぁ、俺が空気を読んで出てきたのに外で聞いていたら意味がないじゃないか?」
ジークが空気を読んで窓から外に出るとノエルとフィーナ、2人に引っ張られたレインが様子をうかがっており、ジークはため息を吐いたものの、しっかりと中の様子をうかがっている。
カインとセスの様子にフィーナは不満そうな表情をすると、ノエルは彼女に静かにするようにと言う。
「……良いんですかね?」
「良いも何も、きっと、カインは気が付いてるだろ。セスさんの答えを俺達に聞かせたいだけだろ。逃げ道を潰すために」
「……ありそうですね」
盛り上がっている女性陣2人に対して、レインは覗き見は良くないのではないかと力なく笑う。
ジークはカインの考えているものが理解できているのか、空を見上げて言うとレインは大きく肩を落とした。
「と言うか、セスさんも早く答えてくれないかな? 俺、調合の途中なんだけど」
「何を言ってるんですか? ジークさん、今、カインさんとセスさんの大事な時なんですよ。それにかける時間は大切なんです」
「……いや、もう答えも出てるんだから、早く開けて欲しい」
ジークの中では調合室の中でカインに突っかかって行くセスの姿にすでに答えは出ていると理解しており、2人の乱入で中断してしまった調合が心配のようで大きく肩を落とす。
その言葉にノエルはデリカシーがないと言いたげに声を上げて主張する。
「ノ、ノエルさん、お静かに」
「そ、そうでした……セ、セスさん、これは何と言って良いんでしょうか?」
「……あなた達はここで何をしているんでしょうか?」
レインは慌ててノエルに声を落とすように言うが、既に気が付いた時には遅く、額に青筋を立てているセスが窓から4人を見下ろしている。
セスの怒りの表情にノエルは顔を引きつらせると、ジークの背後に隠れた。
「締まりがわるいな」
「まぁ、仕方ないかな? それより、セス、時間がないから、そろそろ行くよ。レインも準備して」
今にも窓から飛び出してきそうなセスの様子にジークはため息を吐くと、カインは苦笑いを浮かべると彼女の手を引き、調合室のドアに向かって歩き出す。