第411話
「レインさん、ギドさん、ゼイさん、見ませんでしたか?」
「ノエルさん、大丈夫ですか?」
調合室を出たノエルだが、既にゼイは目視できるところにおらず、ゼイの居場所を探して廊下を走りだす。
しばらくすると、書庫から出てきたレインとギドを見つけてゼイを見ていないか尋ねるが、既にノエルの息は絶え絶えであり、レインは心配そうに聞く。
「ノエル様、ゼイが何かしましたか?」
「そ、それが」
「ノエル、待って」
ギドはノエルの様子にただ事ではないと思ったようであり、眉間にしわを寄せて聞くが、ノエルの呼吸は乱れており、直ぐに話す事はできない。
ノエルが落ち着くまでレインとギドが待っていると廊下の先からフィーナが駆け寄ってくる。
「ノエル、どれだけ、体力ないのよ?」
「す、すいません」
合流したフィーナは息を整えようとしているノエルの姿に苦笑いを浮かべると、ノエルは申し訳なさそうに頭を下げた。
「フィーナさんまで? ジークがどうかしたんですか?」
「違うわ。レイン、ギド、2人とも、ゼイを見なかった?」
フィーナが合流した事で、調合中のジークに何かあったのかと思ったレインだが、フィーナは首を横に振ると息のできないノエルの代わりに改めて、ゼイを見なかったかと聞く。
「ゼイさんは、見てはいませんが、少し前に、カインとセスさんの名前を呼びながら、廊下を走っていたようですよ」
「どっちに行ったか、わかる?」
「たぶん、応接室だと思うが」
廊下から聞こえたゼイの声にギドはカインとセスがフォルムの代表達と話をしている応接室だと答える。
「ジークの予感が当たってそうね」
「どうかしたんですか?」
「このままだと、ゼイがフォルムの代表達の前であのクズとセスさんにお互いの気持ちを聞くわ」
ゼイの行き先にフィーナは大きく肩を落とすが、レインは状況がつかめないようで首を傾げた。
フィーナはカインはどうなっても良いようだが、セスに迷惑をかけるわけにはいかないと思っているのか困ったように頭をかく。
「まったく、状況がつかめません」
「ジークが何も考えずにゼイに話をしたのよ。そしたら、よくわからないから聞きに行くって」
「そ、そうです。いくら何でもたくさんの人達に聞かれるのは不味いです」
フィーナは状況を簡単に説明するとノエルはお互いの気持ちを確認するにしても、状況が良くないと言う。
「まだ、フォルムの代表達は集まっていませんよ。私も今はギドさんに協力して貰って必要な資料を運ぶところですから」
「それなら、大惨事にはならないわね」
「だとしても急ぎましょう」
レインは代表達との話し合いはまだ早いと答えると、フィーナは安心したようだがノエルはそれでも、ゼイを2人の元に行かせるのは不味いと言い、応接室に向かって駆け出す。
「ギド、ノエルを頼むわ。レイン」
「はい。急ぎましょう」
ノエルを急がせるより、置いて行った方が得策と考えたようでギドにノエルを頼むとレインと一緒に応接室に向かって駆け出して行く。
「カイン、セス」
「ゼイ? どうかしたかい? 今日は探索はないよ」
カインとセスが応接室で、代表達との話し合いの準備をしているとゼイが勢いよくドアを開ける。
突然のゼイの来訪にカインは何があったかわからないようで首を傾げた。
「……見た目にだまされたら、ダメ。あの、格好でもゴブリン族。抱き締めても感触が違う」
「コーラッドさんは相変わらずの変態だなぁ。それで、ゼイ、何かあったかい?」
魔法で人族の少女に見えるゼイの姿は可愛いもの好きのセスの好みに合致しており、ゼイを抱きしめに動こうとするが、何とか理性を保とうとぶつぶつと言い始めている。
その様子にカインは小さく肩を落とした後にゼイに何かあったかと聞く。
「カイン、セ!? ナ、ナンダ!? ハナセ!?」
「やっぱり、我慢できません!!」
「何だろうね」
ゼイはジークから聞いた事を2人に聞こうとした時、我慢しきれなくなったようでセスはゼイに飛び付き、彼女の言葉を遮る。
カインは2人の様子に苦笑いを浮かべるとポリポリと指で首筋をかいた。
「カイン、セスさん、大丈夫ですか?」
「レインにフィーナ? 大丈夫ってどうかしたの?」
「……セスさん、絶好調ね。心配する必要がなかったわ」
カインがしばらく2人の様子を眺めていると応接室のドアがノックされ、フィーナとレインが顔を覗かせる。
カインはレインが自分とセスを心配して応接室に入ってきた理由がわからずに首をかしげ、フィーナはセスに捕まっているゼイを見て無駄な労力を使ったと言いたげにため息を吐いた。
「ハ、ハナセ、フィーナ、レイン、タスケロ」
「どうしましょうか? 助けると面倒なことになりそうですけど」
ゼイはセスにもみくちゃにされているなか、フィーナとレインを見つけて、2人に助けを求めるが、レインは助けた瞬間にゼイがおかしな事を言い出しても困るため、助けるかどうかをフィーナに確認する。
「しばらく、あのままでも良いんじゃない? とりあえず、ノエルがくるまであのままで良いんじゃない?」
「ノエルまでくるのかい? いったい、何があったんだ」
フィーナはノエルにゼイを説得させようと思ったようでノエルを待ってからと言うと、カインは意味がわからないようで首をひねった。
「あの、失礼します」
「……なんだ? この状況は?」
その時、ノエルが遠慮がちに応接室のドアを開け、ギドはセスに抱きつかれているゼイの様子に眉間にしわを寄せる。
「フィーナさん、間に合いましたか?」
「見ての通りよ」
「良かったです。ゼイさんがカインさんとセスさんにお互いの前で、お互いの気持ちを確認してしまったいたら、どうしようかと思いました」
フィーナの言葉とゼイの様子に危機は去ったと安心したようで胸をなで下ろすノエルだが、気を緩ませてしまったようで口を滑られてしまい、応接室の空気は凍り付く。
「ノ、ノエルさん、それを言ってしまってはダメなんじゃないでしょうか?」
「へ? す、すいません。い、今の無しで、無しでお願いします!?」
レインは何とか言葉を引っ張り出すと、その言葉でノエルは自分が口を滑られてしまった事に気づき、慌てて首を大きく横に振って誤魔化そうとするが既に遅い。
「……側頭部から思いっきり殴られた気分だわ。頭、痛い」
「さ、流石に予想外でしたね。ど、どうなると思います?」
フィーナはノエルの様子に頭を押さえ、レインは顔を引きつらせながら、カインとセスへと視線を向けるとセスの顔はすでに耳の先まで真っ赤に染まっている。




