第409話
「で、何がしたいわけ?」
「どうして、俺とフィーナだけ、こう言う状況なんだ!?」
カインの使い魔の前で、ジークとフィーナだけ床に正座で座らされている。
ジークは理不尽な状況に納得がいかないようで使い魔を睨みつけて言った時、カインの使い魔のくちばしが再度、ジークの額に突き刺さった。
「次は目だな。右と左、先に潰して欲しいのはどっちだ?」
「カインさん、それはやり過ぎじゃないでしょうか?」
低い声でジークに問うカインに、流石にノエルは止めた方が良いと思ったようでカインの使い魔をつかむ。
「ノエル、よくやった。握りつぶしてしまえば、魔力をまたこの部屋に入れる事はできないんだ。つぶそう」
「ダ、ダメですよ」
カインの使い魔をノエルが捕まえた姿にジークは勢いよく立ちあがり、使い魔を潰そうと提案する。
ノエルはジークから使い魔を守るように隠す。
「まぁ、本人がいると言う事はある意味、作戦会議にもちょうど良いと言う事で始めましょう」
「ミレットさん、マイペースですね。と言うか、本人がいる前でやって良いんですかね?」
カインの使い魔を捕まえてしまえば一先ずの危険は去ったと思ったのかミレットは作戦会議の続きを提案する。
レインはミレットの提案には流石に頷けないと思ったようで大きく肩を落とした。
「と言うか、ジーク達の言う通り、セスさんがこのクズの事を好きなら、このクズが告白すれば決着がつくんじゃないの?」
「……フィーナの言う通りなんだけど、フィーナが言うと微妙に説得力がないな」
フィーナは自分から足を突っ込んだわりには面倒な事はゴメンだと言いたげにため息を吐き、カインに早くセスに告白でも何でもしろと言う。
ジークはその言葉に同意はしたいのだが、何か引っかかるのか首をひねっている。
「何よ?」
「まぁ、ジークに告白もしなかったフィーナの言葉ですからね」
「へたれてなければ、ノエルが来る前に何かあったのかも知れなかったのにね」
ジークの言葉に不機嫌そう表情をするフィーナだが、ジークの言いたい事がわかるカインとミレットはジークの言葉に同意を示す。
カインとミレットの言葉でノエルとレインの視線はジークとフィーナを交互に見ている。
「いや、それはない」
「ジークもはっきりと言わなくても良いんじゃないかな? いくら、フィーナがガサツでも傷つくと思うよ」
ジークはノエルと出会う前にフィーナに告白されても付き合う気などなかったと言い切り、その様子にカインは苦笑いを浮かべるとノエルの腕から脱出をして、ジークの頭の上に降りた。
「……どうして、お前は俺の頭の上に乗りたがるんだ?」
「その前にガサツって、どう言う事よ!!」
カインの行動にため息を吐くジークだが、フィーナはカインの言葉に引っかかったようで勢いよく立ちあがる。
「いや、ガサツだろ」
「あの、ジークさん、何度も言いますけどもう少し言葉を選びましょうよ」
ジークはフィーナの言葉を全否定すると、話の内容が内容なだけに言いにくそうにジークの服を引っ張った。
「話を戻しましょう。このままだとカインに誤魔化されて終わってしまいそうですし」
「……そんなつもりはないけどね」
ミレットはこの話を続けるとノエルが居づらくなってしまうため、話を止めるもカインを逃がすつもりはないようで使い魔へと視線を向けてにっこりと笑う。
カインは話を変えたい気持ちはあったようであり、その言葉には微妙な間がある。
「私と違って、へたれないのよね? それなら、さっさと告白の1つくらいしたら」
「……攻撃権がフィーナさんに移りましたね」
フィーナは本能で今が攻め時と察知したようで小さく口元を緩ませると、ジークの背後に回り、カインの使い魔をわしづかみにする。
彼女の行動は先ほどバカにされた事への反撃のようで、カインの使い魔に向かってセスに告白しろと迫り始め、レインは2人の様子に眉間にしわを寄せた。
「……普段は似ていない兄妹だと思っているんだけど、たまに酷く似てるなと思う時もあるんだ」
「そ、そうですね。で、でも、あの言い方は不味いですよ。カインさんが意地になって告白しないって事だってあり得るんですから、ジークさん、フィーナさんを止めてください」
「……確かに兄妹だから、あり得るな。だけど、俺は腕力でフィーナに勝てる自信はないぞ」
今のフィーナの姿はジークにはカインと重なるところがあるようで、眉間にしわを寄せる。
ノエルは苦笑いしかできないようであるが、フィーナと同様にカインが意地を張ってしまった時の事を考えてしまったようでフィーナからカインの使い魔を取り返すように言う。
その言葉にジークはどうするべきかと悩んでいるようで乱暴に頭をかく。
「むしろ、あのままで良いんじゃないでしょうか? 本人を目の前にしては言えない事でしょうし、カインがセスさんと上手く行く事に1番関係するのはフィーナなわけですし」
「そうなんですけどね。フィーナのバカ力だと簡単に使い魔をつぶしそうですし。それに何か忘れてる気がするんだよな。何だったかな? 忘れちゃいけない物だった気がするんだよ」
ミレットはカインとフィーナの仲裁を止めるが、ジークは何か引っかかるものがあるようで首を傾げた。
「ジークさん、どうしたんですか?」
「……思い出した。カインの使い魔はくちばし攻撃もあるけど、火を吹くんだった」
「……もう遅いですね」
ジークが使い魔が火を吹く事を思い出した時、フィーナの身体は炎で包まれており、レインは目の前で火だるまになっているフィーナを見て顔を引きつらせる。
「ジ、ジークさん、レインさんも落ち着いてないで、フィーナさんを助けてください。カインさんもやり過ぎです!?」
「……室内で火属性の魔法を使うな。と言うか、こう言う使い方をするもんじゃないんだけど」
ノエルは慌ててフィーナを助けようとするが、近付く事はできず、ジークは慌てるノエルの様子に少し冷静になれたようで冷気の魔導銃を手に取るとフィーナに向かって発射し、消火活動を開始する。
「フィーナさん、大丈夫ですか?」
「焼いたのは表面だけだから大丈夫だよ」
「だ、大丈夫なわけありません」
火が消えたフィーナにノエルは駆け寄り、安否を確認するがフィーナではなく、カインが答えた。
ノエルは声を張り上げるとフィーナに治癒魔法をかける。
「あ……コーラッドさんがバカ騒ぎしてるのに気が付いた。こっちにくるから、誤魔化してね」
「……わかった」
屋敷内にはフィーナの絶叫が響きわたった事もあり、カインとともに仕事をしていたセスの耳にも届いたようでジークの部屋に向かったようであり、セスの襲来を教えるとカインの使い魔は光の粒子になり、溶けて行く。