第408話
「……セスさんの幸せを考えると反対しかできないけど、結局は誰かに迷惑がかかると言う事で」
「悩み始めましたね」
「長くは続かないだろ。すぐに考える事を諦める。それより、始めよう」
フィーナはミレットの口車で悩みだしており、その姿を横目にカインとセスについての作戦会議を始めようとする。
「と言っても、実際は何をどうするかと言う具体的な作戦はないんですけどね」
「まぁ、確かにそうですね……どうしましょうか?」
ミレットは集まっては見たもののこれと言った作戦がないため、苦笑いを浮かべた。
その言葉でレインは首をひねるが答えなど出てくるはずもなく、困ってしまったようで頭をかいた。
「実際、この中でまともな恋愛経験があるのは……ジークとノエルだけでしょうか?」
「ミレットさんはどうなんですか?」
「えーと、そこは気にしないでください」
「は、はい。わかりました」
恋愛問題の経験者となると集まった5人ではジークとノエルしか対象者はなく、ミレットは首を傾げる。
年上でしっかりしているミレットなら恋愛経験も豊富だと思ったノエルだが、ミレットは笑顔で気にしないように言う。
その笑顔にはどこか威圧感があり、ノエルは大きく首を縦に振った。
「俺とノエルだけか? ……まぁ、レインもなさそうだよな。てんぱって、フィーナに告白するような人間だからな」
「……そう言われるのもどうかと思いますが、経験はないですね」
「あったら、フォルムで女性達からも逃げ回ってないでしょうしね」
ミレットにこれ以上、聞いてはいけないと思ったのはジークも同様であり、矛先をレインへと向ける。
レインは恥ずかしいところを突かれたと思ったようで視線を逸らし、ミレットはその様子にフォルムで数日、見てきたレインの姿を思い浮かべて苦笑いを浮かべた。
「騎士はそのような事に時間をかけているヒマはないんです」
「確かに騎士や貴族になると自由に恋愛をする余裕もないでしょうしね」
レインは自分が恋愛をしないのは騎士としての職務を全うするためであると言い、ミレットはその様子を見て、彼の意見は騎士としては正しいと笑う。
「それって、ミレットさんも……いえ、何でもありません」
「それで、どうしましょうか? わたしとジークさんの話をしましょうか?」
「いえ、2人の話は参考にならなさそうですから」
ジークは口を滑らそうとするが、ミレットから一瞬、鋭い視線が向けられジークは口を閉じる。
ノエルは経験者不足のこの状態では自分とジークの話だけが頼りだと思ったようで照れた様子で2人の愛の軌跡を話し始めようとするが、ただののろけ話になる事は明白であり、ミレットはカインとセスをまとめる参考にはならないときっぱりと言い切った。
「どうする? すでに手詰まりじゃないか?」
「……私達は無力ですね」
集まっては見たものの、何もできる事がない事に気が付いたジークは困ったようでポリポリと首筋をかいた。
レインも同様であり、気まずそうに笑う。
「問題はセスさんが素直にならない事ですよね。やっぱり、素直になれないものなんでしょうか?」
「……何?」
ミレットもカインとセスの問題点はセスが要所要所で素直になれないところだとわかっており、同じく素直にならない代表と言えるフィーナへと視線を向けた。
フィーナはその視線に気が付いたものの、意味がわからないようで首を傾げる。
「いえ、素直になれなかったフィーナは、こう言う結末を迎えたわけですよね」
「こう言う結末?」
「……」
フィーナはミレットの言葉の意味がわからずに首を傾げるが、ジークはそれが自分とノエルが付き合い始めた事を示唆している事がわかっており、若干、居づらそうである。
「それをわかった上で、カインは笑ってるんだけどな」
「何と言うか……それでも上手く行っているのが微妙な感じが見てて」
「レインさん、せっかくですから、言う事を言ってしまったら良いんじゃないでしょうか?」
ジークとレインはカインが全て知っている上での行動であるのは明白であるため、どうするべきかと頭をかく。
2人の様子にせっかくだから、思っている事を吐き出してしまえば良いと言う。
「そうそう。俺も興味あるし」
「カ、カインさん?」
「……使い魔? いつの間に」
その時、部屋の隅からなぜかカインの声が聞こえ、ノエルはその声に顔を引きつらせた。
5人の視線は部屋の隅に向けられ、そこにはカインの使い魔である小鳥が飛んでおり、ジークは自分達がカインの手のひらの上でまた踊らされている事に気付いたようで眉間にしわを寄せた。
「と言うか、いつから忍び込んでいたんですか?」
「ノエルとフィーナがこの部屋を訪れた時に上の方から、3人は警戒していたみたいだけど、珍入者のおかげですんなりと忍び込む事が出来たよ」
ミレットはカインの使い魔を見て大きく肩を落とすと、カインの使い魔はノエルとフィーナが乱入した時に乗じて侵入しており、カインの口調はいつも通り緩いが、その場にには冷たい空気が張りつめ始める。
「ご、ごめんなさい」
「いやいや、ノエルを責めてるわけじゃないよ。俺は都合が良かったからね。問題は」
ノエルは場の空気に耐えきれなくなったようでカインの使い魔に頭を下げると、ジークの背後に隠れた。
その姿にカインは笑ってノエルは悪くないと言うと使い魔は翼を広げ、ジークの頭へ直進して行く。
「ちょ、ちょっと待て!?」
「ジ、ジークさん、大丈夫ですか!? カ、カインさん、突然、何をするんですか!?」
「企んだ人間が罰を受けるのは当然だと思ったんだけど、元凶って、ジークだよね? ……違うの?」
ジークは一直線に向かってくるカインの使い魔を避けようとするが、背中の後ろにノエルをかばっているため、使い魔のくちばしはジークの額に深々と突き刺さり、ジークは痛みに身もだえ、ノエルは彼の身体を支える。
カインは元凶であるかジークが伐を受けるべきだと笑った後に元凶は他にいるのかと聞く。
その声に聞いた者の背筋を凍られる冷たさがあり、自分達に被害がくるのもイヤなためか、カインに何かを言う事はない。




