第407話
「当然でしょ。何度も言うけど、あんな良い人をあのクズと一緒にさせるわけにはいかないわ!!」
「しかし、どうして、ここまでフィーナのカインへの評価は低いんですかね? レギアス様やラース様、フィリム教授、テッド先生の話を聞く限りはかなり優秀であるはずです。それに数日でカインとセスさんの様子を見させていただきました。お似合いのように見えましたけど」
「それはあり得ないわ。だいたい、あのセスさんがあんなクズを選ぶような間違った判断をするわけがないわ」
猛反対をするフィーナの様子に彼女とカインの軋轢をいまいち理解できていないミレットは苦笑いを浮かべた。
しかし、フィーナはカインとセスの間を認める気などまったくないようで、なぜ、反対かなど言うわけではなく感情だけで声を上げている。
「……どうして、真実を見ようとしないんでしょうね」
「それが見えるようなら、こんな風に育ってないから、むしろ、反発心? カインが正論を言って、論破されて、キレて、物理的にしばかれるってのがいつもの流れだからな」
「……それは何か厄介ですね。カインも言う時は容赦ないですしね」
レインはフィーナの様子に眉間にしわを寄せると、ジークはフィーナの性格はカインに反発するためだけに意地になっているのではないかと言う。
レインは猛反対をしているフィーナへと視線を向けて大きく肩を落とす。
「あの、フィーナさんはどうしてそんなにカインさんの事を認めたくないんですか?」
「どうして? って、見ればわかるでしょ。あいつは人間のクズよ」
「本当に感情論だけですね……うーん。そうですね」
ノエルは何度、聞いたかわからない質問をするが、フィーナは拳を握り締めてカインをクズと叫ぶが、それだけにどこが悪いかは話す事はない。
ミレットはその様子に困ったように笑うと何か考えているようで首をひねり始める。
「……」
「ジーク、どうしました?」
「いや、ミレットさんのあの表情はカインとどこか重なるからな」
「それは……何となくわかります」
ミレットの様子にジークは眉間にしわを寄せると、彼の様子にレインは首を傾げるもののジークからの返事を聞いて彼も同じ考えを持っていたようで小さく頷いた。
「2人ともそれはどう言う事ですか?」
「何でもありません……それで、何か良い案が思い浮かびましたか?」
ジークとレインの話はミレットにしっかりと聞こえており、彼女はにっこりと笑う。
彼女の笑顔にジークは背中にうすら寒いものが伝ったようであり、顔を小さく引きつらせるが、直ぐに表情を戻して聞き返す。
「そうですね……それではフィーナ、カインがセスさんを選ばなかった場合、ラース様の御令嬢がカインに飛びついてくる可能性が高いですが、それでもよろしいですか?」
「え? おっさんの御令嬢って、あのうるさい小娘?」
ミレットは首をひねりながら、セスがダメだった場合にカルディナの名前を上げた。
その名前にフィーナの眉間にはくっきりとしたしわが寄りだす。
「……あいつがくるのはイヤだな」
「ジークさん、それは言い過ぎじゃないかと、フィーナさんもです。カルディナさんはす、少し盲目的ですけどそこまで嫌わなくても」
カルディナの名前に嫌悪感を示したのはフィーナだけではなく、ジークの眉間にもくっきりとしたしわが寄った。
ノエルは苦笑いを浮かべながら、カルディナをフォローしようとするが彼女自身もルッケルや王都でカルディナの自分勝手な様子を見ているため、フォローしきれないようである。
「カルディナ様も嫌われてますね。ルッケルでの事を見れば仕方ありませんか? でも」
「後は俺は何度か、王都でもケンカ売られてるからな。おっさんはそれなりに平民にも理解あるけど、あいつはダメだ」
「あれはダメね。だけど……だからと言って、セスさんに悪い気がするわ」
ジークとノエル、フィーナの反応にレインは苦笑いを浮かべるも、彼自身もルッケルでの騒動に巻き込まれた身であり、フォローのしようはなくどうして良いのかわからないようである。
ジークのラースへの偏見はかなり薄れているようではあるが、カルディナとは相容れないと思っているようで全否定し、フィーナもどうするかと考え始めた時にセスの平穏より、カルディナに関わり合いたくないと言う思いで葛藤を始める。
「あ、あの、カインさんとセスさんの幸せについて悩みましょうよ」
「セスさんの幸せを考えるなら反対しないといけないでしょ。だけど……」
「フィーナはカインが誰かと結ばれると考えた時、全部を否定するつもりですか? カインと同じような性格の人だった場合、フィーナへの被害は単純に倍増しますけど」
フィーナが頭を抱え始めた様子に、ノエルは悩みどころが違うのではないかと聞く。
フィーナにとっての大問題は自分の身の安全であり、彼女の葛藤内容にミレットはフィーナにとっての最悪は何かと聞いた。
「倍増?」
「……確かに、カインとここは避けたい」
倍増と聞かされ顔を引きつらせるフィーナに、ジークは仮にカインとミレットがくっついた時の事を思い浮かべてしまったようであり、眉間のしわはさらに深くなって行く。
「カインは正攻法も用いますが、どちらかと言えば奇策と言った類の方が得意のように見えます。セスさんは正攻法がメインですね」
「そうね」
「そう考えた時、真面目なセスさんがカインをまっとうな人間にしてくれる可能性が高いのではないでしょうか? 正直、セスさん以外にそれをできる人間はいないと思いますけど」
ミレットはいつもカインが使うように言葉でフィーナを言いくるめており、フィーナはミレットの言い分が正しいような気がしているのか首をひねり、考え込んでる。
「……騙されている気しかしないんですが」
「まぁ、どちらかと言えば、セスさんがカインにおちょくられている姿しか目に浮かばないんだけど」
「えーと、で、でも、カインさんとセスさんはお似合いですし、良いんじゃないでしょうか?」
ミレットに丸めこまれているフィーナの姿にジークとレインは眉間にしわを寄せる。
ノエルは2人の様子に苦笑いを浮かべながらも、フィーナが味方になる事で反対する人間がいなくなった事を喜ぼうと言う。




