第405話
「それって、どう言う事ですか?」
「隠し財産なんてないという事ですね」
「隠し財産がない? ちょっと、それって、私に報酬が出るの? これだけ、働かされてただ働き?」
状況が理解し切れていないノエルは首を傾げると、ミレットはカインの無茶に困ったように苦笑いを浮かべて答える。
フィーナは状況を確認するかのようにつぶやくと大事だと思ったようで、勢いよく立ちあがり、テーブルを叩いた。
「いや、少なくとも食費は出てるだろ。きちんと働いた分で飯が食えてるんだ。村長に寄生しているフィーナにしては進歩だ。良かったじゃないか」
「……その前に、1番に気になる事はそこなのか?」
ジークは元々、ただ働きを覚悟していたため、食費を請求されていないだけで充分だと思っており、フィーナの成長につながると言う。
カインはフィーナが自分の収入にしか、興味がないと思ったようで大きく肩を落とした。
「べ、別にそう言うわけじゃないけど」
「ジークさん、ジークさん」
「どうした?」
カインの言葉に頬を膨らませてそっぽを向くフィーナ。ノエルはフィーナの様子に何か気が付いたようで声を抑えてジークの服を引っ張る。
ノエルの声が小さい事もあり、ジークは小さな声で聞き返す。
「これはあれじゃないでしょうか? フィーナさんは素直にカインさんのお手伝いをするのが恥ずかしいから、報酬って、言っているんじゃないでしょうか?」
「……いや、ないだろ」
ノエルはフィーナは照れ臭いだけだと主張するが、ジークは長年、フィーナとカインを見てきているせいか、ノエルの言葉は信じられないものであり、ジークの眉間にはくっきりとしたしわが寄る。
「それで、カイン、隠し財産がない状態で住民達が希望した事をできるんですか? 少しずつですが、希望が出て来ていますよね」
「できるよ……きっと、コーラッドさんが予算をねん出してくれるから」
「セスさん、任せかよ」
レインはカインがどうするつもりか知りたいようで、真剣な表情をして聞く。
その言葉にカインは大きく頷いた後にセスに丸投げしていると視線を逸らして言う。
「まぁ、冗談だけど、隠し財産はないとは言え、それなりに使えるくらいはあるよ。後は俺が王都にいた時代に貯めたお金もあるしね」
「カインが貯めた金って言ったって、フォルムを回して行くだけの金はないだろ」
カインは自分で貯め込んだ金を使うと笑う。
しかし、いくら第1王子付きだったとは言え、領地を動かせるだけのものはないと思ったジークはため息を吐く。
「……普通に考えるとそうですわね」
「普通に考えてはいけないんですか?」
ため息を吐くジークの様子にカインは口元を緩ませており、彼の表情にセスは眉間にしわを寄せている。
ノエルはセスが眉間にしわを寄せている理由がわからずに首を傾げた。
「それはその時のお楽しみと言う事で」
「お楽しみってなんだよ」
「まぁ、やれるだけの事はやるよ。お金の管理とかコーラッドさんが得意だからね。フォルムにいてくれる間にいろいろと手伝って貰わないと、この話はここで終わり」
カインは誤魔化すように笑うと、ジークは大きく肩を落とす。
お金の心配はジーク達に聞かせる事でもないと思っているのか、カインは苦笑いを浮かべた。
「と言うか、今更だけど……」
「ジーク、どうかしたんですか?」
「どうかしたと言うか……」
カインの自分達にはお金の事を聞かせたくない事を何となく理解したジーク何かが引っかかったようで頭をかくが直ぐに言いかけた言葉を飲み込む。
その様子に気が付いたレインはジークの名前を呼ぶと話して良いのかわからないのか、カインとセスを交互に見てため息を吐く。
「あー、そう言う事ですか? 確かに言うか悩みますね」
「なるほど、確かにそうですね」
「……実際、今の状況だとな」
ジークの視線の先の2人にレインとミレットは意味がわかったようであり、苦笑いを浮かべる。
ジークは察しが良い2人の様子にどうするべきか相談に乗って欲しいのか困ったように笑う。
「ジーク、それは後回しです。まずは夕飯にしましょう。フィーナの限界が近いですし、冷めてしまうとせっかくの料理が台無しですから、レインも良いですね」
「そうだな。確かに腹減った……しまった。これがあった」
ミレットは夕飯前の話が長引いている事もあり、夕飯を食べてからにしようと提案する。
その時、ジークの腹の虫が小さく悲鳴を上げるが、この中にフィーナが作った危険物が混じっているかも知れないという事を思い出して顔を引きつらせた。
「ジーク、それは失礼ですよ」
「そうです。フィーナさんは頑張ったんですから」
「が、頑張っても何でもできるとは限らないんだぞ」
ジークの表情の変化にミレットは大きく肩を落とすと、ノエルは頬を膨らませてフィーナの頑張りを誉めて欲しいと言う。
ジークはテーブルに乗っかっている料理から安全なものを探そうとしているようで目を凝らしており、その様子から彼が命がけだと言う事がわかる。
「ジークはどうしたんですか?」
「レインも気をつけなよ。この中にはフィーナが作った独が混じっているから」
「フィーナさんが料理に挑戦したんですか? それはお疲れさまです」
レインはフィーナが夕飯作りの手伝いをしていた事を知らなかったため、純粋に彼女の苦労をねぎらうが、カインとセスもジークと同様にフィーナが関わった料理を探している。
「……ここまで言われないといけない事なの?」
「そんな事はないです。おかしな事をしないで食べましょうよ」
フィーナは流石にバカにされすぎている事もあり、眉間にしわを寄せると不機嫌そうに夕飯に手を伸ばす。
ノエルは失礼な事は言わないように釘を刺し、食事をするように促した。
「だけどな」
「大丈夫ですよ。味見は私もノエルもしましたし、何より、ジークもカイン、2人の方が知っていると思いますけど、フィーナはできないじゃなくて、面倒な事はやらないだけですから、やれば案外、色々とできるんですよ」
それでも迂闊に夕飯へと手を伸ばす事をためらっているジークにミレットは苦笑いを浮かべながら問題ないと告げる。
その言葉にジーク、カイン、セスの3人はお互いの顔を1度、見合わせた後、夕飯へと手を伸ばした。




