第404話
「なるほど、ジークの負担を減らすね」
「はい。実際、私から見ていても、ジークが多忙のはわかりますから、皆さんの状況を考えると私が1番、手が空いていそうですし」
食事の準備が終わり、カインはミレットからフィーナをキッチンに入れると言う暴挙に出た理由を聞く。
ミレットはジークが診療所の手伝いの時に愚痴を漏らしていた事を伏せつつ、これからの食事当番は自分が中心になると笑顔を見せて言う。
「確かにジークにはまだまだ働いて貰わないといけないから、ダウンされても困るしね」
「……お前は俺にどれだけ働かせるつもりだ?」
ミレットに言われ、カインはジークに負荷をかけすぎていると思ったようでうんうんと頷くが、彼の頭の中には他にもジークに押し付ける仕事があるように見える。
その姿にジークは眉間にしわを寄せ、聞き返す。
「前にも言っただろ。新しく育てる薬草類の栽培方法の指導をして貰うって、テッド先生のところに行って貰ってるのだって、その一環なんだから」
「確かに言われたけど……だけど、育てる余裕あるのか? 診療所には年寄り連中もいるけど働き盛りは自分の畑を持ってるんだろ。他にも仕事を持ってる人間もいるし」
「そうよね。私とレイン達が森の中を見て回ってるけど、そんなに広く畑は作れないでしょ」
ジークの言葉に呆れ顔のカインだが、ジークもフォルムに来てから、住民の様子を見てきた事もあって新しい畑に人手を回す事はできないのではないかと首をひねった。
フィーナも自分達が受け持っている仕事の規模から言えば、人手は足りないのではないかと首をかしげた。
「そこら辺はこれから考えるよ。上手く領地を統治して行けば、フォルムに移住したいと言う人間も出てくるだろうからね」
「そんなに上手く行くのか?」
カインはフォルムの領地運営を成功させる事で住民を増やそうと考えており、ジークはカインの考えが希望的すぎないかと思ったようでため息を吐く。
「いくつか、考えられる事はあります……それも考えて、リュミナ様を使ったんでしょう」
「それってどう言う事ですか?」
ジークとカインのやり取りにセスはカインがリュミナをメルトハイム家を継がせた事もフォルムに住民を増やすために作戦の1つだと言う。
その言葉の意味がわからないようで話を聞いていたノエルは首を傾げる。
「ノエルはリュミナ様の事、好き?」
「は、はい。少ししかお話はできませんでしたけど、優しい方だと思います」
「と言うか、ノエルに聞いたら、だいたいの人が優しい人でしょ」
カインは突然、ノエルにリュミナについて聞くとノエルは直ぐに頷く。
フィーナはノエルの性格では聞く意味がないと大きく肩を落とすと、いろいろと疲れたようでテーブルに突っ伏す。
「確かにノエルに聞いたら、その答えしかないかな? それじゃあ、この中で、何となく、リュミナ様が好きになれないって思った人はいるかい?」
「別にリュミナ様がキライって思った事はないわよ」
フィーナの言葉にカインは苦笑いを浮かべると今度は屋敷にいる全員に聞く。
カインの質問の意図がわからないフィーナはテーブルに突っ伏したまま答えると、ジーク達も同意見のようで苦笑いを浮かべている。
「レイン、騎士として、リュミナ様は仕えるに値する方かい?」
「……そうですね。リアーナさん達の様子を見れば、リュミナ様は主君として支えるに充分に値する方だと思います」
カインはその答えに満足そうに笑うと、今度はレインに騎士としての立場で答えて欲しいと言う。
レインはリュミナを慕い、隣国までついてきたリアーナ達騎士の同行を考えると人格的にも問題はないと答える。
「そう思うのは俺達だけじゃないって事だよ。ザガードの後継者争いでリュミナ様は逃げるしかなかった。彼女を慕う者がハイムまで追いかけてくる可能性は高いよ」
「そのために、メルトハイム家を継がせたのか?」
「リアーナ達みたいに優秀な人間がハイムに来てくれたら良いな」
カインはザガードからリュミナを慕い後に続く人間を向かい入れる準備だと笑う。
カインの笑顔に納得がいかないようで、ジークは眉間にしわを寄せ、ノエルは2人の様子に苦笑いを浮かべている。
「でも、お前、ザガードが後継者争いでごたごたしてる事は知らなかったんじゃないのかよ?」
「リュミナ様がフォルムに来てから、微調整しただけだよ。フォルムは王都からだいぶ、距離もあるし、領主の能力で上手く統治されるか決まる。私利私欲に走る領主が居れば反乱や土地を捨てる人間も出てくるからね。受け入れる準備はしとかないといけなだろ」
「……他の領地から住民が土地を捨ててフォルムに来るように何か企ててないだろうな」
カインがやっているのはあくまでも難民やフォルムを頼ってきた人間達のためであり、必要な事だと笑うが、ジークはカインがおかしな事を企んでると思ったようでカインへと疑いの視線を向けた。
「流石にしてはないから、噂ってのは広がるのが速いよ。良い噂も悪い噂もね」
「悪い噂……人はこないだろうな」
ジークの視線にカインはため息を吐くとおかしな事を言わないで欲しいとため息を吐く。
その言葉でジークはカインには悪い噂が付いてくるため、カインを頼ってフォルムにくる人々はいないと遠い目をして言う。
「隠し財産を大々的に言って回ってるものそう言う理由です。フォルムでは逃げて来た人々を支援してくれると」
「支援するって言ったって、先代領主って領主をやってた時間ってそんなに長かったわけでもないだろ……実際、そんなに隠し財産ってあるものなのか?」
セスは噂を広める事も1つの作戦だと眉間にしわを寄せる。
ジークは隠し財産と言う話にどこか違和感を覚えていたようで思っていた疑問を口に出す。
「……嘘か?」
「何を言っているんですか?」
「あぁ、ばれちゃった。コーラッドさん、もう少し、上手くやって欲しいね」
一瞬、セスの視線が泳ぎ、ジークは隠し財産の存在が嘘だと察したようで彼の眉間にはくっきりとしたしわが寄る。
セスはジークの言葉を否定するが、その様子から誤魔化しようがないのは誰の目から見ても明らかであり、カインは苦笑いを浮かべた。




