第403話
「……ジーク、あんた、何してるの? なんか、凄く怪しいわよ」
「イヤ……なんて言ったら良いんだろうな」
ミレットが食事当番を買って出てくれた事もあり、ノエルとミレットが食事当番をしているのだが、ジークはヒマになってしまうとしまうでどこか落ち着かないようで、そわそわとキッチンを覗き込んでいる。
その様子に汗を流し終えてきたフィーナは眉間にしわを寄せると、ジークは気まずそうに視線を逸らした。
「今日はミレットさんとノエルがご飯、作るんだ」
「はい。ミレットさんにお料理を教わって、ジークさんの負担を少しでも減らそうと思います」
ジークの様子に首を傾げるフィーナだが、キッチンの様子を見るとノエルとミレットがキッチンを占拠しており、今日の夕飯の準備にジークが入っていない事に気づく。
ノエルはフィーナの声が聞こえたようで、頑張ると両手を握りしめて答え、その様子にフィーナの表情には自然と笑みがこぼれた。
「ジーク、あんた、愛されてるわね」
「……まぁ」
「その反応はその反応で少しイラっとするわね」
フィーナはノエルの言葉にジークの反応も気になったようで直ぐにジークをからかうように言うとジークは照れくさいようで頭をかいており、フィーナは聞かなければ良かったと言いたげである。
「何か、理不尽じゃないか?」
「そんな事はないわよ。だけど……ジークが、キッチンにいないならつまみ食いができないわ」
「……まず、つまみ食いをするな」
フィーナの反応にどこか納得できないジークだが、すでにフィーナの興味は他に移っており、ジークは大きく肩を落とした。
「だって、お腹が減るんだから仕方ないでしょ」
「フィーナもせっかくですから、一緒にお料理しませんか?」
「……無謀だろ」
つまみ食いができずに頬を含まらせるフィーナだが、その姿にミレットは苦笑いを浮かべて彼女を調理に誘う。
しかし、ジークはミレットの提案はあり得ない事であり、眉間にしわを寄せる。
「何ですって?」
「そうですね。フィーナさんも一緒にお料理しましょう」
「へ? ちょ、ちょっと、ノエル、無理よ」
ジークの言葉にフィーナは不機嫌そうな表情で彼を睨みつけるが、ミレットの提案にノエルは賛成のようでフィーナの腕を引っ張り、キッチンの中に引き込む。
フィーナは今まで、キッチンで料理などしてこなかった事もあり、無理だと声をあげる。
「……頑張れよ」
「ジ、ジーク、待ちなさい。助けなさいよ!?」
「カイン達もフィーナにはいろいろと覚えないといけない事があると言っていましたよね。少しずつでもやれる事を増やして行きましょう」
ジークはノエルの頑固なところも知っており、言い出すと聞かないためか自分にとばっちりがきても困るため、フィーナを置いて逃げる。
フィーナは逃げるジークの背中に助けろと叫ぶが、ミレットは笑顔でフィーナの背後から彼女の肩をつかむ。
「ミ、ミレットさん、世の中には得手不得手と言う物がありまして」
「そうですね。得手不得手はあると思いますよ。ただ、フィーナは得手不得手があるかどうかもわからないでしょう。やってもいないんですから」
フィーナは背後に感じるミレットの気配に背中に冷たい物を感じたようで顔を引きつらせる。
しかし、振り返ってミレットの顔を見る事ができず、言い訳をするがミレットは言い訳を聞く気はない。
「……やっぱり、カインと同種の人間だな」
「俺と同種って、どうかしたの?」
「ジーク、昨日は中断した説明をして貰いますわ」
フィーナがキッチンから出てこない事にジークは完全にフィーナがミレットに捕まった事を理解したようで眉間にしわを寄せた。
その時、仕事を終えたようでカインとセスが居間に顔を出し、セスは昨晩、侵入者の登場で流れてしまったジークがアリアの資料を手放した理由を聞きたいようで眉間に青筋を浮かべながらも笑顔で言う。
「……カイン、ちょっと、セスさんを任せて良いか? 俺は腹痛に効果のある薬を取ってくる」
「それは構わないけど、どうかしたの?」
「……キッチンを見てくれればすべてわかる」
セスの事より、ジークはフィーナの料理と言う未知の危険の方に脅威を感じているようであり、部屋から薬を取ってくると告げる。
ジークの様子に状況が理解できないカインは首をかしげており、ジークはキッチンを指差す。
「キッチン? ……コーラッドさん、ジークには少しやる事があるみたいだから、諏訪ってようか」
「カイン=クローク、何を言ってるのですか? 今、重要なのはアンリ様の症状を改善するには寄り道などしてるヒマはないと言う事です」
ジークの様子からただ事ではないと感じたカインは大きく深呼吸をした後に覚悟を決めたようでキッチンを覗いた。
キッチンにはノエルやミレット以外にフィーナがいる事に気づき、状況を整理しようとしたようだが、彼の優秀な頭でも最悪の結果しか導き出せないようでフィーナの背中を押してソファーに向かう。
セスはジークに逃げられると判断したようで声をあげるが、カインはジークに早く行けと目で合図をしており、ジークは急いで部屋に戻る。
「カイン=クローク、説明しなさい」
「……お腹を壊したいなら、ジークを捕まえていたら良いよ」
「何が言いたいのですか?」
ジークに逃げられ、ご立腹のセスはカインの胸倉をつかむが、カインはフィーナがキッチンで料理をしている事に身の危険しか感じてなく、キッチンを指差す。
セスはジークとカインの様子からキッチンに何かある事は理解したようだが、フォルムに来てからはジークとノエル、先日からはミレットと料理と食事についてはまったく心配していなかったようで何があるかわからずに眉間にしわを寄せた。
「見ればわかるよ。ついでにお茶でも貰ってきてよ」
「見れば? 何かおかしな材料でも使っているんですか?」
カインはもう1度、キッチンを指差し、セスはカインに疑いの視線を向けながらキッチンに向かって歩いて行く。
「ノエル、お茶をいただきたいのですが!? フィ、フィーナなこんなところで何をしているのですか?」
「……な、何をしてるのかな?」
キッチンを覗き、ノエルにお茶を貰おうとするが彼女の視線の先にはキッチンで料理をしていてはいけない人間の姿が立っている。
その様子にセスは狼狽し、声を裏返しながら聞くとフィーナは少しの間にかなり疲弊しているのか力ない声で返事をした。




