第402話
「……何か、また、人が増えてないか?」
「そ、そうですね。早く起きたから眠たいです」
「そうだな。でも、気を抜いて失敗するわけにはいかないからな」
診療所の手伝いを始めていたジークは待合室に集まる人々の様子にため息を吐いた。
診療所の待合室は本日も大盛況であり、ケガも病気もない人間までもが集まっている。
侵入者の事もあり、睡眠時間の少なかったノエルは欠伸をかみ殺しており、彼女の様子に苦笑いを浮かべた。
「ジークくん、こちらの手伝いをお願いします」
「は、はい……テッド先生、今日は何かあったんですか?」
診療室のドアを開けたテッドはジークを呼ぶとジークは診療室に入り、忙しい理由を聞く。
「ラミア族の血を引く住人がノエルさんの噂を聞いて集まり始めてきたんですよ……気を付けてくださいね」
「そうですね。ノエルを見てないといけないですね」
「違いますよ。気を付けるのはジークくんです」
ドレイクの少女が診療所を手伝っていると言う噂はラミア族の血を引く者達の中にも伝わって行ったようで初めは警戒をして診療所の様子を見ていた者達が集まってきたようである。
テッドはジークに気を付けるように言うと、ジークは危なっかしいところのあるノエルの事を言ってると思ったようで頭をかくが、テッドはジークに気を付けるように言っている。
「俺ですか?」
「はい。フォルムにいた魔族はラミア族です。そして、ラミア族は女性の方がその特性を強く出します。いろいろな意味で食べられないようにしてください。彼女達はジークくんが魔族に偏見がないと言う事も知っていますから」
「……気を付けます」
テッドの言葉の意味がわからないジークは首を傾げているが、テッドは苦笑いを浮かべた。
ラミア族の女性は男性の精で力を維持する事もあると言う話であり、その触手がジークに向けられている可能性があるとあると言う。
ジークは眉間にしわを寄せると身の危険を感じ取ったようで大きく頷く。
「少なくとも、ラミア族の血を引く住民達はジークくんとカイン様が魔族に偏見がない事を知っています」
「でも、俺にはノエルがいますよ」
「そうですね。それも伝わってはいるとは思いますけど……ね」
ラミア族の血を引く者達にある特殊な情報網でジークやカインの事を調べ上げているようであり、ジークはノエルがいるため、おかしな事はしないと言う。
テッドはジークの姿を好ましく思っているようで小さく表情を緩ませると気を付けるように釘を刺す。
「気を付けますけど……カイン、レインに既成事実を作らせる気じゃないだろうな。レインは融通が利かないぞ」
「流石にカイン様はそんな事はしないでしょう」
ラミア族の特性を考えた時に、ジークはカインがレインの事をはめようとしている事を思い出して眉間にしわを寄せた。
テッドはカインを信頼しているのか、苦笑いを浮かべるとジークはカインがそこまでしない事は理解できているのか頭をかく。
「あー、テッド先生、そう言えば、昨日、屋敷に忍び込んだ人達ってどうなったんですか?」
「あからさまに話を変えようとしましたね」
ジークは気まずくなったのかテッド預かりになった侵入者達がどうなったかと聞くが、人生経験を重ねたテッドにはジークの心境は読まれている。
「少し前の事ですしね。忍び込んだ者達にも家族はいますから、話をしたいと言ってましたから、家に帰りましたよ」
「どんな答えを出しますかね?」
「悪い答えは出さないと思いますよ。フォルムから離れたとは言え、少なからず、この地と繋がっていましたからね。あの者達にもフォルムにも友人もいましたし、何かあればこの診療所にも顔を出してましたしね。ジークくんも私達を信じてください。形は違えどフォルムは君達と同じ想いを持った人たちなんですから」
ジークは信じたいとは思ってはいるものの、自分達が余所者と言う事もあり、信じて貰えないのではないかと言う不安もあるようでテッドに聞き返す。
その様子にテッドは笑みを浮かべるとフォルムの人間を信じて欲しいと言う。
「そうですね。信じないといけないですよね。それに人手が増える事は俺達も助かるから」
「ジークくん達は忙しそうですからね」
「診療所の手伝いに、ジオスの分の調合、ルッケルとワームの連絡係に食事当番……俺、過労死しないかな? せめて、しばらくの間、専属で飯の準備と屋敷の維持をしてくれる人間を雇えないか?」
侵入者達がフォルムに戻ってくれる事で自分の仕事が楽になれば良いなと肩を落とすジークだが、自分しかできない仕事もある事は理解しており、雑用や食事当番からおりたいと肩を落とした。
「食事当番だけなら、私が変わっても良いですよ」
「ミレットさん?」
その時、ミレットが診療室を覗く。
話は聞こえていたのか、多忙なジークの手伝いをしようかと言う。
「確かに今、カインの屋敷に滞在している人達は多忙ですけど、その中でもジークは仕事を抱え込んでいますからね。その中では私が1番、手が空いてそうですから」
「いや、そう言うわけにもいかないんじゃないですかね?」
ミレットは笑みを浮かべて、手伝いを買って出るがジーク自身、レギアスの後継者であるミレットに食事当番などを押し付けて良いものか悩むところのようで首をひねっている。
「気にしないでください。それにジークが倒れてしまうと今、ジークが抱えている仕事が滞ってしまいますから、ワームとルッケルの事を考えるとジークの手伝いをするのも私の仕事ですから」
「それは助かりますけど……と言うか、レギアス様の後継者なら、ルッケルとワームの連絡係もできるんじゃないかな?」
「確かにそうかも知れませんけど、私は転移魔法を使えませんよ。ジークの持っている魔導機器も複数あるわけではありませんよね?」
ミレットは苦笑いを浮かべて、ジークを手伝いたいと言うと、ジークは1つの考えが頭をよぎった。
その言葉をミレットは苦笑いを浮かべながら否定するとジークは頷くしかないようで何か納得がいかないのか眉間にしわを寄せる。