第401話
「このバカ者どもが!! お前達は自分が何をしたのかわかっているのか!!」
「テ、テッド先生、落ち着きましょう」
侵入者達はカインから、盗みに入った目的や経緯を聴取されていたのだが、応じる事無く、力づくで聞き出すわけにもいかないと判断するとカインはフォルムで長い間、診療所を行っていたテッドに協力を求めた。
テッドはカインの協力に素直に頷き、朝の早い時間にも関わらず、屋敷に足を運んでくれると侵入者達の顔に心当たりがあったようで彼にしては珍しく顔を真っ赤にして怒りの声をあげる。
その様子にノエルは慌ててテッドを落ち着かせようと声をかけた。
「フォルムの人間で間違いなさそうね」
「どうかな? 改めて、顔を確認すると見た事ないんだけど」
「……フォルムの民、全員の顔を覚えているような言い方だな」
テッドに怒鳴られて気まずそうな表情をしている侵入者達の様子にフィーナは呆れ顔で言うが、カインは侵入者達の顔に見覚えがないようで首を傾げている。
その姿にジークはカインならフォルムの民全員の顔を名前が一致しそうだなと思いながらも現実的ではない事もあり、大きく肩を落とす。
「覚えてるよ。これでも領主だしね」
「……私には無理です」
「そうかな? レインならできる気がするんだけど、それで、テッド先生、この者達は何者ですか?」
カインは平然と覚えていると言うと笑うが、レインはカインがなぜ、そんな事ができるかわからないようで眉間にしわを寄せている。
カインはさほど難しくないと思っているのかレインにならできると言うとテッドに侵入者達の正体を聞く。
「この者達は先代の領主について行けず、フォルムを出た者達です」
「フォルムを出た者達? ……偉そうに言ってたけど、隠し財産を奪う権利もないだろ」
「まったくね」
「あ、あの、ジークさん、フィーナさんもう少し言葉を選びませんか? それに話を聞いてから判断しましょうよ」
テッドの口から出た侵入者達の正体にジークは呆れたと言いたいようで眉間にしわを寄せ、フィーナもジークの意見におおむね賛成のようで大きく頷く。
その姿にノエルは侵入者達の言い分を聞いてからでも結論を出すのは遅くないと言う。
「まぁ、確かにノエルの言いたい事もわかる。けどな」
「正直、先代が悪政を強いていたのは帳簿整理をした私とカイン=クロークが1番知っています。ただ、税を納めずに逃げ出した者達にこの地にとどまり、悪政の下で頑張っていた者達が納めた物を奪われるわけにはいきませんわ。お引き取りください」
ノエルの言葉にジークは困ったように頭をかくと眉間にしわを寄せて考え込んでいるセスへと視線を向けた。
セスはジークの視線に気が付いたのか、侵入者達の言い分をこちらが聞く義理は一切ないと切り捨てると侵入者達の顔も見たくないと言いたいようで出て行くように言う。
「まぁ、妥当だね。ただ、何もなく無罪放免と言うのは俺もフォルムを統治する上でしまりが悪い」
「みなさん、逃げてください!?」
カインはセスの意見に同意するもの、侵入者達をそのまま帰すわけにもいかないと思っているようで小さく口元を緩ませた。
その様子にノエルはカインが侵入者達に酷い事をすると思ったようで捕えられている侵入者達の縄をほどこうとする。
「ノエル、それってどう言う事?」
「流石に言い過ぎのような気もしますけどね」
ノエルの言葉にカインは大きく肩を落とし、ミレットは苦笑いを浮かべた。
「それで、実際、どうするつもりなんだ? 無罪放免ってのは流石に無理だろうけど、何か罰でもないとまた同じような事をするかも知れないぞ」
「そこなんだよね。いくつか確認させて貰うよ。まずはフォルムを捨てた後はどこに移住していたんだい?」
ジークは領主であるカインの判断待ちだと言いたいようで、カインに話を振ると、カインは首を傾げた後に1つの質問をする。
その質問の意味が何を意味しているのかわからない侵入者達はお互いに顔を見合わせるが正解が出てくるわけでもない。
「……この近くの森の中で狩りをしながら生活をしていた」
「その時、生活のために人を襲った事は?」
「ない」
カインの質問は簡単なものであり、侵入者達は警戒しながらもその質問に答えて行く。
「それじゃあ、最後の質問、領主が変わったわけだけど、フォルムの民としてフォルムに戻ってくる気はない? 戻ってくるなら、いろいろ支援するよ。住居とか、後は森のなかだと病気にかかった時は大変だろうし、これを機に戻ってきませんか?」
「カイン=クローク、あなたは何を言っているのですか!!」
しばらくするとカインは最後の質問だと言い、フォルムを捨てた侵入者達にフォルムで生活しないかと聞く。
その言葉は信じられるようなものではなく、セスは声をあげるが、言われた侵入者達は戸惑っているのか顔を見合わせている。
「いや、実際問題、フォルムは人手が少ないしね。森の中で生活していたなら、森の事は詳しいだろ。レイン達に頼んでいるものも大幅に進む。それに人手が足りないから、ジーク達にフォルムまで来て貰ってるんだけど、身内を優遇しているみたいにおかしな噂が出てきても困るしね」
「優遇も何もほとんどただ同然で働かされてる気しかしないんだけど」
カインは人手不足を解消したいようであるが、彼らが他の町や村に移動しなかったのは彼らの中に流れるラミア族の血が人族だけの場所に行く事を恐れている事だと思っているようでフォルムに戻る事を提案しているようである。
ジークはカインが何を言いたいかも理解していないようで、ただ働き同然でこき使われている事に不満を漏らした。
「カイン様、よろしいんですか?」
「問題ないですよ。答えを出すには時間がかかるかも知れませんから、この者達の身柄はテッド先生に預けます。お願いできますか?」
「はい。お預かりします」
「それじゃあ、遅くなったけど朝食にするか? ……多いな」
カインは自分がこれ以上、何かを言うよりはテッドに任せた方が良いと判断したようであり、侵入者達の身柄をテッドに預けるとジークは侵入者達の分の朝食も用意する気のようで頭をかきながらキッチンに移動して行く。




