第400話
「おい。急げ」
「急いでるよ。もう蹴破っちまおうぜ。お前がへましたせいで侵入したのはばれてるんだ」
「そうだな」
カインの部屋に侵入した2人は目的だったカギを探すが、見つからない。
侵入時に誤って、部屋のガラスを割ってしまったせいもあり、彼らの表情には焦りの色が見える。
侵入して時間もかなり消費したせいでこのままでは不味いと判断したようでドアを蹴破ると決めたようで2人は顔を見合わせて頷いた。
「蹴破るにしても魔法がかかってるかも知れないから、びくともしない可能性があるね」
「魔法? そうか、だから、このドアが開かないのか? おい、外に行って……誰だ!?」
その横から、ドアを蹴破るのは難しいのではないかと言うアドバイスが聞こえ、侵入者達は魔法の事が頭になかったようで頷くと外で見張りをしている仲間達に応援を申請しようとするが、そこでカインと目が合い驚きの声を上げる。
見張りを立てていた事もあり、背後から屋敷の者がくるとはまったく思っていなかったようで侵入者2人は慌てて腰のホルダにしまっていたダガーを取り出してドアに背を向けてカインと対峙する。
「誰だ? って、正直、それはこっちのセリフだよね」
「お、お前が領主か? 先代領主の隠し財宝の部屋のドアを開けるカギを渡せ。カギを渡せば見逃してやる」
2人の反応に苦笑いを浮かべるカインだが、カインは丸腰であり、2対1と言う状況のせいか、侵入者達は高圧的にカギを渡すように言う。
その様子にカインは状況の確認がまったくできていない2人の様子に1度、眉間にしわを寄せるが、直ぐに何か考え付いたようで口元を小さく緩ませた。
「こいつ、笑ってるぞ。恐怖で気でも狂ったか?」
「そりゃそうだろ。領主と言ったって、まだガキなんだ。こんな風に自分が殺されるかも知れない状況は初めてだろうからな」
カインの表情に侵入者達はどこかで自分達が有利な状況だと思い込みたいのか、カインをただの若造だと言う始末である。
「……カイン、お前、いつまで遊んでるんだ?」
「ジーク、タイミング悪いよ。1度、下がって」
「いや、意味がわからないかな」
その時、庭先で見張りをしていた侵入者の仲間を捕らえ終えたのか、ジークが割れた窓から部屋に入ってくる。
カインと侵入者2人の様子にカインがまたろくでもない事を考えていると思ったようで眉間にしわを寄せるとカインはジークに1度、外に出ているように言う。
「……」
「見張りはどうしたんだ?」
ジークとカインの緊張感のない様子に侵入者達は状況が良くわからなくなってきたようであり、顔を見合わせると外で見張りをしている仲間達がどうなっているのかと心配になってきたようである。
「カイン=クローク、無事ですか?」
「カイン」
その時、ドアの向こうからセスとレインの声が聞こえはじめ、2人に続いてノエルやフィーナも合流しているような声が聞こえている。
「挟まれた?」
「まぁ、これだけ時間をかければ挟まれるだろうね」
「……相変わらず、性格悪いな」
侵入者はドアの向こうから聞こえる声にそこでようやく自分達が逃げられる状況ではない事に気が付いたようで顔を引きつらせた。
その様子にカインは楽しそうに笑い、ジークはそんな彼の表情に大きく肩を落とす。
「とりあえず、外にいた見張りはジークが無力化したけど、まだやる?」
「……ほとんど、お前が魔法でからめ取ったんだろ」
カインは侵入者2人に降服勧告をするとジークは何もしていないと言いたいようであり眉間にしわを寄せる。
しかし、侵入者2人はジークやカインをただの若造だと思っているようで2人を倒して脱出を試みようとしているのか、2人に殺気を向け出す。
「カイン、やる気みたいだけどどうするんだ?」
「ジーク、任せるよ」
「いや、1人くらい受け持てよ」
ジークは2人の様子に面倒だと言いたげに言うが、カインは楽しそうに笑うとそそくさとジークの影に隠れる。
組み手ではカインに及ばないジークはカインのやる気のなさを見て、ため息を吐いた後に魔導銃を構えた。
「もう1度、言う。カギを渡せ、そうすれば見逃してや……」
「この状況で、どうして、自分達が有利だと思えるんだ? で、どうする? 降服勧告を聞き入れてくれると助かるんだけど」
侵入者の1人はもう1度、カギを渡すように言おうとするが、ジークは話を聞く気はないようで冷気の魔導銃で彼を撃ち抜き、侵入者の身体を凍りつかせる。
仲間が凍りついて行く様子に1人残された侵入者の顔は引きつって行くが、ジークはこれ以上は抵抗するのは無駄だと笑う。
「……自分達の金を取り戻して何が悪い」
「少なくとも今は領地運営に使う金だね。出所はわからないけど先代領主が不正にため込んだ金だしね。徴収された領民に戻すべきお金だよ。君達みたいな盗人に渡して良い金じゃない」
侵入者は隠し財産は自分達の物だと領主であるカインを睨みつけて言うが、カインはその言葉を鼻で笑う。
「そんな事を言って、自分の懐に入れる気だろ?」
「そんなつもりはないね。その気なら、わざわざ隠し財産があるなんて言って回らない。それに隠し財産は必要な物に使うから領民には申請するように指示を出しているはずだ。仮にお前らが徴収された金だとしても力で手に入れようとしているお前らには渡さない。ジーク」
「はいはい」
侵入者はカインが隠し財産を自分の物にすると思っているようであり、そんな事はさせないとダガーを向けて言う。
カインは盗人が偉そうな事を言うなと言い、ジークの名前を呼ぶと彼の持つ魔導銃から冷気の弾丸が放たれ侵入者を撃ち抜く。
「で、一先ずは動きを止めたわけだけど、どうするんだ?」
「とりあえず、縛って居間に集めておこうか? 言い分もあるだろうしね」
「そんな事をやって、セスさんに怒られないか?」
凍りついた侵入者を見て、ジークはカインの考えについて聞くと、カインは侵入者達の言い分を聞く気のようである。
ジークはドアの向こうから聞こえるセスの声にまた生真面目な彼女に説教をくらうと思ったようで大きく肩を落とす。
「まぁ、大丈夫でしょ。侵入者達の言い分も聞かずに処分した方が怒られるよ」
「そうだな。できれば、そう言うのは避けたい」
カインは目を閉じるとドアにかかっていた魔法の解除を始め、ジークはカインが襲撃者達の命を奪う気はないと言う事に安心したようで胸をなで下ろした。