第398話
「本当に良いんですかね?」
「別に良いんじゃないの?」
ミレットが一緒に住み始めた日はジークが彼女に部屋を譲ったのだが、その後はノエルとフィーナが同室になっている。
2人は部屋に戻るとノエルはジークがアリアの資料をテッドに預けてしまった事に疑問が残っているようでフィーナに意見を求めるが、フィーナはどうでも良いと思っているのか長くなってきた髪をいじりながら言う。
「別に良いって、アンリ様の呪いを解除する答えがあるかも知れないんですよ」
「答えね……おばあちゃんって、ジークに答えを見つけさせるために資料を残したのかな?」
ノエルはフィーナの反応の悪さに不満なようで小さく頬を膨らませるが、フィーナはあまりアリアの資料が重要だと思っていないようで首をひねった。
その言葉の中には彼女の中にあるアリアの姿があるようで、アリアがジークに残した物が彼女の持つ全ての知識か疑問のようにも見える。
「どう言う事ですか?」
「おばあちゃんなら、自分で考えなさいって言う気もするのよね。と言うか、いくら本職じゃないって言ったって、答えが書いてあるなら、あのクズが簡単に読み解くでしょ。資料に書いてある方法を使える、使えないは別にして頭だけは回るんだから……やっぱり、邪魔ね」
首を傾げるノエルだがフィーナはカインの行動に違和感しか覚えていないようでありため息を吐いた後にいじっていた髪が鬱陶しいのか指に巻きながら言う。
「もったいないですよ。せっかく、長くなってきたんですから、フィーナさんの髪はキレイな色をしているんですから」
「でもね。木にも引っかかるし、剣を振ると目の前で鬱陶しいのよ。短い方が手入れも楽だし」
ノエルは初めて彼女と会った日からだいぶ伸びた髪を切ると言っているフィーナの隣に座ると彼女の髪にくしを入れる。
フィーナは伸ばした髪をしっかりと手入れしているノエルに言われるのは少しだけ照れくさいのか視線を逸らして困ったように笑う。
「ダメです。長い方が色々な髪形にできて楽しいじゃないですか?」
「楽しいって言っても、私がそんな事やっても無駄でしょ。着飾ってるもの向かないし」
髪を切りたいと思っているフィーナだが、セスやミレットと言った貴族を継ぐ者やノエルのようにドレイク族の領主の娘のような華やかさは自分にはないと思っているようで大きくため息を吐く。
「でも、カインさんも言ってましたけど、これからは領主の血縁者として色々な場所に赴かなければいけないかも知れないって、それなら、長い方が良いですよ」
「そんなのゴメンよ。私は冒険者なんだから、そんなの知らないわ」
兄のカインが立場のある地位に立った事もあり、フィーナも考えた方が良いと言うが、フィーナ自身は実感がない事や単純に面倒だと言いたいようで大きく肩を落とす。
「知らないって……フィーナさんはどうして、髪を短くしてたんですか?」
「え? いきなり、どうしたの? まぁ、特に隠すような事もないから良いんだけど」
ノエルは心底、面倒そうに言っているフィーナの様子に苦笑いを浮かべた後に、フィーナが髪を短くしていた理由を聞く。
ノエルの質問の意味がわからなかったのかフィーナは聞き返すが、別に隠す必要もないと思ったようで苦笑いを浮かべる。
「ウチの村って知っての通り、同年代の子供いないでしょ。ジークはおばあちゃんと山の中入って薬草を集め回ってたでしょ。あのクズも勝手に山の中を歩き回ってたし、村の中に1人でいるのってヒマだったから、後を付けて行ったら、髪は引っかかって邪魔だし」
「そうですか」
フィーナは小さい頃に1人で遊ぶのはヒマだったからだと言うもそれは幼い時に1人でいる事の寂しさを紛らわせるためのものだったとわかり、ノエルは小さく頷く。
「その時のおばあちゃんとジークを見てると最初から最後までおばあちゃんはジークに物を教えてるって感じがしないのよね。まぁ、難しい事を言ってたし、私が理解できなかったって事もあるだろうけど」
「でも、レギアス様達はアリアさんから多くの事を教わってるんですよね。今でもアリアさんを尊敬しているようですし」
フィーナは過去のジークとアリアの姿を思い浮かべながら、首をひねるとノエルはレギアスの言葉からアリアは全てジークにしっかりと教育をしているのではないかと首を傾げた。
「まぁ、実際はわかんないけど、ただ、ジークにはいい経験になるんじゃないの? アンリ様に呪いをかけてるのが噂の通り、本当に魔族だったとして、おばあちゃんの薬が本当にその呪いを解除できるとは限らないわけでしょ。その場合はジークか他の誰かがその方法を見つけないといけないんだから、いつまでもおばあちゃんに頼ってたらダメでしょ」
「そうなんでしょうか? ……はい。完成しました」
フィーナは彼女なりに考えたようで、ジークも1人立ちをする時期なのではないかと言う。
ノエルはフィーナの言いたい事を全て、理解できてはいないようで首を傾げているが、フィーナの髪の手入れが納得いくできになったようで笑顔を見せる。
「……やっぱり、もう少しだけ伸ばして見ようかな?」
「フィーナさん、何か言いました?」
「何でもないわ。それより、そろそろ、寝ない? 私は今日も肉体労働だったからもう限界よ」
ノエルの笑顔と彼女の長い髪にフィーナは自分が持っていない物も持っている彼女が羨ましく思えたようで髪の長さくらいはノエルに近づこうと思ったようでノエルに聞こえないようにつぶやいた。
ノエルはその声が聞きとれなかったようで聞き返すが、フィーナはまだジークの事を割り切れていない自分が情けなく思っているようでその想いを振り払うように大きく首を横に振るとわざとらしい欠伸をしながらベッドの中に潜り込む。
「は、はい。そうですよね。フィーナさんは身体を動かしていますし、疲れてますよね。それなのに長話に付き合って貰って」
「ノエル、謝らない。ノエルだって診療所の手伝いが大変なんだから」
ノエルはフィーナに時間を取らせてしまった事を謝るが、フィーナは何とも思ってないと苦笑いを浮かべた。




