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勇者の息子と魔王の娘?  作者: まあ
カインの罠
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第396話

「ジーク、この薬品の調合をお願いします」


「わかりました」


ジークとノエルはリュミナを王都に送ってから数日が経った。

ミレットとともにテッドの診療所を手伝っているのだがミレットはジークより、医療に関しての知識があり、テッドとともに病人やけが人の診療を行い、不足している薬をジークが調合する役割になっている。


「……と言うか、俺、診療所の手伝いだけで良いのかな?」


「ジークくん、考え事をしていると調合に失敗しますよ」


調合を開始しながら、ジークはアリアの資料の解読がまったく進んでいない事もあり、大きく肩を落とすと、テッドがジークの調合を覗き込みながら言う。


「す、すいません」


「慌てなくても良いですよ。ジークくんも色々忙しいでしょうし、それにミレットさんから聞きましたけど、侵入者の警戒もしているみたいですから」


テッドの声にジークは慌てて、調合鍋へと視線を移すと火加減はいつもより強くなっており、ジークは直ぐに火加減の調整を始める。

テッドはそんな彼の様子に苦笑いを浮かべると、隠し財産の件で夜も睡眠時間が十分に取れていないジークの事を気づかうように笑った。


「いや、そんな事は言い訳にならないですから、調合を失敗したら、診療所に来た人達に悪いですし」


「確かにそうですね……でも、最近の診療所は井戸端会議の場所になっていますから」


「それは何か申し訳ありません」


ジークは火加減の調節を終えると言い訳はしないと言い、その様子にテッドは好感を持っているようだが、診療所の待合室に視線を向けて困ったように頭をかく。

待合室には診察を待っている人達にノエルがお茶を配っており、ラミア族の血を引いている者の多いフォルムでは彼女が魔族だとわかるようで年配の女性達がノエルを捕まえて話し込み始めている。

そのため、話がキリの良いところに来るまで診療も止まる事が多く、テッドは緊急性のある患者がいない事もあり、少し手が空いたようである。


「良いんですよ。診療所はケガや病気の時にくるという感じもありますから、気分が沈んでしまう事も多いですし、笑顔が増えるのは良い事です」


「そんなものですかね? ウチの店にも年寄り連中が集まって店の一画を占拠してるけど、邪魔なだけなんですよね」


テッドはジーク達が診療所を手伝ってくれる事で、診療所の雰囲気が良い方向に変わっていると笑うとジークはあまり実感がないようでポリポリと頭をかく。


「ジークくんのお店は良い雰囲気なんでしょうね」


「良い雰囲気と言うか……店として機能してないんですよね。どちらかと言えば日中は店主である俺の居場所がないですから」


テッドは文句を言っているジークの様子に、行った事はないがジオスにあるジークの店の様子が目に浮かんだようで表情を和らげるが、ジークは店として機能しているのかが不安でしかないようで眉間にしわを寄せた。


「それでも人が集まってくるんですから、良いんですよ。本来は健康な人達は疎遠になりがちな場所ですから」


「……まぁ、様子が見れるってのは良い事ですけど、ウチの村も年寄りばかりですから、医者の1人でも村に居れば良いんですけどね。ケガ人はノエルの魔法がありますけど、病気の方は薬が間違ってたらどうして良いかわからないですしね。俺は結局、ばあちゃんの残したもので誤魔化しながら、やりくりしているだけですから」


テッドとミレットの診療している姿にジークは自分の力が足りないと言うのは実感できているようで頭をかく。

その様子に若くても医者のいない村で1人ででも村人の健康管理をしなければいけないと言う重圧を感じているようで困ったように笑う。


「それなら、本格的に勉強してみてはどうですかね? ジークくんは薬の知識で言えばかなりのものを持っています。おばあさんの持っていた知識だけだと言うのなら、その知識の中にジークくんが学んだものを足していけば良いんです。それが合わさり、もっと良い調合薬ができるかも知れませんよ。そうすれば、今は治療薬のない病気や毒も治療する事が出来る薬ができるかも知れないですよ」


「俺が新しい調合薬?」


「今はジークくんはおばあさんの持っていたものしかないと言っています。でも、そのおばあさんは自分で学び、新しい調合薬を作っていたんでしょう。ジークくんにとっておばあさんは尊敬する先生でもあるわけですね。それなら、先生を超えて行ってくれる方がおばあさんも喜んでくれるでしょう」


テッドはジークの言葉に彼の中にある不安を理解しているのか、ジークの進む道を導くように笑った。

その言葉はジークには考えた事もなかったものであり、少し呆けたように言うとアリアはきっとジークの成長を楽しみにしていたんではないかと言う。


「……今よりも先? ばあちゃんを超える?」


「実感が湧いてこないみたいですね」


「それは……正直、言うと実感ないです。俺はばあちゃんが残した資料も読み解けないんで、越えると言われてもよくわかりません」


ジークにとっては祖母のアリアの調合薬は完成されたものであり、それ以上のものを自分が作るというのは想像もつかない物のようである。


「でも、少なくともジークくんはおばあさんの見ていなかった先を見ています。そこにはジークくんが作った種族など関係なく使用できる調合薬は欠かせないものだと思いますよ。人族であろうと魔族であろうと差別する事無く、キズや病気を癒す者。君が目指すべきものはそんなものではないでしょうか? そのためにも少し、おばあさんの資料から離れても良いのではないでしょうか? 見えなかったものが見えてくるかも知れませんよ」


「見えなかったもの? ……この手はなんですか?」


テッドの言葉にジークは首をひねっていると、自分の目の前にテッドの手が出されているのを見つけた。

その手は明らかにフォルムに来る前からジークの悩みの種であるアリアの資料を渡すように言っており、ジークは渡して良いのかわからないようで、少し考えた後に1度確認するように聞く。


「1度、おばあさんから教わった物を捨てて見る事で新しい物が見えてきますよ。試しに1度、やってみてください」


「少し考える時間をください」


ジークは今まで頼りにしていたものであるため、手放すには勇気がいるようで時間が欲しいと苦笑いを浮かべた。


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