第393話
ジークとノエルのお金はいらないという宣言にラングは苦笑いを浮かべると、ジーク達にこの後にメルトハイム家の旧屋敷を確認してくるように指示を出し、書斎での話は終了して解散になった。
旧屋敷にはカインとシュミットが案内に着く事になったのだが、エルトとライオが同行すると言い張ったため、2人の準備に時間がかかると言うので先ほどの休憩に使っていた部屋に戻る。
「ジーク、ノエル」
「何だ!? お前、何するんだよ!?」
「ジークさん、大丈夫ですか!? カインさん、いきなり何をするんですか?」
部屋の中に戻るなり、カインはジークとノエルの名前を呼び、ジークが振り返った時、カインはジークを床に叩きつけた。
ジークは受け身をしそこない息ができないようでかすれた声でカインの突然の行動を非難し、ノエルはジークに駆け寄るとカインにジークを投げ飛ばした理由を求める。
「……お人好しなのは構わないがもう少し状況を考えろ」
「まったくだな」
カインが言っているのは先ほどのラングからの提案を断った件であり、同行していたシュミットはカインの言いたい事がわかるようで眉間にしわを寄せた。
「何がだよ?」
「父上は気分を害する事はなかったが、他の者はわからないと言う事だ。自分からの提案を平民が無下にしたと逆恨みをし、平民など死んでも構わないと嫌がらせをする者は少なくない」
自分が投げつけられた意味がわからないジークはカインを睨みつけると、状況を理解していないジークのためにシュミットはため息を吐きながら彼に説明する。
「逆恨み? ……あぁ、確かに!? 何度も投げ飛ばされてたまるか」
「……納得したなら、言葉を選べ」
ジークはシュミットの言葉に目の前にいる彼を見て納得すると背中を押さえながら立ち上がるが、カインが再度、自分を投げ飛ばそうとしている事に気が付きカインとの距離を取った。
カインはジークの態度にまだ言いたい事があるようで眉間にしわを寄せ、ジークに態度を改めるように言う。
「言葉を選べって、こいつが小者で、自分がやった事の責任を人になすりつけたのは事実だろ」
「……」
「ジ、ジークさん、言葉を選ぶのは大切ですよ。変なところでケンカになるような事をしないでください」
ジークはシュミットにとやかく言われる筋合いをないと彼を指差して言うと、シュミットは気分を害しているのか、彼の眉間にしわは深くなって行く。
シュミットの様子から彼に怒りがたまっている事は明らかであり、ノエルは口が悪いジークの腕をつかみ、彼をいさめる。
「……ジーク=フィリス、ノエリクル=ダークリード」
「何だよ?」
「ジークさん!! シュミット様、申し訳ありません」
「いや、ジーク=フィリスの言っている事も正しい」
2人の様子にシュミットは眉間にしわを寄せたまま、2人の名前を呼ぶとジークはシュミットと和解などしていない事もあり、カインもいる事から一緒に行動する理由もないと言いたげである。
ノエルはここでおかしな騒ぎになってはいけないとジークの代わりに深々と頭を下げて非礼を詫びるがシュミットは首を横に振ると真剣な表情でジークとノエルへと視線を向けた。
「な、何だよ?」
「ルッケルでの件と先日、ワームでは2人には悪い事をした。すまない」
「……これは夢か?」
シュミットの視線にジークは警戒するような視線を向けるが、シュミットの次の行動は彼の予想外のものであり、シュミットは平民とバカにしていたはずの2人に頭を下げて今までの非礼を詫びる。
彼の突然の行動にジークは頭が処理できないようで間の抜けた声で言うがその言葉はかなり失礼なものであり、カインは大きく肩を落とした。
「シュミット様、愚弟がご迷惑をおかけしてしまい。申し訳ありません」
「ちょ、カイン、何をするんだよ」
「シュミット様、わたし達こそ、失礼な事を言ってしまい、申し訳ありません」
カインはジークの隣に並ぶと右手で彼の頭を無理やり下げさせ、ジークとともに自分も頭を下げる。
ジークは意味がわからずに声を上げるがノエルはカインの行動に続き、頭を下げた。
「いや、ジーク=フィリスの言いたい事もわかる。私はそれだけの事をやった」
「……何があったんだ?」
「シュミットも色々と考える事があったって事だろうね」
シュミットは自分が過去に犯してしまった罪を悔やんでいるようであり、ノエルやカインが頭を下げる理由はないと言う。
ジークの中ではシュミットは平民などに頭を下げる人間ではなく、ジークは状況が全く理解できないようで首をかしげた時、平服に着替えたエルトが部屋に顔を出す。
「エルト様」
「悪いね。話が立て込んでいたから、勝手に入らせて貰ったよ」
エルトの登場にノエルは驚きの声を上げるが、エルトはノックはしたようで苦笑いを浮かべている。
「……エルト様、なぜ、着替えられているのですか?」
「いや、これからメルトハイム家の旧屋敷に行くなら、正装は動きにくいからね。ライオも同じだと思うよ」
「あ、あの。やはり、正装のままの方が良かったのではないかと」
シュミットはエルトが着替えている事に大きく肩を落とすがエルトは動きやすさを優先したようであり、笑顔で答えると遠慮がちに平服に着替えたリュミナが部屋の中を覗く。
「リュミナ様まで? エルト様、どう言う事ですか?」
「いづれ住む事になるなら、屋敷の様子も見ておいた方が良いと思ってね。リアーナ達騎士は騎士鎧は準備に時間がかかるから、もう少し待っててくくれるかい?」
「良いと思ってではありません。今は父上の領地になっている場所なのです。王族として立場をわきまえていただけなければ困ります。リュミナ様も正式な発表をされていないとは言え、ハイム王家を担うものとして、そのような事では困ります!!」
シュミットはリュミナまでもが着替え終えている事に意味がわからずにエルトに詰め寄るが、エルトにはエルトの考えがあるようだが、シュミットは王族としての立場を優先して欲しいという考えを持っており、声を荒げる。
「あー、何か、今、凄く親近感を覚えた」
「そ、そうですね」
「シュミット『様』、言うだけ無駄だから諦めたらどうだ。どうせ、言っても聞かないぞ」
エルトに振り回される人間が増えている事にジークは肩を落とし、ノエルは苦笑いを浮かべた。
ジークは1度、大きく肩を落とした後に、彼を少しだけ認めたようでシュミットの名前を呼ぶ。




