第387話
「まぁ、そうなんだけどさ。レギアス様もばあちゃんからの最終試験だって言ってたし」
「納得がいかない感じだね」
ジークはノエルの言っている事ももっともだと思ってはいるものの、カインに振り回されている事が納得できないようで眉間にしわを寄せた。
エルトはそう様子に苦笑いを浮かべるも、カインにはカインの考えもあると思っているようで特に何かを言う事はない。
「そう言うわけでもないんだけどな。何か、流されてる気しかしなくて、ミレットさんの事もあるし」
「ミレット?」
「カインさんから何も聞いていませんか?」
ジークはカインに良いように使われているだけではないかとどうしても考えてしまうようであり、頭をかくとセスの案内でテッドの診療所に行っているミレットの事を思い出してため息を吐いた。
聞きなれない名前にエルトは首をひねるとノエルはカインの事だからすでにエルトに報告済みだと思っていたようで首を傾げる。
「聞いてないね。私も色々と忙しかったから」
「……その忙しかったのは公務を逃げるためじゃないだろうな」
「そ、そんな事はないですよ。そうですよね。エルト様」
エルトは首を横に振るとジークはいつもセスから逃げ回っていたエルトの姿が思い浮かんでしまったようで眉間にしわを寄せた。
ノエルはジークの考えた事も頭をよぎったようで、それを払拭したいようで首を大きく横に振った後、エルトに自分達の考えを否定して欲しいようで彼の名前を呼ぶ。
「セスがいなくなってから、王都だけしか歩きまわれないからね……ジーク、カインから預かっている転移の魔導機器を私に貸してくれないかい?」
「却下だ。それにエルト王子が王都からいなくなるとリュミナ様が危険だろ。周りがどう動くかわからないんだ。エルト王子が抑えにならないといけないだろ」
エルトはノエルの言葉を否定する事無く、そばに転移魔法の使い手がいなくなってしまった事で息抜きをするのが大変なようでジークに転移魔法の魔導機器を貸すように言い、ジークは眉間にしわを寄せるとただでさえ、見知らぬ土地で不安になっているリュミナを気づかえるのはエルトだけのため、大人しくしているように言う。
「確かにそうなんだけどね。まだ、セスを戻すわけにもいかなさそうだし、カインに転移魔法を使える魔術師を紹介して貰おうかな?」
「いや。だから、王都を離れるなよ」
エルトは転移魔法を使える人材が欲しいようだが、ジークはエルトにふらふらと王都から動き回れても困るとため息を吐いた。
「わかってるよ。ジークの言う通りリュミナの事を考えると王都は簡単に開けられないからね。だけど、転移魔法が使える人間がいないとジーク達との連絡も取りにくいからね」
「それは確かにそうなんだけどな。これ以上、エルト王子の被害者を増やすわけにもいかないだろ」
「それは少し酷いね。それで、そのミレットと言うのは誰だい?」
エルトはジークの言い分もわかっているが、連絡不足は困るようで大きく肩を落とす。
ジークはエルトに振り回される人間は増やしたくないようでポリポリと首筋をかき、エルトは苦笑いを浮かべるとミレットの事を聞く。
「……酷く言い難いんだけど、レギアス様に俺達の考えがばれたと言うか、カインがばらした」
「……悪い。ジーク、もう1度、言ってくれるかい?」
「カインがレギアス様にばらした」
ジークはどこから話して良いか、考えたようで一先ずはレギアスとミレットの関係性を話そうと思ったようでカインがレギアスに自分達の考えを伝えた事を告げる。
エルトは予想の斜め上を行くジークの言葉に流石に頭が処理できないのか眉間にしわを寄せた。
「……それは大変な事じゃないのかい?」
「大変な事だよな」
「は、はい。わたしの正体もばれてしまいました」
「そ、そうか。ノエルがドレイクだってばれてしまったか」
エルトは少しの時間、考え込んだ後に大変な状況になっていると確認すると、ジークは頷き、ノエルは申し訳なさそうに言う。
ノエルの言葉に更なる問題を突きつけられたエルトは顔を引きつらせた。
「まぁ、そう言う反応だろうな」
「そうですね。でも、エルト様、大丈夫ですよ。レギアス様もミレットさんも直ぐに何かしようとは思っていないそうですし」
「本当にそう思っているのかい?」
ノエルはエルトに安心して欲しいと言うと、エルトはお人好し過ぎるノエルの言葉をどこまで信じて良いのかわからないようで眉間にしわを寄せて聞き返す。
「今のところ、レギアス様も魔族だろうが人族だろうが争いなく平和に暮らせるなら問題ないって言ってたし、ミレットさんも命は平等だって言ってたしな」
「……ジークもノエルも2人を信じてると言うわけか?」
「そこからじゃないと何も始まらないだろ。それに信じるもの次期王様の仕事じゃなかったのか? カインがレギアス様とミレットさんには話して良いと判断したんだぞ」
ジークは2人とも味方だと言う事を話すが、エルトはまだ見極めるほど情報もないため、乱暴に頭をかいた。
エルトの様子にジークはふと表情を和らげるとエルトの肩を叩いた。
「確かにそうだね。カインが判断したなら問題ないかな? むしろ、相手が誰だろうとカインの事だ。こちらに都合が悪くなったらどんな手段を使ってもどうにかしそうだしね」
「……心底、そうならないで欲しいよ」
エルトはジークの言葉で迷いをふっ切ったのか笑顔を見せて、カインを信じると言うが、その言葉にはジークは不安しか感じないようで眉間にしわを寄せる。
「そんな事にならないようにジークも気を付けてね。レギアスはジークの事を気に入っているようだし、おかしな事になるのは避けたいだろ?」
「まぁな。ミレットさんも良い人そうだし」
2人が裏切りそうになった時の説得はジークが適任だと思ったエルトはジークに任せると言い、ジークはまだ1日しか付き合いがないミレットの顔を思い浮かべて苦笑いを浮かべた。
「ジーク、ノエル、そう言えば、ミレットって誰? さっき、聞きのがしたんだけど」
「……カルディナ様、付いてこられては困ります。私はエルト様の命を受けてライオ様を迎えに上がったのですから」
「カインも少しくらい良いじゃないか? カルディナには私の研究の手伝いもして貰ってるし、ジークとノエルさんがきてるなら、ちょうど、情報も伝えたいしね」
エルトは少し余裕が出てきたようでミレットが何者か改めて聞いた時、ドアが開き、ライオと腕にカルディナを付け、疲れた様子のカインが部屋に入ってくる。