第386話
「……納得がいかない」
「定期的にお掃除はしに戻らないといけなかったんですし、良いじゃないですか?」
カインの転移魔法で王城へと着いたジーク達だが、ジークとノエルは立場上、国王への謁見は控えた方が良いとカインは判断した。
エルトの指示で2人には1室が用意されているのだが、ジークはカインの考え通りに進みリュミナの安全が確保されそうな事は喜ばしいのだが無駄な掃除をする事になったのが未だに納得できないようで高級そうなソファーに腰を下ろし、ぶつぶつと文句を言っており、そんなジークの姿にノエルは苦笑いを浮かべる。
「それはそうなんだけどな……」
「ジークは細かいね」
「エルト様? リュミナ様の事はどうなりました?」
その時、正装に着替えたエルトが部屋に顔を出し、納得いかなさそうな表情をしているジークの姿に苦笑いを浮かべる。
エルトが部屋を訪れた事にノエルはリュミナの扱いがどのようになるか気になるようで慌てて聞く。
「まだだよ。父上も叔父上も忙しい方達だからね。まだ時間がかかる。事が事だけにリュミナ様や彼女に使える騎士達にも正装に着替えて貰わなければいけないしね。今、仕立て屋の職人に急いで準備をして貰っている」
「そ、そうですか」
「流石にいきなりすぎるからな」
エルトからの火急の用途は言え、まだ王への謁見は認められておらず、エルトは小さくため息を吐くとソファーに腰をかける。
ノエルは残念そうに肩を落とすとジークは頭をかく。
「後は一応、ライオやシュミットにも王城に戻ってくるように使いを出しているところだよ」
「あの小者も話に混じるのか? 大丈夫か?」
準備に時間がかかる事もあり、エルトの指示でライオやシュミットも王城に戻しているようであるが、ジークはシュミットに未だ良い印象がないようで眉間にしわを寄せた。
「そう言わないでくれるかい。王都に戻ってからシュミットは頑張ってるし、会えば印象も変わるよ」
「印象が変わる? ……それはないな」
「まぁ、時間があったら会ってよ」
「時間があったらな」
エルトの様子からシュミットの成長は著しいようだが、彼に対して悪印象しか持っていない直ぐに否定する。
その様子にエルトは苦笑いを浮かべ、ジークは会う気などはないようだが適当に返事をする。
「シュミットも頑張ってるんだけどね」
「そう言うならそっちの調べ物の方は進んでるのか?」
「そ、そうです。アンリ様の体調はその後、どうなっていますか? 悪化していませんか?」
ジークはシュミットの話はもう充分だと言いたげにため息を吐いた後、エルトに頼んでいる祖母アリアの過去について何かわかったかと聞く。
ノエルは元々、アンリの体調不良の原因の事について情報交換をするべきだと思ったようでジークの言葉に続いた。
「それがね。アリアさんの事はまったくわからないんだよ。父上と叔父上は何か知ってそうだけどその事になると口をつぐんでしまってさ。当時、魔術学園にいた人達も高齢だしね。知っていてもボケたふりをするから、レギアスの事もあるし、もしかしたら父上が私達に話さないようにと指示を出しているかも知れないね」
「……そこまで隠したがるような何かがあったのかよ?」
アリアの事は国王自らが情報漏えいしないように指示を出しているようであり、エルトはお手上げだと言いたいのか両手を高く上げる。
その様子にジークは自分の祖母であるアリアの事を何1つ知らない自分へのもどかしさがあるのか乱暴に頭をかいた。
「わからない」
「で、でも、アンリ様を助ける事が出来るかも知れない手掛かりなのにどうして、王様は協力してくれないんでしょうか?」
「それでも隠さないといけない何かがばあちゃんが王都にいた時にあったか……単純に何もなくて言う事がなかったか?」
首を横に振るエルトの姿にノエルはアンリの事を考えると納得がいかないようで目を伏せる。
ジークは見方を変えようと思ったのか、アリアが何も目立つような事をしていなかった可能性はないかと言う。
「ないね」
「ないだろうな。何かあったからレギアス様は口をつぐんでるわけだし、そうなるとエルト王子の方は手詰まりか?」
ジークは口には出して見たものの何もないと言うのは周囲の様子からもあり得ず、ジークとエルトは眉間にしわを寄せた。
「そうだね。残念ながら、諦める気はないけど、私とシュミットの方は手詰まりだよ。ライオの方は最近は学園の方に入り浸ってジークの調合薬の魔力分析をしてくれてるけど、私には魔法の事はわからないからね」
「そうか? ライオ王子は後でくるんだよな。それなら、その時にどうなってるか聞くか? ……まぁ、難しい事はわからないけど」
エルトは悔しそうな表情をしているが諦める気などないようでその瞳には強い光が宿っている。
その様子にジークは安心したようで表情を和らげるも自分達もあまり進んでいない事もあるのかエルトから視線を逸らした。
「それで、ジーク達の方はどうなってるんだい? 何かわかったかい?」
「それがまったく、と言うか、カインに仕事を押し付けられたり、何か色々とありすぎて良くわからなくなってる」
エルトはジークにアリアの資料を読み解けたかと聞くがジークは何も進んでいない事を申し訳なく思っているようで大きく肩を落とす。
「確かに色々、あるみたいだけど頼むよ。アリアの体調を回復させるにはジークが治療薬を作ってくれるのが1番なんだから」
「それはわかってるんだけどな。カインは自分ならばあちゃんが資料を残した意味を教えられるって言ってたわりには何かをしてくれるってわけでもないし」
「そうですね。領主の仕事が忙しいですから、自分達でできる事からやって行きましょう」
エルトはジークに頑張ってアンリの治療方法を見つけて欲しいと言うとジークはカインが何も教えてくれない事に不満なのか大きなため息を吐いた。
ノエルは冗談を言いながらも忙しいカインの様子も見ているせいか、自主的にアリアの資料を読み解こうとジークを応援する。