第385話
「それって、問題大有りじゃないですか!?」
「カイン、お前はどうして、鎮まったものを再燃させようとするんだ?」
ノエルは驚きの声を上げ、ジークは継承問題を落ち着かせるように企んだカイン本人が、今度は逆の行動を始めた事に眉間にしわを寄せる。
「別に再燃させるつもりもないんだけどね。ただ、リュミナ様の保護をするには今の段階じゃこれが1番良いんだよ。騎士の中にも自分の私利私欲で動く者達が増えてきている中、ファクト家やオズフィム家を代表に王家の血に忠誠を誓う騎士も多いしね」
「だとしても」
カインはリュミナの命を第1に考えており、騎士隊を動かすのには必要な事だと言う。
その言葉にジークは頭が処理しきれないようだが、やはり不安が多いようでエルトへと視線を向けた。
「……政治的にも野心を持っている者達がリュミナ様に近づく可能性が高いね。私やライオ、他の後継者を廃し、新な王位継承者を推す事で自分達の立場を高くしようと思う者達は必ず出てくる」
「はい。しかし、その分、自分達に都合の良いコマを守ろうとリュミナ様の警護には協力的な者も現れます。だからこそ、エルト様がリュミナ様を保護する必要があります」
「私とエルト様の関係が有効的なものであると広めるためですね」
野心のある騎士や貴族達が暗躍する可能性があるため、エルトは眉間にしわを寄せて考え込んでいる。
その様子にカインは時間を空ける事無く、決断を迫った時、カインの考えをリュミナ自身が読み取ったようで小さく頷いた。
「はい。エルト様とリュミナ様が繋がっている事に意味があります。人が多く集まる中ではどれだけ場を整えていても各人の思惑が出てきます。純粋に騎士としての使命を全うしようとする者、自分達の権威を高めるために邪魔な者を消してしまおうとする者もいます。国王やラース様はリュミナ様を排除しようとは考えないと思いますが、リュミナ様を他の場所で匿っている事を他の権力者達が嗅ぎつけてはそうはいきません」
「……リュミナ様を傀儡にしようとする者も消そうと考える者も現れるかも知れませんからね」
カインは何をするにしても完全な意思統一はできないと割り切っており、そのために多くの考えのある者同士でお互いをけん制させようとしているように見える。
その中でもリュミナが生きて行くために最も厄介な考えに行きつくであろう者達を彼女から離そうとしており、リアーナはカインの考えが理解できたようで眉間にしわを浮かべながら頷く。
「それならばエルト様の保護下でメルトハイム家を復興させると広めた方がエルト様主導でリュミナ様の警護の人員を決める事が出来ます。それにリュミナ様の居所をザガードからの追手がつかんだ時に王家の血に連なる者を殺されてしまってはハイム王国の沽券に関わります。そうなると警護に手を抜くわけにはいきませんから」
「私が主導になればリアーナ達も引き続き、リュミナ様に仕えて貰う事もできるね。私以外ではリアーナ達はリュミナ様の護衛から外されてしまうかも知れない」
リュミナにメルトハイム家を継がせる事でザガードとも問題は生じるが、カインはそのような事より、見知らぬ地で生活することになるリュミナの事を気づかい、彼女を守るために祖国を捨てたリアーナ達騎士をそばに仕えさせたいと言う。
エルトはカインの考えが理解できたようであり、リアーナ達騎士の顔を見渡すとおおむねカインの意見に賛成できたようで小さく表情を緩ませた。
「わかった。メルトハイム家の復興とリュミナ様の保護は私が責任を持って受け持とう。まぁ、色々と手配するのはシュミットだけどね」
「……おい。あの小者に任せて大丈夫かよ?」
「大丈夫。大丈夫。それにザガードの王位継承問題はまだ決着がついていないんだろうし、ザガードにもリュミナ様がハイムに身を寄せている事がわかれば安心してくれる人もいるだろうしね」
ジークはシュミットにリュミナの事を任せるのは不安しか感じないようで眉間にしわを寄せる。
エルトはリュミナにザガードにも彼女慕う者達がまだいると彼女を励ますように笑う。
「はい。そう思いたいです」
「……カイン、ザガードの内情ってわからないのか?」
エルトの言葉にリュミナは自分の事を心配してくれている人間がいると言う事で気丈に振る舞っていた彼女の緊張の糸が緩んでしまったようで彼女の頬には大粒の涙が伝って行く。
その様子にジークはリュミナの事が不憫に思えてきたようでカインを肘で突き、ザガードにリュミナの事を心配している人間の有無を尋ねる。
「ハイムからもザガードに数名紛れ込ませてはいるだろうけど、全部を知るのは無理だね。フォルムは知っての通り、国境近くだからザガードから流れてくる冒険者も多いから、その冒険者達から情報を買うくらいだね。後はジークが行って調べるって方法もあるよ。俺も領主じゃ無ければ動きまわれたけど、今はそう言うわけにもいかないしね」
「そうか……潜入は論外だな」
「ジークさん」
カインはジークに調査したいなら自分で行けと言うが、ジークは危ない橋は渡れないと判断したようでポリポリと頭をかく。
ノエルはジークの様子にリュミナのために力になりたいと目で訴えかけ始めるが、ジークは危険な事に首を突っ込めないと思ったようでノエルから視線を逸らす。
「ジークさん」
「ノエル、ストップ。ジークにもノエルにも他にやる事があるから」
ノエルはもう1度、ジークの名前を呼ぶと、2人の様子にカインは苦笑いを浮かべて彼女を静止する。
「ですけど」
「それにリュミナ様がメルトハイム家を継ぐとしばらくは騒がしくなると思うから、国境を越えるチェックを厳しくなると思うしね。しばらくは様子を見ないといけないよ」
納得ができていないようでノエルは頬を膨らませており、カインは現状でのザガードへの入国で何かあっても困るため、様子を見て欲しいと言う。
「それじゃあ、カイン、リュミナ様達を連れて王都に帰るよ」
「はい」
「……待て。それなら、どうして、俺はここを掃除させられたんだ」
エルトはリュミナの涙にどうして良いのか戸惑いながらも、早くリュミナ達の身柄を王都に移動したいようでカインに指示を出す。
カインはその言葉に頷くが、わずかな滞在期間のために無駄な掃除をさせられたジークは納得いかないようで眉間にしわを寄せる。




