第384話
「悪かったよ。取りあえず、1つ荷が下りた事は確かだな」
「そうですね」
リュミナの保護はジークに取っては大問題であり、それ以外にも抱えている問題があるため苦笑いを浮かべるとノエルは大きく頷いた。
「……俺達が下した荷はきっとリアーナが担がされるだろうし」
「そ、そうですね」
「ジークもノエルも酷いね。どうして、私を疑うかな?」
ジークは王都でリュミナやリアーナ達が過ごすと考えた時に気真面目なリアーナがエルトに振り回される姿が頭をよぎったようで眉間にしわを寄せる。
その言葉にノエルも同じ事を思ったようで顔を引きつらせると、2人の表情に不満があるのかエルトは小さく肩を落とした。
「疑われるような事をしてるからだろ。それで、どうするんだ? 保護するって決めたのは良いとしても住む場所はどうするんだ? 王女様だぞ」
「そうだね。いくら身を隠すためとは言え、ここには置いておけないよね」
「悪かったな。貧乏人で、どうせ、俺は片田舎の薬屋だよ」
ジークは何度もエルトに振り回された事もあり、ため息を吐いた後にリュミナを移動する場所に当てがあるのかと聞く。
エルトはその言葉に仕返しなのか、ジークをからかうとジークはムッとしたのか不機嫌そうな表情になる。
「エルト様、ジークさん、話を戻しましょうよ。エルト様、リュミナ様の住む場所は用意できるんですか?」
「そうだね。カインの屋敷にしばらく住んで貰って改めて、屋敷を用意するとか?」
「……確かに、俺の店より、カインの王都の屋敷の方が場所的に良いよな」
エルトは保護を約束はしたものの、リュミナ達を住まわせるのに適当な屋敷に心当たりがないようで首をひねると一先ずはカインの屋敷に住まわせると言う。
その言葉にジークはリュミナの事を考えるとジオスのような田舎より、王都にあるカインの屋敷の方が合ってると思ったようであり、無駄な掃除をさせられたような気がしたようで眉間にしわを寄せるとカインを睨みつける。
「……王都はザガードや他の国からも調査員が入っている可能性が高いから、逆に危ないんだよ」
「そうなのか?」
「……確かにそれも考えられるね。カインの屋敷は貴族達が住んでいる場所よりは離れているし、騎士隊や自警団の見回りから外れている。そうなると場所は限られてくるね」
カインはしっかりと考えてジオスを選んできたようであり、眉間にしわを寄せると王都の情勢に詳しくないジークは首を傾げた。
エルトはそこで初めて気が付いたようであり、警護もしっかりしている場所を探さないといけないと首をひねる。
「リュミナ様は私達がお守りします」
「そう言うわけにはいかない。どれだけの人数が王都の中に紛れ込んでいるかはわからないんだ。流石に騎士4人で守りきれるとは限らない。カイン、お前の事だ。すでにいくつか場所にも心当たりがあるんだろう?」
エルトの協力は嬉しくは思っているものの、王子であるエルトが協力すると言う事に何か裏があると思っているのか騎士達を代表してリアーナが答える。
エルトは彼女達の言いたい事も理解できるが、警護の事を考えると不安が残るため、首を横に振った後、カインの考えを聞く。
「はい。その前に1つだけ、リュミナ様は家名にこだわりはありますか? 昨日の話では表に出る事は望まないと言われました」
「はい。私は争いは望みません。それに私のせいでリアーナ達に危険が及ぶ事は避けたいのです」
カインの言葉はリュミナにザガードの王族と言う立場を捨てる事はできるかと確認する。
その言葉に騎士達はやはりリュミナの復帰を望んでいるようでカインへと敵意を無化始めるが、リュミナは手で騎士達を静止し、カインの指示に従うと言う。
「わかりました……エルト様、私はリュミナ様に『メルトハイム家』を継いでいただきたく思います」
「……メルトハイムですか?」
カインはリュミナの意思を感じ取り、彼女の意思に敬意を払ったのか1度、頭を下げた後、エルトに1つの提案をする。
その名にエルトだけではなく、リュミナと騎士達までが驚きの声を上げた。
「メルトハイム家? ジークさん、知ってますか?」
「俺が知るわけないだろ」
カインが口にした『メルトハイム』の名に心当たりのないノエルはジークの服を引っ張り聞くが、ジークにもまったく心当たりなどなく首を振る。
「確かにザガード王家の血を引くリュミナ様になら充分に資格があると思う。しかし……」
「カイン、そのメルトハイム家って何なんだ?」
エルトは状況を整理しようとしているのか目を閉じ考え込み始めると、状況について行けないジークはカインに説明を求める。
「メルトハイム家は後継者を失い断絶された名家です。そして……」
「本来、このハイムを受け継ぐはずだった家名だ」
ジークの質問にリュミナが口を開き、その後に目を閉じたままのエルトが続く。
「どう言う事だ?」
「私の祖父の兄であり、正当な継承者であるメルトハイムの血を引く方は身体が弱く王を継ぐ事はできなかったんだよ。私が知る限り、若くしてなくなったと聞いているそれこそ、私より少し長く行きたくらいだ」
メルトハイムは正当なハイムの継承者に与えられるものだったようだが、その名を継ぐ者は病弱であったため早くに亡くなってしまったと言う。
「それがザガードと何が関係あるんだ? リュミナ様がその名を継ぐって言うのはどう言う事だ?」
「えーと、私の祖父の父親、曾祖父には妹がいたんだ。その方がザガード家に嫁いでいるんだよ。一時的な同盟を結ぶためにね」
「簡単に言えば、リュミナ様にはハイムの王族の血が流れているって事」
ハイムとザガードの間には血縁関係があったようであり、カインはそれがわかった上でリュミナにハイムの王族になるように言っている。
「なぁ、それっていろいろ問題が出てこないのか? そのメルトハイム家ってのを復活させると王位継承権に変化があるとかないのか?」
「あるでしょうね」
ジークは単純に王族が増えてしまう事で、落ち着いてきた継承者問題が再燃するのではないかと言うとリアーナは突拍子のない事を聞かされた事もあり、顔を引きつらせている。