第383話
「実はもの凄い場所に立ち会ってるんじゃないか? 俺みたいな平民が居て良いのか?」
「……そうですね。まさか、こんな事になるとは思っていませんでした」
食事の準備を終えたジークは片田舎であるジオスの小さな薬屋の中にこの地を治める国の王子であるエルトと隣国の王女リュミナが同席している光景に小さく肩を落とした。
その言葉に騎士としての使命を果たそうとしているのか、エルトが何かを仕掛けてきた時にリュミナを命がけで守ろうと気を張っているリアーナが頷く。
「リアーナ、そんなに警戒しなくても良いよ。一先ずは食事をしながら話を進めよう」
「……しかし」
「カイン、良いよ。話の途中でその警戒を解いて貰うように私も頑張るから、さぁ、食事にしようか、せっかく、ジークがご飯を作ってくれたんだ。温かいうちに食べなければ失礼だしね」
エルトがリュミナの正体を知っても、彼女を命の危険にさらすような事はしないとカインはリアーナの警戒を緩めるように言うが、リアーナの警戒は緩む事はない。
エルトは実直なリアーナの様子に好感を持っているのか責めるような事はなく、食事を始めようと笑う。
「作ったと言うか、作らされたと言うか。状況が状況だから、微妙に納得がいかないけどな」
「ジーク、文句を言わない」
「わかってる。毒を持ってないか、心配する理由もわかるからな」
エルトの言葉にジークは文句がありそうな口調で言うと、カインは場が場なだけに彼の態度を改めるように言う。
ジークが料理をしている最中は時折、リュミナの護衛をしている騎士が調理風景を覗いていたようであり、ジークは状況は理解できていると苦笑いを浮かべた。
「それでは、私、カイン=クロークが状況の説明をさせていただきます」
食事が始まり、しばらくするとエルトも長い時間、王都を空けるわけにもいかないため、カインが本題に移る事を告げ、頭を下げる。
その一言にエルトは頷き、リュミナは1度、リアーナに視線を移した後にカインに従うと決めた事もあるため遅れて頷く。
「まずは遅れはしましたが、我が主君を紹介させていただきます。エルト=グランハイム様です」
「お初にお目にかかります。エルト=グランハイムです」
「リュミナ=ザガードです。まさか、ハイムの第1王子がお会いになってくれるとは思っていませんでした」
カインはエルトの名前を告げると、予想以上の大物が出てきた事に彼の正体を聞かされていたリアーナ以外の騎士はざわめき立つが、リュミナはエルトから視線を逸らす事無く、しっかりとエルトを見据えて挨拶をする。
「リュミナ=ザガード様ですか? まさか隣国の第3王女とは、これはずいぶんと大物が登場した物だね」
「……2人とも大物って事で良いのか? 今は落ち着いているとは言え、国境近くで戦争してるんだろ」
「そ、そうですね」
エルトはリュミナの名を聞き、少しだけ驚いたような表情をするが、直ぐにまるで何事もなかったかのようにくすりと笑う。
2人の様子にエルトとリュミナの様子にジークはそう言うしかないのかため息を吐いた後に一般人の自分が立ち入る話でもないと思っている事もあり、食事を口に運び、ノエルは苦笑いを浮かべている。
「カイン、詳しい話を頼むよ。リュミナ様のような方が訪れたんだ。大変な事なんだろうね」
「はい」
エルトはリュミナ達がジオスにいる説明をカインに求めるとカインは頷き、昨晩、リュミナ達が国を追われた事と保護を求めている事を話す。
「……後継者争いで命の危険を感じて国外へと逃亡? どこの国も一緒だね」
「それでも、ウチは落ち着いてるだろ」
エルトはリュミナの事情を理解したのか、ルッケルでの事件の事を思い出したのか少しだけ困ったように笑う。
エルトとライオの関係が良好な事や、先日からシュミットとも上手くやっている事もあり、ザガードと一緒にするなとジークはため息を吐いた。
「そうだね。ジークやノエルのおかげかな?」
「そんな事はないです。エルト様が頑張ったからです。ライオ様の事もシュミット様の事も信じ通したからです」
「ノエルは恥ずかしい事をいつも素で言ってくれるね」
エルトはジークやノエルが協力してくれたおかげで自分達は上手く行ってると答えるが、ノエルはエルトがライオやシュミットを信じ続けたからだと言う。
彼女の言葉にエルトは少しだけ気恥ずかしくなったのか頭をかく。
「で、エルト王子、どうするんだ? 事が事だけにラース様や王様にも相談しないといけないよな」
「うーん。そうだね。私の一存で直ぐに答えるのは難しいと言いたいんだけどね。カインは責任持って私が保護しろと言うんだろうね」
ジークはエルト1人で判断できる事でもないと思っているようであり、エルトにリュミナの保護を国王や王弟ラースに頼めないかと聞く。
エルトはラースからも信頼が厚いはずのカインがラースではなく、自分に話を持ってきた事に意味があると思っているようで首をひねると考え込むように目を閉じる。
「はい」
「カインは意地が悪いからね。ただ……私はカイン=クロークを信頼している。カインが私にリュミナ様を保護しろと言うなら、私はそれに従おう」
「良いのですか? 私が言うのもおかしいのですが、私を保護する事でエルト様の不利益になるかも知れませんよ。そんな簡単に頷いてよろしいのですか?」
カインは悩むエルトの姿に彼の成長を喜ばしく思っているようで表情を和らげると、エルトは決断したのか目を開き、カインと1度、視線を合わせた後にリュミナの保護を約束した。
その言葉にリュミナ自身は驚いたようであり、慌てて聞き返す。
「不利益? その時はその時でしょう。それに私に何かあっても、私には支えてくれる優秀な臣下と友人達がいますから、何より、私が知っているカイン=クロークはできない人間にできないことを押し付けない」
「そうか?」
「ジークさん、今は真面目な話をしているんですから、茶々を入れたらダメです」
エルトはリュミナの言葉に問題などないと笑い飛ばす。
その言葉で彼がカインの事を信頼している事がわかる。
ジークは自分にはカインがいつも無理難題を押し付けてくる事もあるため、エルトの言葉が納得いかないようで首をひねるが、ノエルは今言う事ではないと彼を止める。