第382話
カインとリアーナが王都に出かけた後、リュミナの不器用さに戦力外通知が出された。
元々、薬品を取り扱っていた場所で掃除は行き届いていた事もあり、リュミナが抜けた事で掃除は順調に進んで行く。
「みなさん、休憩にしませんか?」
掃除もキリの良いところまで進んできた事もあり、なれない掃除と言った作業に奮闘している騎士達の事を労い、ノエルは温かなお茶を淹れて休憩を提案する。
掃除を通してか、若干だが、ジークとノエル、騎士達の距離は縮まっているのか、騎士達はノエルに礼を言い、お茶を飲んで一息つく。
「ジークさんもどうぞ」
「あぁ、ありがとう。ノエル、このお茶菓子はどこから、持ってきたんだ? ……上手い、これはノエルが作ったのか?」
ジークはノエルからお茶を受け取るとテーブルの上にお茶菓子が乗っている事に気づく。
お茶菓子など食糧は腐らせても行けないため、フォルムに行く時に全て運んでおり、食糧らしき物は残していなかった。
そのため、お茶菓子が出てきた事に首を傾げてお茶菓子を手に取り口へと運ぶ。口の中には程よい甘さが広がり、ジークは気に入ったようでノエルにお茶菓子の事を聞く。
「いえ、朝、わたしとジークさんがリュミナ様達を連れてジオスに戻ると言う話になった時、ミレット様が直ぐに作ってくれました」
「……あの人、動くのが早いよな。俺がキッチン開けてから少しの間で作ったのかよ?」
お茶菓子はミレットのお手製であり、ジークは自分の知らぬ間に動き出しているミレットの行動力に眉間にしわを寄せた。
「はい。カインさんがもう1人いるみたいです」
「その評価はきっと嬉しくないと思うぞ。なぁ、ノエル、今更だけど、カインは会えたと思うか?」
ノエルもミレットの行動力や考えはカインに通じるものがあると思っているようで苦笑いを浮かべると、ジークはもう1つお茶菓子を口に運んだ後に、王都に行った2人が無事にエルトに会えたかと聞く。
「カインさんが面会を求めれば、エルト様は会ってくれるとは思いますけど……」
「ノエルも同じ事を考えているか?」
「はい。きっと、ジークさんと同じ事を考えています。大丈夫ですかね?」
ジークとノエルはカインと久しぶりの再会を果たしたエルトの次の行動は1つしかないと思っているようで顔を見合わせてため息を吐いた。
「大丈夫だとは思うけど、セスさんもいなくなったから、えーと、あの小者の名前は」
「シュミット様です」
「セスさんの代わりにシュミットが大変な仕事を押し付けられてる気がするな」
「ノエル、私の分のお茶も用意してくれるかい?」
ジークはまたシュミットの名前を忘れており、ノエルは少しだけ責めるような視線を向ける。
ジークはその視線に誤魔化すように視線を逸らした時、勢いよく、店のドアが開き、エルトと紙袋を手にしたカインが顔を覗かせ、2人の後ろには状況が全く理解できないリアーナは顔を引きつらせている。
「……まぁ、何となく、来るような予感はあったんだけど」
「そ、そうですね」
「いや、そう言ってくれるとありがたいね。流石、持つべきもの同じ志を持つ同志だね。あれ? このお茶菓子は見た事ないね。ジークかノエルのお手製? 美味しいね。ノエル、このお茶菓子に合うお茶を早急に頼むよ」
エルトの登場を予期していたジークとノエルは大きく肩を落とすが、エルトの事を知らない騎士達はリュミナを守るように移動している。
そんな事など気にする事無く、エルトはテーブルにあるお茶菓子に手を伸ばして頬張ると素直な感想を言う。
「は、はい。すぐに用意してきますね」
「……なぁ、カイン、今更だけど、エルト王子に状況の説明してきたのか?」
「してこれたと思うかい?」
「無理だな」
ノエルは3人分のお茶を用意しにキッチンに移動し、ジークはエルトのいつもと変わらない様子に頭が痛くなってきたようであり、1度、状況を理解しようとしたのか、エルトが全てを聞いた上でジオスに来たのかと聞く。
カインは質問に答える事無く、ジークに意見を求めるとジークの中で自己完結してしまったようで大きく肩を落とした。
「あ、あの。どうして、そんなに冷静なのですか?」
「いや、何かもうなれたんで」
リアーナは目の前にいるエルトがハイムの第1王位継承者である事にどう対処して良いのかわからないようで顔を引きつらせたままであり、ジークに聞く。
ジークは最初は自分も戸惑っていた事を思い出したようであるが、既に何かを言うだけ無駄だとも思っているようで返事はどこか投げやりである。
「とりあえず、話はノエルがお茶を淹れてきてからだな」
「そうだね。しかし、片付いたようだけど、使えるようになったのかい?」
ジークは何度も説明するよりは1度で終わらせたいため、ノエル待ちだと言うとお茶を一口飲む。
カインは苦笑いを浮かべると、自分が王都に行く前の荒れた様子の店の中が、しっかりと片づけられている事に驚いたようで何があったかと聞く。
「単純に戦力外だって言ったまでだ」
「ジークの事だ。はっきりと言ったんだろうね。後、ジーク、これ」
ジークは特に隠す必要もないため、事実を伝えたまでだと言うとその様子にカインはその時の光景が目に浮かんだようで苦笑いを浮かべて、手に持っていた紙袋をジークに
手渡す。
「これはなんだ?」
「人数が増えたし、お昼も近いから、昼食の材料。と言うか、察しがついているんだから、無駄な時間を取らせない」
ジークは紙袋の中身が何か察しが付きながらも面倒事は避けたいためかとぼけようとするが、カインはジークの考えている事に察しが付いており、ジークの背中を押す。
「……やれば良いんだろ。お茶は直ぐ出てくるかも知れないけど、飯の準備となると時間かかるぞ。と言うか、王都まで行ったなら、材料じゃなく、直ぐに食える物を買って来い」
「いや、フォルムも領地経営で結構、お金使うから、削減できるところは削減しないと、それに」
「私がジークのご飯を食べたいと言ったんだよ。やっぱり、大勢でご飯を食べるんだ。温かいものじゃないとね」
「やれば良いんだろ」
ジークは眉間にしわを寄せるとエルトたっての希望のようであり、ジークはエルトはどうでも良いがリュミナの事もあるため、文句を言いながらもキッチンに移動して行く。
「ジークは相変わらずだね」
「たぶん、ジークも同じ事を思っていると思いますよ」
文句を言いながらもしっかりと頼みを聞いてくれるジークの様子にエルトは小さく表情を緩ませ、カインはその言葉に小さく頷く。




