第381話
「……ジーク、この惨劇は何?」
「あー、簡単に言えば、フィーナより向いてない」
カインがジークの店に戻ってくると店の中は彼が留守にしていた間に酷く荒れており、予想していなかった襲撃にあったのかと眉間を鋭くする。
ジークは少しだけ気まずそうにカインから視線を逸らすと雑巾を手に奮闘しているリュミナを指差して言う。
「……まぁ、お姫様だからね」
「いや、最初はそう思ったんだけど、きっと、天性の才能のなさだ。フォルムに荷物を運んでて本当に良かった」
カインはジークが指差したリュミナへと視線を移すと、リュミナは水の入った桶をひっくり返し、ノエルとリアーナは慌ててその処理を手伝っている。
その様子にカインは眉間にしわを寄せ、ジークは空に近い薬品棚に視線を向けて力なく笑う。
「それで、カイン、おじさん達はなんて言ってた?」
「……早く孫の顔がみたいって言ってた」
ジークはエルトに話を通すまでのジオスの生活に援助して貰えたのかと聞いたのだが、領主と言う責任ある立場になったカインには違う問題が舞い降りてきたようであり、ジークから視線を逸らし、大きく肩を落とした。
「それもある種の問題だけど、今はそれじゃない」
「……」
「視線を逸らすな。まさか、本題を伝えてこなかったんじゃないだろうな?」
ジークはカインとセスの様子を見ているため、早くまとまれとは思いながらも今の問題はリュミナの事であり、本題について聞くが、カインは彼にしては珍しくジークから視線を逸らしたままである。
その様子にジークは1つの答えが頭をよぎったようで、カインを睨みつけた。
「……仕方ないんだ。ジークはノエルと同棲をしてるから、フィーナが宙ぶらりんになったせいで、矛先がこっちに向かってきたんだ。ジークの勉強のためにコーラッドさんに空き部屋を貸してた事も悪い方向に作用しているみたいで、あそこにいるとコーラッドさんの事を凄い勢いで薦めてくるんだ」
「だからと言って、どうするんだよ? 流石におじさん達のフォローもなしじゃ、きつくないか? ……シルドさんの店には言ってきたんだよな?」
「……店は混んでて忙しそうだったよ」
カインとフィーナの両親はジークとフィーナがまとまる事を強く望んでいたようで、ジークとノエルが上手くまとまった事で、フィーナには期待できないと判断したのか、その矛先をカインとセスに向けたようで、カインは両親の勢いを思い出したようで大きく肩を落とす。
ジークは自分にも責任の何割かがあると思ったようだがリュミナ達の問題もあるため、どうにかしないといけないと思ったようで、村の中では顔の広いシルドの方に付いても聞くが、カインは力なく笑っている。
「……今のたまり場がシルドさんの店だから仕方ないか?」
「あぁ、ちょっと、昔のジークの気持ちがわかった。何で、ジオスでは俺とコーラッドさんが婚約している事になっているんだ?」
カインの様子から、シルドの店では村の年寄り連中に捕まったのが明らかであり、ジークは眉間にしわを寄せる。
カインは上手くまとまる前に自分がジークとノエルをからかっていた事を反省しているようだが、村の中では予想以上にカインとセスの中が進展しており、意味がわからないと首を横に振った。
「それはきっとエルト王子のせいだと思うぞ。息抜きでジオスに来てた時、年寄り連中に色々と吹き込んでたから」
「用事があっても村に帰って来づらいな」
「と言うか、ある意味、そこら辺をはっきりした方が早いんじゃないのか?」
ジークは村人達がカインとセスの事で盛り上がっている原因をエルトだと決めつけており、店でノエルの淹れたお茶を村の年寄りと飲みながら世間話をしていたエルトの姿を思い出してため息を吐く。
カインは村に居心地の悪さを感じたようで頭をかくと、ジークは実際問題ではカインがセスの事をどう考えているか気になったようでカインに聞く。
「それは今は良いよ。もうお腹いっぱいだ」
「それもそうだな。だけど、どうするんだ?」
カインはこれ以上はその話は聞きたくないようであり、げんなりとした様子で大きく肩を落とす。
ジークは普段、あまり見る事のないカインの様子に苦笑いを浮かべるが、誰にも協力を仰がずにリュミナをかくまい続ける事はできないため、困ってしまったようで頭をかく。
「とりあえず、エルト様に面会を求めてくるよ。時間があればそのまま話し合いもしてくる」
「それが1番速いな……しかし、今は転移魔法が使える人間もそばにいないから、まともに公務をしているだろうから、反動が怖いな」
カインはやはりエルトにリュミナの保護を頼もうと思っていたようであり、頭をかく。
その言葉にジークは手っ取り早い方法だと思ったようで特に反対する意思は見せないのだが、どうもしばらく会っていないエルトがカインと会う事でどんな暴走をするか心配なのか両手を胸の前で組み、首をひねっている。
「後はあの小者がどう動いているかだね。おかしな事を考えてなければ良いけど」
「エルト王子のそばに仕えているから、このチャンスを逃さないで、サクッと行くとか言う気か?」
「いや、そこまでの気概はないと思うけどね。と言うか、そこまで、表だって行動できるなら、もう少し評価をあげるよ」
ジークはセスがジオスに来てからはエルトの近況もわからないため、シュミットが再び、エルトの命を狙ってないかと言いたいのか、手でナイフを刺す仕草を真似する。
カインは彼なりにシュミットの性格を分析しているようであり、そんな大それたことはできないと首を横に振った。
「どんな評価だよ?」
「まぁ、気にしない。リアーナ、急で悪いんだけど、付いてきてくれるかな? 目的の人に予定を確認してくるんだけど、もし、今日、都合が良ければそのまま、リアーナに面会もして貰おうと思うから」
「は、はい。わかりました」
カインは王都に行くため、リアーナに声をかけるが彼女はリュミナの掃除の失敗に振り回されており、既に憔悴しきっている。
「やっぱり、明日以降にする?」
「いえ、大丈夫です。しかし」
「面会になったら、着替えはどうにかするよ。それではリュミナ様、しばらくの間、リアーナをお借りします」
カインはリアーナの様子に困ったように笑うが、リアーナは任務として優先事項はカインとともに行く事にあると思っているようで直ぐに頷く。
しかし、彼女の身体は掃除の途中でリュミナがぶちまけた水などで汚れており、公式の場所には出れないのではないかと心配している。
カインは彼女の様子に小さく口元を緩ませると心配ないと答え、リュミナに頭を下げた後、リアーナを連れて転移魔法で王都に向かう。