第380話
「一先ずは先方も忙しい方なので、しばらくはこの村でお過ごしください」
「は、はい」
「……何で、俺の家なんだよ」
翌日になり、リュミナをそのままフォルムに留めておくのは危険と判断したカインはジークとノエルを連れてジオスへと転移魔法で飛ぶ。
リュミナ達は物珍しいようでジークの家の中をキョロキョロと見ている。
ジークはその様子を横目で見ながら、フォルムはザガードからの追手の心配もあり、反対はできないのだが1国の王女を自分の家に住まわせる事になるとは思っていなかったため大きく肩を落とす。
「ジークさん、立ってないでお掃除しましょう。フォルムにいたから埃がたまっているんですから」
「あー、わかってるよ。カイン、リュミナ王女がここに身を隠している事がザガードの人間にばれるような事はないんだよな?」
ノエルはしばらく、留守にしていたため、汚れている家の様子に掃除道具を引っ張り出して来て掃除を始めようとする。
ジークは心配事は極力減らしたいため、安心できる言葉をカインに期待するように聞く。
「大丈夫じゃないかな? 2、3日だし、問題があるとしたら……住人の襲撃かな?」
「……新しい住人が増えたと思って押しかけてくるだろうな」
「そ、そうですね」
カインはジオスは重要拠点でもなく、こんな田舎まで間者がくる事はないと判断しているようだが、1番厄介なのは村の住人達であり、説明などをどうするかと考えているようで大きく肩を落とす。
その様子にジークとノエルは苦笑いを浮かべるものの、面倒事はカインに押し付ける事を決めたようで掃除を始める。
「それじゃあ、俺は親父やシルドさんに話をしてくるから、しばらくの間、よろしくね」
「あぁ、間違っても、村の連中にここに王女様がいるってばれないようにしろよ」
「それに関しては俺より、ノエルの方がばらしそうだから、俺に言わないでくれ」
「そ、そんな事はありません!?」
カインは村長である父親とシルドくらいには状況を説明してリュミナ達を保護して貰う必要があるため、店を出て行こうとするも余計な一言は忘れておらず、ノエルは全力で否定するが、その時にはすでにカインは店を出ている。
「それじゃあ、始めるか?」
「はい」
恨めしそうな表情でカインが出て行ったドアへと視線を向けているノエルの肩をジークは軽く叩くと掃除を始めようと言う。
ノエルは納得はいかないもののいつまでも遊んではいられないため大きく頷いた。
「あの、ジーク、カインが信頼しているのはこの村の村長と言う事ですか?」
「いえ、違いますよ。ここはあくまで一時的なものです。誰かは見当が付いていますがカイン本人が言わないなら、俺が推測で話すわけにもいかないので何とも言えません」
「そうですよね。いくら何でも1国の姫が身を隠すには」
リアーナはリュミナの保護先がジオスのような田舎だとは思っていなかったのか、ジークに問う。
ジークはその問いに苦笑いを浮かべるもカインがエルトの名前を出さない事もあるため、待って欲しいと答えた。
その答えにリアーナ達騎士はほっとしたようで胸をなで下ろすが、その言葉はジークの店にリュミナを隠している事が不満なのが目に見えてわかる。
「まぁ、仕方ないか?」
「今の言葉は聞き捨てなりません。ジークさんに謝りなさい」
ジークはリアーナ達の様子にムッとしたようだが、平民と貴族には差がある事もり合いしているため半ば諦めた様子で小さくため息を吐いた。
その様子に気が付いたリュミナは臣下であるリアーナ達のジークをどこか見下した態度に腹を立てているようでジークに対しての非礼を詫びるように言うが、騎士達はなぜ、リュミナが腹を立てているのがわからない様子である。
「別にかまいませんよ」
「そう言うわけにもいきません。この者達は国を追われた私に付いてきたとは言え、ザガードの騎士なのです。他国での非礼は祖国の恥になります」
ジークは自分の周りの貴族や騎士達は平民にも有効的だが、シュミットのように平民を小バカにする人間にも出会っているため、気にする気はないようだが、リュミナは示すがつかないと思っているようであり、しっかりとジークを見据えて言う。
その姿は凛としており、国を追われたとは言え、その血に宿る威光は消えていない。
「臣下の非礼は私の非礼です。この者達が迷惑を」
「ストップ。何度も言わせないでください。俺は気にしていませんし、それにリュミナ王女が俺に謝るもの何か違いますよ」
リュミナはリアーナ達がジークに詫びるのを待っていられなくなったようでジークに謝罪の念を告げようとする。
しかし、ジーク自身はリュミナに謝られる事に違和感を覚えているようで彼女の言葉を遮った。
「俺は平民なんで、誰かの代わりに他の誰かが謝るのって違う気がするんですよ。責任ってのは各自にあるんです。確かにリュミナ王女にとってはリアーナ達は家臣なのかも知れないけど、それって責任の押し付けですよ。リアーナ達は俺達の事を何も知らないから失礼な事を言った。でも、リアーナ達はそれを失礼ない事だと理解していない。それだけの事です。実際、俺も今、リュミナ王女達がどれだけ微妙な立場にいるかもわからないですからね。フォルムからはかなり離れた場所に移動はしましたが、ザガードの国の人間がこの国に侵入していないとは限らないですし、こんなところじゃ、リュミナ王女を守りきれるかわからないから、ピリピリしてるんでしょう」
「ジークさん、あの言葉をもう少し選んではどうでしょうか?」
ジークはリュミナには何も思うところはないようだが、リアーナ達騎士にはやはり思うところもあるようで気にしていないと言うがその言葉にはとげがあり、ノエルはジークが怒っているのではないかと不安になったのか、彼の服の袖を引っ張る。
「あー、悪い。取りあえずは座っていてください。騎士様達は掃除なんかできないでしょうし」
「いえ、私にも掃除の仕方を教えていただけませんか?」
「リュ、リュミナ様、何を言っているのですか!?」
「しばらくはここでお世話になるのです。ジークやノエルはフォルムでお仕事もあるようですのでこれ以上の迷惑をかけるわけにはいきません」
ジークはノエルに声をかけられた事で、冷静になろうとしたのか自分の両頬を軽く叩くと掃除を再開しようとすると、何を思ったのかリュミナは掃除を手伝うと言いだす。
彼女の突拍子のない発言にリアーナは驚きの声を上げ、リュミナを説得しようとするがリュミナの意思は決まっており、掃除用具の中から雑巾を手にして気合いを入れている。
「……ノエル、とりあえず、エプロンくらいいるかな?」
「そ、そうですね。ちょっと、取ってきます」
平民の生活に溶け込もうとするリュミナとその様子に戸惑っている臣下の様子にジークとノエルはどう対応して良いのかわからないようだが、リュミナは頑固そうに見えるため、ジークとノエルは説得を諦めたようでリュミナの服が汚れないように準備を行う。