第376話
「どうして、疑うかな?」
「……疑われるに充分な事をやっているからですわ」
ジークとフィーナの様子にカインは小さく肩を落とすと、セスは2人に全面的に同意しているようでカインを睨みつける。
「それは悪かったね。リアーナ様、席に戻っていただけますか? そして、詳しい話をお願いします。けして、悪いようにはしませんから」
「話してみてください。カインさんは絶対に力になってくれますから」
「……」
カインはセスにまで疑われた事に少なからずショックを受けたのか苦笑いを浮かべた後、リアーナに再度、説明を求め、お人好しのノエルはリアーナに協力する気になっており、リアーナを引き止めた。
リアーナはノエルとカインが嘘を言っていないかと見極めようとしているのかじっと2人の顔を見つめると彼女の様子にしばしの沈黙が広がる。
「……それをどう証明するつもりですか?」
「私が騎士の誇りと剣にかけて誓いましょう」
口を開いたリアーナは信用するに値する証拠を見せて欲しいと言う。
その言葉にカインより先にレインが騎士としてカインを信じて欲しいと真っ直ぐとリアーナを見つける。
「騎士の誇り……失礼ですが?」
「申し遅れました。レイン=ファクトです」
「レイン=ファクト? なぜ、ファクトの名を持つ者がこのような場所に?」
「カインの手助けをしたいと思ったんです」
レインは名乗っていない事に気づき、1度、頭を下げる。
リアーナはレインの家名であるファクトの名に驚きの声を上げるが、レインは純粋にカインの補佐をするためにフォルムまできたと笑い、リアーナは再び、考えこみ始める。
「レインの実家って、やっぱり有名なんだな。リアーナが本当に隣国の騎士だとしたら、隣国まで名前が知れてるって事だろ?」
「……ザガードの騎士ならファクトの名前を知っていてもおかしくはないですわ」
レインとリアーナの様子にジークは改めて、レインが名家の生まれだと実感したようで頭をかく。
その様子にセスはファクト家とリアーナの出身国である隣国の『ザガード』出身なら当然だと頷いた。
「……私はザガードの第3王女のリュミナ王女に仕えています」
「王女様に仕えているとは思ったけど、第3王女か……ザガードの後継者争いはずいぶんと血みどろみたいですね。それも最近、国境付近での争いがなくなってきた理由かな?」
「でしょうね……しかし、カイン=クローク」
「わかってるよ。ザガードは大国だね。きっと優秀な人間も多いんだろうね。無能な人間も多いだろうけど」
リアーナは仕えている主の名前を話し、カインはザガードでは後継者争いで国外に戦争を仕掛ける余力がない事を理解したようで小さく頷いた。
セスはリアーナの言葉に何か思う事があるようでカインの名前を呼ぶと、カインも同じ事は考えていたようでザガードのすぐそばのフォルムでさえ、ザガード内での後継者争いの噂も聞こえてこない事にザガードの国力の大きさにため息を吐く。
「……その騎士様は素人の仕掛けた罠に引っ掛かるけどな」
「ジークさん、今はそれを言う事じゃないと思います」
「そうだな」
隣国であるザガードの事を知らないジークは状況が理解できていないようであり、リアーナが優秀な人間かどうか考え込み始める。
ノエルは余計な事を言って話が中断してしまっては困るため、ジークに黙るように言い、ジークはバツが悪そうに頭をかいた。
「とりあえず、リュミナ王女の身を守るために我が国『ハイム』に逃げ込みたい。だけど、戦争を繰り返してきた国相手ではリュミナ王女の身の安全が確保できない。だから、民衆を味方につける方法を選ぼうとした」
「そうですね……情報が少な過ぎたようですが」
カインはリアーナ達の考えを予測したようであり、リアーナは事前に情報を集める事ができなかった事を反省しているようで小さく肩を落とす。
「まぁ、そのおかげで、リュミナ王女が身を隠す方法ができたんだからちょうど良いんじゃないかな? とりあえず、リュミナ王女は国境付近まで逃げる事が出来ているんです。しばらくは庶民な生活もできますね?」
「……問題ありません。私達の使命はリュミナ様を守る事ですから、それにリュミナ様を守るために散って行った仲間のためにも私達は進まなければいけません。リュミナ様も理解してくれています」
「それじゃあ、王女様を迎えに行きますか? 森の奥で王女様に一晩を明かせるわけにもいかないしね。ジーク、行くよ」
カインは直ぐに動くにしてもいろいろと準備をする事があるようであり、リアーナにリュミナの事を聞く。
リアーナはリュミナを使えるべき君主をして尊敬しているようであり、大きく頷くと立ち上がり、リュミナを迎えに行くとジークに声をかける。
「……おい。お前、本当に王女様が隠れてるって知らなかったのか?」
「うーん。いくつか、怪しい動きをしている人間がいる事は知ってたよ。使い魔で監視してたしね。ただ、それがザガードの王女様だとは気がつかなかった」
ジークはカインの言葉に反対する気はないようだが、何か引っかかっているようで本当は全部知っていたのではないかと言う。
カインは疑いをかけられているためか苦笑いを浮かべて否定すると、その言葉が嘘か本当かはっきりない事もあり、ジークは納得がいかなさそうに眉間にしわを寄せる。
「カインさん、わたしも行きましょうか?」
「いや、リアーナ……あー、騎士だってわかったわけだし、リアーナ様って呼ばないとダメですか?」
「いえ、そのままで構いません。私達は追われている身ですから」
「そう。俺とジーク、リアーナの3人で行ってくるよ。夜だし、大人数で動くのは目立つから、後、レイン、これを預けるよ」
ノエルは自分も手伝うと手を挙げると、カインはノエルの提案を断った後、レインに隠し財産を置いてある部屋のカギを預けた。
「でも」
「ノエル、私達は王女様を受け入れる準備をしましょう。寝所は無理でしょうけど、夜は冷えますから、温かい食事とお風呂、毛布も要りますね。明日の朝のために下準備をしていた物が役に立ちそうです」
「わかりました」
ノエルはジーク達と一緒に行きたいようだが、ミレットは屋敷に残る者にも準備をする事があると言い、ノエルはミレットの言葉に大きく頷く。