第375話
「カイン、俺もセスさんの意見に賛成なんだけど、いくら何でもそれはない」
「いや、実際、隠し財産とかこの子の前で言っちゃったけどさ。俺、曲がりなりにも領主だし、そっちが目的とは限らないだろ。先代は評判悪かったから、領主が交代したのも知らない義賊気取りの痛い子かも知れないかも知れないし、フォルムには隣国からの脱国者もいるから、純粋にお金に困ったって可能性もあるしね」
セスの言葉に概ね賛成のジークは考え直すように言うが、カインは笑顔で侵入者の身の上話も聞いてみないとわからないと言う。
「……」
「レイン、どこでダメージ、受けてた?」
「……義賊気取りの痛い子のところです」
侵入者の女の子はカインの話の途中で痛いところを突かれたようで肩を震わせており、カインは流石に冗談で言っていたようで、女の子の反応に居間は微妙な沈黙に陥ってしまう。
「と、とりあえず、盗みは悪い事ですから事情を話してくれますか?」
「そうですね。領主様もカインさんに交代していますし、力になれる事があるかも知れないですから話してみてください?」
この沈黙に耐えきれなくなったのか、ミレットが女の子に事情を説明するように提案するとノエルは大きく頷き、視線は女の子に集まる。
「……力になる? こんな現実も知らない者にか?」
「現実を知らないから、知ろうとする事は出来ますよ。少なくとも私は自分の目で見て、自分の耳で聞いた事を精査し、必要なものは取り入れ、助けが必要な者には手を差し伸べたいと思っています」
女の子は捕まってしまった事への恥ずかしさがあるのか、カインを睨みつけて言う。
その視線にカインは怯む事などなく、真っ直ぐに見返して答える。その表情はいつもの悪ふざけをしているカインとは異なる若くしてエルトの懐刀として仕え、領主にまで上り詰めた男の顔である。
「でさ、結局、この子、何しにきたの? 夜も遅いし、そろそろ、眠いんだけど」
「フィーナ、お前、相変わらずのマイペースだな」
カインが真面目な表情をしているなか、フィーナは夜食とお茶でお腹が膨れたのか眠そうに欠伸をし始める。
緊張感のない彼女の様子にジークは大きく肩を落とす。
「まぁ、あまり遅くなると明日の仕事にも影響が出ますからね」
「そうだね。取りあえず……カイン=クロークです。先日から国王様よりフォルムの地を治めるように命を受けました」
「リアーナだ」
レインはジークとフィーナ様子に苦笑いを浮かべるとカインは女の子に向かい名乗り、フォルムの領主になった経緯を簡単に説明する。
女の子は領主が自ら名乗った事もあり、逃げだす事もできない状況に偽名か本名かは定かではないが『リアーナ』と名乗る。
「それじゃあ、リアーナ、聞かせて貰おう。君は私にこの地に何を望みますか?」
「……この地は難民を受け入れるだけの余力はあるか?」
「難民?」
カインはリアーナに問うと、リアーナは小さな声で聞き返した。
その表情からは余裕も時間もなさそうに見え、カインは先日からフォルムの財政整理を手伝ってくれているセスへと視線を向けた。
「……人数がはっきりしなければ何とも言えませんわ。先日の隠し財産もそれなりの額がありましたから、それなりの人数を受け入れる事は出来ますが」
「そうだね。リアーナ、ちなみにどれくらいの人間を匿って貰いたいんだい?」
セスは人数がわからなければどうにもならないと首を横に振り、カインは小さく頷いた後に彼女がわけありな事は理解できたようで真っ直ぐと彼女に向かい聞く。
「……」
「黙るのは良くなんじゃないか? 少なくともこっちはそっちに協力しようとしているんだ」
リアーナはその問いに答える事はなく黙りこんでしまい、ジークは状況が理解できない事もあるせいか頭をかく。
「あの、カインさん、どう言う事ですか?」
「きっとね。このリアーナって子は隣国の騎士。そして、守るべく主を匿う場所を欲しがっている。沈黙は肯定ととらえるけど問題ないですね」
カインの様子から、彼は何かに気が付いていると思ったようでノエルは首を傾げる。
カインは苦笑いを浮かべるとリアーナを他国の騎士だと言い、リアーナへと視線を向けるとリアーナは小さく頷いた。
「騎士ですか?」
「まぁ、本職があんな罠に引っ掛かるわけがないよな。となると……おっさんの同類か? レイン、騎士は罠を踏みつぶせって教えでもあるのか?」
「……確かにラース様は罠があっても突っ切りそうですけど、そんな教えはありません」
思いもしなかったリアーナの正体にノエルは驚きの声を上げ、ジークの中にある騎士像はラースと言う偏ったものであるため、眉間にしわを寄せる。
レインはラースだけで騎士を決めつけないで欲しいと大きく肩を落とした。
「そう考えるとあんたは悪徳領主ね。ぴったりじゃない」
「隣国から国を追われた王族が評判の悪い奴らを成敗して人気を集めて再起を計る」
「しかし……残念な事にカイン、フォルムに来てから人気ありますよね」
フィーナはカインは悪役にぴったりだと言うと、カインはリアーナの仕える主の浅はかな考えに頭をかく。
レインは状況が理解でき始めたようで眉間にしわを寄せるとフォルムに着任してきてからのカインの働きを見てきたためか、リアーナの考えに納得できないようで眉間にしわを寄せた。
「……レイン、それはお前が色眼鏡で見すぎだ。こいつはそんな人間じゃない」
「まったくよ。どうせ、今は善人ぶってるだけで、後で何かしでかす気よ」
「あ、あの、ジークさん、フィーナさん、それは言い過ぎじゃないかと思います」
レインの言葉をジークとフィーナは否定し、ノエルは苦笑いを浮かべるとカインに怒られると思ったようで2人の服を引っ張る。
「まぁ、こんな事を言われてますが、現状は健全に領地運営をしているわけです。と言うか、俺の予想通りだと追っても来るだろうし」
「……フォルムを守るために置いておくわけにはいかないと言う事ですね」
カインの言葉は領主としてフォルムの民を守るためにリアーナとその主を受け入れる事はできないと聞こえ、リアーナはこれ以上は話す事はないと思ったようでソファーから立ちあがった。
「そうですね。こんなに近い場所で匿うわけにはいきませんね。ただ……」
「あの顔はまたろくでもない事を考えているわね」
「そうだな」
カインはリアーナの力になる気ではあるようで口元を緩ませており、その表情からジークとフィーナはカインがまた悪だくみを思いついたと思ったようで大きく肩を落とす。