第374話
「……これ、どうしたら良いと思う?」
「ど、どうしましょうか?」
ミレットが部屋に戻ってから、ジークが1人で見張りをしているとノエルが顔を出す。
明日もあるため、ジークはノエルに眠るように言ったが、彼女は聞かず、彼女の眠気が来るまで2人で庭の様子を眺めていると小さな悲鳴とともにジークの仕掛けた罠が発動した音が聞こえ、庭木に釣りあげられた人間が見える。
ジークは罠を仕掛けてはみたものの、実際に罠にかかるような人間はいないと思っていたため、状況が理解できないようで眉間にしわを寄せ、ノエルは苦笑いを浮かべた。
「ノエル、とりあえず、カインを起こして来てくれるか? 俺はあれが囮で他から侵入しようとしていないか見てくるから」
「わかりました……あの、あの人はそのままで良いんですかね?」
「とりあえず、カインが来てからにする。目的は何かわからないけど、こんな時間に勝手に領主の屋敷に忍び込んだんだから反省くらいさせないとな」
「わかりました」
ジークは自分で判断するよりはカインに丸投げしようと思ったようでノエルにカインを起こしてきて欲しいと頼み、ノエルはカインの寝室に向かって行く。
「しかし……罠にかかるような人間がいるとは思わなかったね」
「自分で仕掛けておいて言うのもなんだけど……足を洗った方が良いと思いますよ」
ノエルに起こされたカインの指示で、罠にかかった人間を木から下ろし、縄で縛ると居間に移動する。
カインはまだ頭が起ききっていないようで開ききっていない目で、侵入者を見てため息を吐き、ジークは専門家でもない自分が仕掛けた罠に引っ掛かるなら足を洗った方が良いと忠告する。
「あの、ジークさん、カインさん、お茶の用意ができましたけど、このままだと話し難いですし、手の縄くらい外してあげても良いんじゃないでしょうか?」
「いや、侵入者の縄を解くのは流石にダメでしょう」
ノエルはカインが侵入者から何かを聞き出そうとしていると思ったようで話が長くなると思い、人数分のお茶を淹れて居間に顔を出すと騒ぎで目を覚ましたのか、フィーナが欠伸をしながら居間に顔を出す。
「そうですかね? でも、手を縛ってるとお茶が飲みにくいですよ」
「……ジーク」
「ノエルにとっては侵入者でもお客様なんだから仕方ない。だいたい、フィーナ、お前もこの間まで侵入者で窃盗犯だったんだから仕方ないだろ」
ノエルにとっては相手が侵入者だと言う認識は薄いようであり、フィーナは彼女の反応に眉間にしわを寄せ、ジークに何か言えと言う視線を送る。
ジークはノエルの性格では仕方ないとため息を吐いた後、フィーナに余計な事を言う。
「……相変わらず、細かい男ね」
「細かくはない。カイン、どうする?」
フィーナはシュミットと会う事で色々と反省した事もあり、納得はいかなさそうな表情をするものの反論する事はない。
ジークはそんな彼女の姿に苦笑いを浮かべると屋敷の主であるカインに侵入者をどうするか聞く。
「えーと、ジーク、お茶菓子ってなかったけ?」
「……領主も緊張感がないな」
「……私、セスさんを呼んでくるわ」
しかし、カインはお茶にはお茶菓子が必要だと思ったようで、キッチンに移動してお茶菓子を探し始めており、キッチンからは緩い声が聞こえる。
その姿にジークは眉間にしわを寄せるとフィーナはこの緩い空気では話がまったく進まないと思ったようで空気を引き締めるためにセスを呼びに居間を出て行く。
「……それで、この深夜にこの緩いお茶会は何なんですか?」
「セスさん、俺に聞かないでください」
フィーナに叩き起こされたセスは意味のわからないこの状況に眉間にしわを寄せる。
誰の目から見ても、セスが怒っている事は解り、ジークは顔を引きつらせながら自分は悪くないと言う。
「コーラッドさんまで起きてきたんだ? あれだね。レインとミレット様も起こそうか?」
「……収拾つかなくなるから止めろ」
セスが起きてきた事に気づき、レインとミレットも起こすかと言いだし、ジークは大きく肩を落とした。
「……すいません。起きてきてしまいました」
「眠れなかったんですが、下から声が聞こえたんで」
「お茶、用意してきますね。ジークさん、何かお腹に入れるものも作りましょう」
その時、気まずそうな表情でレインとミレットが顔を出し、ノエルはジークをキッチンに引っ張って行く。
「で、結局、この人、何しにきたの?」
「お茶飲みに?」
「……どうして、そうなるのですか?」
フィーナはジークとノエルが作った軽食を口に運びながら、既に縄を解かれ、居心地悪そうにソファーに腰をかけている侵入者に視線を向ける。
カインは目的などわかりきっているが冗談を言うとセスはカインを睨みつけ、くだらない事を言うなと言う。
「とりあえず、あの、それ、邪魔じゃないですか?」
「……ノエルさん、それを言ってしまいますか」
「取りなさいよ。せっかく、美味しいお茶をノエルとジークが淹れたんだから」
「フィーナ、お前はもう少し空気を読め」
侵入者は流石にそのまま侵入するまで間抜けではなかったようで布で顔と身体を隠しており、ノエルは深夜のお茶会と言う事で特に何も考える事無く、布を取るように言う。
レインはその布は侵入者のプライドのため、それを取るのは酷だと首を横に振るが、フィーナは侵入者が顔を隠している布を素早く取り、その様子にジークは大きく肩を落とした。
「あれ? 女の子?」
「……」
「毒は入ってないから、食べたら?」
侵入者はジーク達と同年代の女の子であり、彼女は慌てて顔を隠そうと手で覆うが、既に遅くフィーナは驚きの表情をする。
少女は顔を見られてしまっては逃げる事もできず、殺される可能性も充分にあると言う自分の立場を理解しているのか、屋敷の主であるカインを睨みつけるがカインには相変わらず緊張感はない。
「……これで良いのか?」
「良いの。良いの。目的がわからないから何とも言えないし、とりあえず、目的を聞いて、隠し財産を使う価値がある事をする気なら、融資すれば良い。盗むより、その方が効率も良いしね」
「理解ができませんわ」
侵入者相手でも緩いカインの様子にジークは眉間にしわを寄せるが、カインは侵入者が何を考えているか聞くつもりであり、常識から外れたカインの言葉にセスは眉間にしわを寄せている。